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69 エデンの庭

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「わりい、ミーチャ…。ちょっと手を貸してくれないか?」

父親に連れられて乗合馬車で向かった先は…、自宅から少し離れた郊外の瀟洒な屋敷…であったであろうかつてのお屋敷の痕跡を辛うじてとどめた廃墟だった。

鉄の門扉は錆びつき、庭は背の高い雑草がぼうぼうと生い茂っている。
その雑草の下に辛うじて存在している敷石を辿っていくと、まるで幽霊屋敷のような建物の大きなドアにたどり着いた。

扉を開けた父親に促されて中に入る。

外観と同じく中もまた実に見事な廃墟っぷりだった。

高い天井に煤けた埃が垂れ下がり、至る所に蜘蛛の巣がはっている。
窓ガラスも煤けて曇っており、ひび割れているところもみられる。

床はかろうじて埃は払っているものの、折角の大理石の床はすっかり曇っている。

奥から年老いた―、しかしビシッと正装に身を包んだ執事が足早に出てきて二人を迎えた。

「アレクセイ坊ちゃま―」

「オークネフ」

アレクセイがミーチャの背中に手をやってその老執事に息子を紹介する。

「オークネフ、俺の息子だ。ミーチャ…、ドミートリィ・ミハイロフだ。…ミーチャ、こちらはオークネフ。俺の生家の…執事だ」

父親が貴族の…自分には想像もつかないような上流階級の出だという事はいつの頃からか耳にして知ってはいた。しかし、その父親の実家に仕えている…、父親よりもはるかに身なりのよい老紳士が父親を「坊ちゃま」と恭しく呼び、そして彼よりもはるかに庶民のいで立ちをした父親がその紳士を「オークネフ」と呼び捨てにしている。一体自分はどうしたらよいのだろう…とミーチャはしばし混乱し、父親と「オークネフ」と呼ばれた老紳士を交互に見上げる。

「アレクセイ様の坊ちゃまですね。…坊ちゃまに、そしてドミートリィ様にもよく似た賢そうな面差しをしていらっしゃる。…あぁ、青い瞳は奥様ゆずりなのですね。…ミーチャお坊ちゃま…、オークネフと申します。ずっと昔…まだアレクセイ坊ちゃまがあなた様ぐらいの頃に仕えていた者です。以後お見知りおきを」

少し屈んでミーチャの瞳をじっと見つめながら、オークネフは自分と父親の関係を説明しながら、このかつての主の息子に自己紹介した。

「初めまして…。ドミートリィ・ミハイロフと言います。ミーチャと呼んで下さい。こちらこそよろしくお願いします」

優しそうな老執事にミーチャは、少年の頃の父親を想わせる人懐こい笑顔を浮かべて、礼儀正しく挨拶を返した。

「さあ、大奥様―、ひいおばあさまが先ほどから首を長くしてお待ちです。こちらへどうぞ」

オークネフが二人をサロンへ案内した。

作品名:69 エデンの庭 作家名:orangelatte