62 ミハイロフ邸にて
「アレクセイ!これを―」
帰り際ユリウスが渡した一枚の手紙。
それは母が息子にあてた手紙だった。
「ミーチャに渡して。それから愛してるって…伝えて」
アレクセイを見送ったときのユリウスは、もう晴れやかな顔をしていた。
彼女の穏やかな顔を、西に落ちかけた陽が優しく照らした。
「ああ。渡しておくよ。…元気でな。無茶するなよ」
アレクセイが今一度彼女の肩を優しく抱き、額に、頬に、そして唇にキスをした。
そしてその大きな手を優しく彼女の腹部に当てる。
「お前もな…母様を守ってやってくれな」
お腹に優しく話しかけると、もう一度ユリウスの髪を撫で、アレクセイは妻の元を―、ミハイロフ邸を後にした。
作品名:62 ミハイロフ邸にて 作家名:orangelatte