二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ひばにょ!

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
『国語科の沢田綱吉、至急応接室に来るように』
 職員室の自分の机で、いそいそと弁当の蓋を持ち上げていた綱吉は、その放送にぴたりと動きを止めた。
「おー、ツナ呼び出しかぁ」
 そう言って、にかっと笑ったのは隣の机に座る体育教師の山本である。
「そうみたいだね……」
 がっくりと肩を落とし、綱吉は弁当の蓋を閉じると、そのまま袋に入れた。
「すげーよな、あの雲雀に気に入られるなんてさ」
 ははは、と力なく笑って立ち上がると、綱吉は重い足取りで職員室を出る。
 ――――気に入られてるって……まぁ、間違いではないけど……。
 だからって、生徒が教師を呼び出すってどうなの? と、思う。
 もちろん、この並中で雲雀のすることに文句を言える人間など、生徒はもちろん教職員にさえいない。今は昼休みだが、これがたとえば授業中であったとしても、文句などどこからも出ないだろう。
 そんな並中の専制君主に、なぜか新任の国語科教師である沢田綱吉が目をつけられている、というのは周知の事実だった。
 それは今から二ヶ月ほど前。雲雀が校外で綱吉をカツアゲしていた生徒を咬み殺し『これは僕のものだよ』と言ったことに端を発する。
 その噂はあっと今に並中を――いや、並森を席巻し、いまや綱吉の立場は雲雀の持ち物の一つとして完全に認識されていた。
 そう、山本は気に入られているなどと表現していたが、それは以前、生傷の絶えない綱吉を心配した山本に「辛いならオレもついてってやろうか」と言われて、別にひどいことをされるわけじゃないからと弁明したせいである。
 山本の気持ちはうれしかったが、ついてこられたら大変なことになるのは目に見えていたし、実際のところ本当に、ひどいことをされているわけではないのだ。多分。
 むしろ、相手が雲雀でなければ、ひどいことをしているのは綱吉のほうだということになるのではないだろうか。
 だが山本以上に事情を知らない多くの人間にとって、綱吉の立場は専制君主に捧げられた生贄といったところだろう。
 事実、雲雀が綱吉を呼び出すようになって以来、校内における雲雀の手による暴力事件は減少していた。それを周囲は、生贄の存在によって雲雀のフラストレーションが一部発散されているためではないか、と見ているようだ。
 フラストレーションは……確かに、ある意味において発散されている。
 それがまさか、そんな雲雀らしからぬ方法だとは、誰も思っていないだろうけれど。
「……失礼します」
 応接室に着いた綱吉はノックのあと、返事を待ってドアを開けた。
「遅いよ。何やってたの?」
「雲雀さんこそ、なんなんです? 金曜日は放課後一緒に帰れるから呼び出さないって言ってたじゃないですか」
 雲雀を知るものが聞けば、ぎょっと目を瞠りそうな調子で言い返し、綱吉は弁当をソファの前のテーブルに置く。そして、棚から湯飲みを取り出すと勝手にお茶を淹れ始めた。
「僕のすることに文句があるの?」
 むっとしたように言われて、綱吉は小さくため息をつく。
「文句じゃないですよ。ほら、座ったらどうですか?」
 自分が来るのを待っていたのだろう、テーブルの上に置かれた重箱は風呂敷がかかったままだ。
 雲雀がソファに掛けたのを横目に見つつ、急須と湯飲みを載せた塗り盆を手にして、綱吉もソファへと歩み寄る。
「こっち」
「え?」
「ここ」
 向かいに掛けようとした綱吉に、雲雀がぽんぽんと隣を叩く。
「ぐずぐずするな」
「――――はいはい」
 ため息を飲み込んで頷くと、綱吉はあきらめて雲雀の横に座った。
 お茶を注いだ湯飲みを、雲雀の前に置くと雲雀はそれを一口、口にする。その間に、綱吉は風呂敷の結び目を解き、小ぶりの重箱を開ける。
「はい、箸」
「ん」
 綱吉に箸を渡されてようやく、雲雀は重箱に箸を伸ばした。
 それを見てから、綱吉も自分の弁当に手を伸ばす。
 最初に甘やかしすぎたかな、と思わなくもない。
 けれどそれは、食欲の減退した雲雀になんとか食事をさせようとしたのが始まりだったから、今更どうしようもなかった。



 そもそも、綱吉と雲雀が出会ったのは、去年の夏だった。
 教員採用試験のために帰省した綱吉が、並森の駅前で絡まれていた雲雀を助けようと声をかけたのである。
 実際は、雲雀が絡まれていたわけでは決してなく、いつも通り群れを粛清して回っていただけだったわけだが。
 雲雀が並森を掌握している人物であることを、大学進学のため並森を離れていた綱吉は知らなかったのである。
 セーラー服で一人、ガクラン姿の男子に囲まれていた雲雀を見た綱吉が、助けなくては、と思ったのは無理からぬこと――――だったかもしれない。
 綱吉の乱入により、男子生徒はさっさと(実のところ這々の体で)逃げ出してしまい、雲雀と綱吉だけがその場に残された。
 大丈夫? と声をかけ、血が出てるよ(実のところ返り血である)とハンカチを頬に当てた綱吉に、少女は驚いたように目を瞠っていた。
 今思えば、とんでもないことをしたものである。
 雲雀の邪魔をした挙句、彼女の身を心配するなんて、その場で咬み殺されなかったのが不思議なくらいだ。
 その後、綱吉は試験の時間が迫っていたこともあり、送ってあげられなくてごめんねと的外れな謝罪してその場を離れた。
 再会したのは、並中に採用された綱吉が赴任したその日のことである。
 入学式前の職員会で、セーラー服を着た『雲雀』という名の風紀委員長には逆らわないようにというお達しがあったが、写真を見せられたわけでもなく、それが先日の少女と同一人物であることには気付かなかった。
 だから、入学式のあと職員室に戻る廊下で彼女に会ったときは驚いたものた。
 最初はセーラー服を着ている人物に出会ったことに。次いで、その顔に見覚えがあったことに……。
「あのあと、大丈夫だった?」
 思わずそう話しかけた綱吉に、少女はあのときと同じように目を瞠った。そして、まっすぐに綱吉を見つめたまま、ふん、と鼻で笑う。
「……大丈夫に決まってるでしょ」
「そっか」
 綱吉はほっと胸をなでおろし、そのまま通り過ぎようとした。その綱吉を引き止めたのは襟首に引っかかった彼女の指だ。
「待ちなよ」
「っ、し、締まってる締まってる……っ」
 歩き出していた綱吉はあわてて立ち止まり、振り返る。すると、雲雀は綱吉を引き止めた自身の指をどこか不思議そうに見つめていた。
「な、何?」 
「……ついてきて」
 喉をさすりつつ訊いた綱吉に、彼女はそう言って、職員室とは逆のほうへと歩き出す。
「え、オレこれから授業の準備が……」
「沢田先生っ」
 そう言いかけた綱吉の言葉を遮ったのは雲雀ではなく、同じ国語科の先輩教師である三浦だった。
「聞いてなかったんですか? 彼女には逆らわないようにって言われたじゃないですかっ」
 小声で、あせったように告げられた言葉に、瞬く。
 確かに聞いたし覚えてもいたが、まさかそんな超法規的な意味だったとは思わなかった。
「そんな、でも授業は……」
「いいですから。私が自習にしておきますから任せてくださいっ!」
「って、最初の授業からですかー!?」
作品名:ひばにょ! 作家名:|ω・)