65 脱出3~再会
「母さん!」
「ミーチャ!!」
― 会いたかった…会いたかった!!ムッターの宝物…。
父親に連れられズボフスキー家から戻って来たミーチャが、母親の顔を見るなり弾かれたように駆け寄り、母親の柔らかな身体を抱きしめた。
別れ別れになった日にはまだまだ子供の面影を色濃く残していた愛息は、この半年で母親の背丈を抜き去り、体格もしっかりとしてきて、だんだん青年の気配をその身体に纏わせるようになっていた。
「ムッター…髪」
父親によく似た長い指をもった手がユリウスの頭に伸びる。
「えへへ…ちょっと色々あって…。変かな?」
保護された先であわや命を落としかけた事を息子に気取らせまいと、わざとおどけた口調で答えた母親に、ミーチャはそっと母親の小さな金の頭を撫でてかぶりを振る。
「ううん…。全然変じゃないよ。ムッター美人だから。ショートヘアも可愛い」
大きな両手で母親の小さな金の頭を包み込み、おでことおでこをくっつき合わせて優しく囁いた―、その息子の声は少し掠れていて…声変わりの始まりの兆候を見せていた。
「ミーチャの手…、お父さんにそっくりだ。ムッターの大好きな手が、あなたに受け継がれていて…嬉しいな。それに…」
ユリウスの白く細い指が息子の喉元に優しく触れる。
― 声変わりが始まったんだね…。あなたも大人の…立派な青年に成長してるんだね…。
素敵な男性になって…。あなたの父様みたいな…。伯父様みたいな。
ユリウスが再び息子を優しく抱きしめて、その温もりを確かめる。
「生きてるって…素晴らしいね、ミーチャ」
「うん。…あ!」
母親に抱きしめられたミーチャが感じたのは、母親のお腹の中の彼の兄弟の胎動だった。
「最近…出産間近になって、もうほとんど動くこともなかったのに!」
思いがけない新しい家族の挨拶に…二人は思わず顔を見合わせて笑った。
「お~い、ジャガイモが茹で上がったぞ!」
―こんなものしかないが…夕飯にしよう。
キッチンからアレクセイの声が聞こえた。
「は~い」
ミハイロフ家の時間が―、再び動き始めた。
作品名:65 脱出3~再会 作家名:orangelatte