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66 災厄Ⅰ

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「ユリウスや…お逃げ!」

暴徒と化した民衆が雪崩れ込んで来たミハイロフ屋敷。

殺意に駆られた人間は、手に武器を持って、皆が避難していた一番奥の間まで押し迫って来た。

「おばあさま!オークネフ…離せ!」

屋敷の人間を庇って武装していた身重のユリウスをロストフスキーが抱えるようにして保護した後にヴァシリーサとオークネフの残された部屋のドアが破られる。

「いたぞ!この強欲な貴族め!」

「裏切り者アレクセイの肉親を血祭りに上げろ!」

「ヒィ…」

部屋に進入して来た、大鎌や棍棒を手にした民衆に二人は声にならない悲鳴をあげる。

その時ー

ヒュッ!

外から放たれた一迅の矢が窓ガラスを割ってその暴徒の足元に刺さった。暴徒の足元から忽ち火が燃え上がる。

暴徒が怯んだ所に2本目、3本目の矢が次々と射込まれ、暴徒らに命中していく。

「グワ!」

混乱した部屋の中の暴徒とヴァシリーサ、そしてオークネフの前に、窓から3人の東洋系の武装した人間が入って来た。
あっと言う間に矢で射られた暴徒にトドメを刺し、二人の屈強な体格をした男がヴァシリーサとオークネフを背負う。

「振り落とされないよう…しっかり掴まってて下さいよ」

震える老人二人に、背負った二人が指示して、窓の外へ出る。

最後に入って来たー、二人より細身のその人物の顔に、ヴァシリーサとオークネフは思わず目を見開く。

「あなた(お前)は⁉︎」

背負われたまま二人は思わずその3人目の人物に向かって声を上げた。

「あなた方には随分と疎まれていたと思っていたのに…覚えていて貰えて光栄ですね。…久しぶりだな、婆ア」

その人物ー、リューバ・ウェイは、二人の老人に向かって、不敵に微笑んだ。

「あ、お嬢!次の奴らが来ますぜ!」

「ったく…。ウンカみたいに次から次へと。よし、援護するからお前ら先に下りろ!」

銃のロックを外したリューバが二人の男に指示する。

「合点!行くぜ、すぐだからちゃんと掴まってろよ」

男たちは、二人を背負い直すと、侵入して来た窓に足を掛け、予め設置しておいた滑車を使って速やかに3階のその部屋から庭へと脱出した。



「いたぞ!この部屋だ」

次々にやって来る暴徒に

「クソ!面倒くさい!…これでも喰らえ!」

リューバが顔をハンカチで覆うと懐から小さな玉を放った。
床に落ちて破裂したその玉は、白い煙と猛烈な刺激を放つ。

不意を突かれた暴徒たちが咳き込み涙ぐむ。

「ゲホ…なんだこれは」

「前が見えん」

「お嬢!早く」

下から先ほどの男らの声がする

「今行く」

そんな暴徒を尻目にリューバが窓から逃走して行った。

作品名:66 災厄Ⅰ 作家名:orangelatte