67 災厄Ⅱ
数日後ー
「それで?そのお屋敷をおばあ様たちの仮住まい兼ボリシェビキの臨時アジトとして使う事を思いついたわけ?」
ユリウスとミーチャが戻って来て、久々に家族が揃ったミハイロフ家。ベッドの中で夫からそのプランを聞かされたユリウスの碧の瞳が丸くなる。
「いい考えだろう?クシシェンスカ邸も軍に押さえられているし、ウチの支部の事務所も然りだ。場所はあるけど老人ばかりで人手が欲しいミハイロフ家にアジトが欲しい俺たち。正にウィンウィンだ」
アレクセイが両手の人差し指と中指ををクイックイッっと曲げてニっと笑った。
「でも…。貴族の屋敷を事務所に使うなんて…またトラブルにならない?」
ユリウスがミハイロフ邸を襲撃されたあの恐怖を思い出して心配そうに表情を曇らせる。
あのような恐怖には二度と遭遇したくないし、おばあ様にも二度と味あわせたくなかった。
「だーいじょうぶだ!…第一どこに貴族がいるって?うちは…ミハイロフ家は1900年に爵位を剥奪されてるから…とっくに貴族ではないんだよ」
あそこにいるのは、元貴族だったただの婆さんだ。な?あの屋敷を使うのに…なんの矛盾も問題もないんだよ。
アレクセイは得意そうに持論を展開させると、妻の頭を胸に抱きしめ、ワシャワシャと短い金の髪を撫で回した。
「うーん…。何だかうまいこと言いくるめられた感が…なくもないけどぉ。アレクセイたちが、それからおばあさま達が双方納得するのならば…とても合理的ないいアイデアだとは思う。…それよりゴメンね。本当だったらぼくがそのお屋敷の手入れに行かなければならないのに…」
「気にするな。お前は…頼むから無茶しないで出産に備えてくれ。な?」
ー とりあえずはミーチャも掃除に行ってくれると言ってるし、おばあさまもミーチャに、ひ孫に初対面して、それは嬉しそうにしてたから、しばらくはミハイロフ邸の事はあいつに任せようぜ。…さ、もう寝よう。お休み。
アレクセイはユリウスの白い額に口づけるとランプを消して忽ち眠りに落ちて行った。
作品名:67 災厄Ⅱ 作家名:orangelatte