65 脱出3~再会
休み休み小一時間ほど歩くと、やがて半年前まで家族で暮らしていたアパートが見えて来た。
ゆっくりと階段を上がり、自分の部屋の前に立つ。
当たり前だがアレクセイもミーチャも不在で鍵は閉まっていた。
ユリウスは壁板の一枚の隙間に指先を入れると、ゆっくりとその板を持ち上げた。
剥がした壁板の裏に貼り付けられていた合鍵を使ってドアを開ける。
冬の終わりに街中で倒れて以来の―、実に半年ぶりの我が家だった。
― 帰って来た…。
ユリウスはそのまま閉めたドアに寄りかかって、安堵から玄関に崩れ落ちた。
部屋を見渡すと、さほど散らかってはいないものの、いたるところ―、キッチンのシンクや棚の上など―、にうっすらと埃がたまり、閉め切られた部屋の空気も淀み、人の生活している気配がそこには感じられなかった。
取り敢えずユリウスはカーテンと窓を開けて室内を換気し、テーブルの上や棚の上など目立つ部分の埃を払った。
薄暗くどよんとした部屋に光と外の空気が入り、部屋に生気が蘇る。
お湯を沸かして、お茶を淹れる。
我が家の長椅子にかけて飲むお茶は彼女のここ数日の緊張した心と体を一気に解した。
そのままお茶を一息に飲み干すと、緊張の解けた彼女に急激な眠気が襲って来た。
― あぁ、…帰って来た…かえって…き…た。
そのまま彼女は長椅子に身体を横たえ、泥のような眠りについた。
その日の夕方頃、アレクセイは着替えを取りに自宅アパートへ戻った。
アパートの前について自室の方をふと見上げると、開いた窓からカーテンが夕日にはためいているのが見えた。
― まさか!?…いや、でも…。
アレクセイは逸る気持ちで、アパートの階段を駆け上がる。
ドアの横の壁板を見ると―、そのうちの一枚が僅かに持ち上がっている。
― あいつ!!
もどかしい手つきで鍵を開けて、部屋へ駆け込む。
「ユリウス!」
部屋へ駆け込んだアレクセイの目に入ったのは―、リビングの長椅子で泥のように熟睡しているお腹の大きな妻の姿だった。
誰の服なのかはわからないが、どこかの女中のようなエプロン姿で、最後に見た時には腰まであった髪は短く切られ、そのせいかその寝顔はあどけなく、どこか少年のようにも見え―、出会ったばかりの頃の性を偽っていたあの頃の彼女を思い出させた。
やがて、夕方の冷たい風に彼女は小さく身震いし、「クシュン!」と一つ小さなくしゃみをすると、長いまつ毛をゆっくりと持ち上げた。
寝起きのやや潤んだ碧の瞳が、アレクセイの姿を捉える。
潤んだ瞳に忽ち涙が溢れだす。
「アレクセイ!」
彼女が長椅子から起き上がろうとした、それより一瞬先にアレクセイの両腕が彼女を強く強く抱きしめた。
「よく…帰ってきてくれた。よく…無事でいてくれた…」
抱きしめられた彼女の肩を、夫の涙が濡らした。
ゆっくりと階段を上がり、自分の部屋の前に立つ。
当たり前だがアレクセイもミーチャも不在で鍵は閉まっていた。
ユリウスは壁板の一枚の隙間に指先を入れると、ゆっくりとその板を持ち上げた。
剥がした壁板の裏に貼り付けられていた合鍵を使ってドアを開ける。
冬の終わりに街中で倒れて以来の―、実に半年ぶりの我が家だった。
― 帰って来た…。
ユリウスはそのまま閉めたドアに寄りかかって、安堵から玄関に崩れ落ちた。
部屋を見渡すと、さほど散らかってはいないものの、いたるところ―、キッチンのシンクや棚の上など―、にうっすらと埃がたまり、閉め切られた部屋の空気も淀み、人の生活している気配がそこには感じられなかった。
取り敢えずユリウスはカーテンと窓を開けて室内を換気し、テーブルの上や棚の上など目立つ部分の埃を払った。
薄暗くどよんとした部屋に光と外の空気が入り、部屋に生気が蘇る。
お湯を沸かして、お茶を淹れる。
我が家の長椅子にかけて飲むお茶は彼女のここ数日の緊張した心と体を一気に解した。
そのままお茶を一息に飲み干すと、緊張の解けた彼女に急激な眠気が襲って来た。
― あぁ、…帰って来た…かえって…き…た。
そのまま彼女は長椅子に身体を横たえ、泥のような眠りについた。
その日の夕方頃、アレクセイは着替えを取りに自宅アパートへ戻った。
アパートの前について自室の方をふと見上げると、開いた窓からカーテンが夕日にはためいているのが見えた。
― まさか!?…いや、でも…。
アレクセイは逸る気持ちで、アパートの階段を駆け上がる。
ドアの横の壁板を見ると―、そのうちの一枚が僅かに持ち上がっている。
― あいつ!!
もどかしい手つきで鍵を開けて、部屋へ駆け込む。
「ユリウス!」
部屋へ駆け込んだアレクセイの目に入ったのは―、リビングの長椅子で泥のように熟睡しているお腹の大きな妻の姿だった。
誰の服なのかはわからないが、どこかの女中のようなエプロン姿で、最後に見た時には腰まであった髪は短く切られ、そのせいかその寝顔はあどけなく、どこか少年のようにも見え―、出会ったばかりの頃の性を偽っていたあの頃の彼女を思い出させた。
やがて、夕方の冷たい風に彼女は小さく身震いし、「クシュン!」と一つ小さなくしゃみをすると、長いまつ毛をゆっくりと持ち上げた。
寝起きのやや潤んだ碧の瞳が、アレクセイの姿を捉える。
潤んだ瞳に忽ち涙が溢れだす。
「アレクセイ!」
彼女が長椅子から起き上がろうとした、それより一瞬先にアレクセイの両腕が彼女を強く強く抱きしめた。
「よく…帰ってきてくれた。よく…無事でいてくれた…」
抱きしめられた彼女の肩を、夫の涙が濡らした。
作品名:65 脱出3~再会 作家名:orangelatte