63 脱出Ⅰ
「…やめた。あなたを―逃がす」
ユリウスに背中を優しく背中を撫でられていたロストフスキーが、ぽつりと呟いた。
「…え?」
「あなたを…逃がす。だが…誤解するな。これは―、あなたのためではなく、彼の…ユスーポフ候の御為にやるのだ。…彼の高潔な…気高い魂を…こんなことのために汚したくないから…彼の魂をこんなおぞましい計画のために汚すのは…耐えがたいから。だから私はあなたを逃す…」
― ここから、脱出するんだ。危険を伴うけど…出来るな?
ロストフスキーの薄い色の瞳がユリウスの碧の瞳を見据え、覚悟のほどを問うた。
その問いにユリウスは大きく頷いた。
作品名:63 脱出Ⅰ 作家名:orangelatte