花、一輪
季節は移ろい、春が終わりを告げ始めていた。
半分ほど銀に近い白が混じった波打つ金髪が、やや強く吹き付ける風に煽られて舞っている。
オルヴァルは視界いっぱいに広がる遺跡をじっと眺めながら、花冷えの風に首を竦め片手で上着の襟元を寄せた。
(……ここはいつ来ても変わらないなぁ)
もう片方の手に持っていた花をアンジェリークの墓石に乗せ、吹き飛ばされないように平たい石で押さえる。
そのすぐ隣に並んだ墓石に視線を流し、呆れたようにほんの少し笑いながら、そこにも同じ花を供えた。
「オレより先に逝くとか、想定してなかったよ。そんなに会いたかったわけ?」
アンジェリークは生前”次はルヴァが迷わないようにお花を目印にする” と照れ臭そうに言っていた。彼はその遺言を律儀に守っていたのに。
向こうでアンジェリークが寂しくなったんだろうか、ある日ルヴァは病に倒れて回復を待たぬ内に呆気なく旅立ってしまった。
遺言の最後の一つ、彼女が期待したお土産話を話して聞かせるだけの歳月を積み重ねる前に。
空いた両手を上着のポケットに突っ込み、二人の墓前でオルヴァルは緩く微笑む。
「そっちでちゃんと会えたかい、お二人さん」
彼が立ち去った後には、淡い桃色の花が一輪ずつ風に揺れていた。