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63 脱出Ⅰ

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「なぜ?ロストフスキーさん。なぜ…こんなことをするの?なぜ…レオニードは、こんな酷いことをしたの…?なぜ?」

先程から目の前の金の髪の女性に突き付けられ続けている無数の「なぜ?」

―ミハイロフ邸を襲わせるように民衆を仕向けたのはレオニードの仕業なの?

―なぜ、レオニードはこんなに酷いことをしたの?

―なぜ、罪もないおばあさまやオークネフを襲わせたの?

―なぜおばあさまたちを巻き込んだの?

出産間近の大きなお腹を抱えた、金の髪の―主の想い人から突き付けられた「なぜ」にロストフスキーは思わず彼女から目を逸らせる。

「…ねえ!答えて!!ぼくを囮に使いたかったのだったら…ぼくだけを攫えばよかったじゃない!…ねえ、なぜ…信じていたのに。彼の人としての優しさを信じてたのに…」

ユリウスが目をそらして沈黙し続けるロストフスキーに縋る。

「…ねえ。答えて!ロストフスキーさん!!」

ユリウスの悲鳴に近い追及にロストフスキーが重い口を開く。

「…信じてたのに…なんだ?」

「…え?」

「信じていたのに…裏切られた、か?やっぱりあの男は…血も涙もない氷の刃だった…か?彼の優しさは…何だというのだ?― あの方が…ユスーポフ候が…苦しまなかったとでも思っているのか?あなたを…ただ一人愛したあなたを苦しめ悲しませるようなことをしてまで、こんなことに加担しなくてはならない侯の苦悩が…では、あなたに理解出来るのか?」

ロストフスキーがユリウスの両手を掴んで、彼女の「なぜ」に逆に問いかける。
ユリウスの両腕を掴んだ彼の両手に力が入り、絞り出すようなその言葉は最後には絶叫となっていた。

― 候とて…こんな事はしたくなかったんだ。…誰よりも高潔で卑怯な事を忌み嫌う侯が…なぜ…。

ロストフスキーは彼女の腕から手を離すと、項垂れその場に座り込んだ。

「ロストフスキーさん…」

力なく項垂れ声を殺して涙するロストフスキーの背中に、思わずユリウスが手を差し伸べる。

ユリウスは震える彼の大きな背中を、撫で続けた。

作品名:63 脱出Ⅰ 作家名:orangelatte