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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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花、一輪

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 明日の天気の話でもしているかのような声音で喋りながら、首筋の周辺が弱点と認識したらしくその辺りを集中的に撫でる指先。悶え紅潮する顔を見せまいとするアンジェリークの身体にそっと覆い被さり、隠しきれない愛しさを瞳に滲ませて覗き込む。
「以前私があなたを可愛いと褒めたとき、言っていましたよね。『恋人に言ってあげたら』と。でもその後、あなたなんて言ったか覚えていますか?」
 アンジェリークにそう問いかけてはいるものの、ルヴァの手が次第に本能が司る未知の領域へと移行したせいでアンジェリークはまともに声を出すことさえできない。じわじわと間断なく与えられる刺激に意図せず漏れてしまう吐息に、せめて声が混じらないように我慢するのが関の山だ。
「あなたはね、『これから出会いは沢山ある』って言ったんですよ。それって、私に現在恋人がいないという前提のお話でしたよね……どうしてそう思ったんですか」
 どんなに抑えても微かに漏れ聞こえてくる喘ぎにぞくぞくと疼き上がる欲望を堪え、ルヴァは悪戯をし続けている手をひたと止めてアンジェリークを見据えた。
「だ……って、ルヴァにもし、そういう人がいたら……わざわざわたしに会いに来たりしなかったでしょ……違う?」
 途切れ途切れの言葉の合間で不安そうに揺れる翠のまなざしが潤んで宝石の輝きを放ち、その美しさに吸い込まれてしまいそうな感覚に陥りつつルヴァの手の甲がアンジェリークの鎖骨の下、なだらかな丘をゆっくりと通り過ぎる。既に服の上からも分かる主張に触れたとき、アンジェリークが羞恥に唇を噛み締め、精一杯息を殺している様子が窺えた。
「さあ……お世話になった方にちょっとご挨拶に、なんて話、ごく普通にあり得ると思いますがね……恋人がいたとしても」
「じゃ、じゃあ、もしかしてそういう人……いたの?」
 一切余裕のないアンジェリークの声から少しの嫉妬が感じ取れて、ルヴァは言いようのない感情の高ぶりに襲われた。
「いませんよ」
 ルヴァはアンジェリークの両手に指を絡めて床に押し付け、己の身で彼女の身体を潰さない程度に圧をかけ囁く。
「……欲しいのはあなただけです」

 服越しに分かる柔らかさに今すぐ貪り尽くしたい欲をなけなしの理性でどうにか押し退けて、そうっと唇を触れ合わせた。
 痺れるような陶酔の波が一度、二度、三度と次々に打ち寄せてきては、ルヴァの胸の奥に愛しさの結晶を残して去っていく。
 まるでアップ系ドラッグばりの恐ろしく甘い恍惚感────心と体どころか魂ごと何もかも浚われてしまいたいとすら思わせるほどの。

 沈みゆく月が庭を照らしていた。
 ルヴァは離れ難い様子でアンジェリークの頬に指を滑らせ、それから硝子戸の向こうで白く浮かび上がるジャスミンへと視線を移してゆっくりと彼女の横に寝転がった。

 アンジェリークを腕に抱き、ラグに寝そべった姿勢でようやく見える月と庭の片隅で咲き零れるジャスミンを二人で眺めながら、ルヴァは二人の月を覆い隠していた雲が遂に流れ去ったのだと知る。
 ようやく言える────と思った瞬間、胸に熱いものがこみ上げてきた。その衝動は言葉となって紡がれていく。
「今宵の月は今までで一番きれいですね。雨上がりには空気が澄んで、より一層輝いて見えませんか?」
 恥ずかしそうに背を丸めたアンジェリークの小さな手を包み込み、彼女からの返事を待った。
 今日は勿論のこと、昨日も一昨日も雨など降っていない。彼女の心の中について言っているのだとアンジェリークならば気づくだろう。
「とってもきれいだから、もう死んじゃってもいいわ……」
 囁くような声とともにアンジェリークの手が開かれて、そうっとルヴァの指を繋いだ。恐々と、しかしそれでも確実に繋がれた想いに、ルヴァは目の奥がつんと痛む。
「やっと言ってくれましたね。長生きして沢山お月見しましょうね、二人で一緒に……ずっと」

 冴え冴えと輝く青白い月光が星影を押し退け、二人の長い恋が終わりを告げた。
 ともすれば寒々しい印象の月明かりは今、ようやく始まった二人の愛を祝福するかの如く温かく降り注いでいる。

作品名:花、一輪 作家名:しょうきち