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69 エデンの庭

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通されたサロンは、何とか人を通せる体裁を保っている程度に人の手が入っていた。

所々ガラスの煤けた大きな窓には色の褪せたビロード地のカーテンがかけられ、他の部屋や廊下と違って、天井や床の埃や蜘蛛の巣もきちんと払ってあった。

大きな窓辺に身なりのいい品のある老婦人が一人立って外を眺めていた。

その夫人にオークネフが声をかけた。

「ヴァシリーサ様」

振り返ったヴァシリーサが、アレクセイの隣に立っている亜麻色の髪の、父親によく似た面差しの聡明そうな少年を認めた。

アレクセイがそっとミーチャの背中を曾祖母のほうへと押しやる。

ミーチャは窓辺の老婦人の傍へ歩み寄り、彼女に父親譲りのサラサラの亜麻色の頭をチョコンと下げた。

「はじめまして。曽おばあさま。ドミートリィ・ミハイロフと言います。皆からはミーチャと呼ばれています。お会いできてとても嬉しいです」

「あなたは…ドミートリィと…いうのですね」

ヴァシリーサが震える手をミーチャの頬へ伸ばした。

「はい。伯父の名前を貰ったと両親に聞きました。天才的なヴァイオリニストで非の打ちどころのない貴公子で…祖国解放のために命をかけた男の中の男だと…父から聞きました」

自分の知らぬ伯父の話を、祖母に嬉しそうに語って聞かせるひ孫の肩をヴァシリーサは優しく抱きしめた。

「ええ…。ええ…そうですよ。ドミートリィは…それは立派な人間でした…」

祖母の口から出たその言葉に、アレクセイは一瞬びっくりしたように少し目を見開き―、そのあと誰にも見られないように顔を背けてこっそりと涙をぬぐった。

作品名:69 エデンの庭 作家名:orangelatte