銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ
〈古代さん!本当にすみませんでした!まさか森さんのところに行くと思ってなくて…〉
翌日ユキが出勤したあと北野から電話が入った。
「ユキから聞いたよ…その前に相原が聞きつけて聞いてはいたが…あれから彼女と話
したのか?」(進)
〈いえ…それが…〉(北野)
「余り近付かない方がいいと思うぞ。ヘタに近付くと復縁する気で近付いてるかもと
勘違いするかもしれないからな。」
進は岡本のことを思い出していた。
〈古代さん…〉(北野)
「今回は北野も被害者みたいなもんだ。思い込みの激しい人はそれが犯罪だと気付か
ない事がある。だから…女性だからと油断しないように。」
進が厳しい目で北野に忠告する。
「北野はこれからいろんな経験をしてなにが正しくてその時に何をするべきか…
その時のベストを選択することが出てくるだろう。それがメインクルーに与えら
れた宿命…時として同僚の屍を乗り越えて進んでいかなくてはならない時が来る。
悔やんでも悔やみきれない後悔と進むべき未来がありこころが…頭が混乱する事も
あるだろう。それを癒してくれるような女性を探せ。」(進)
〈古代さん、それは森さんのような女性って意味ですか?〉(北野)
「え?いや…うん?あ…あのな…」
進の急な慌て様に北野が笑顔になる。
〈古代艦長代理…有意義なお話ありがとうございました。心に留めてこれからも
しっかり精進しますのでこれからもご指導お願いいたします。〉(北野)
「北野…お前なぁ…」(進)
〈森さんに何かあったら…とご心配ですよね。訓練学校に残ってる同期に吉岡
の監視を頼んだので大丈夫だと思います。〉
北野はそう言うと敬礼して画面から消えた
「ユキのような女性か…」
なかなかいないだろうと進は思う。常に自分に何ができるか最善を考えそれを行動に移す事が出来る…自分のことは顧みず真っ先に俺の事を考えてくれる。何度ユキの笑顔に救われただろう…そしてこの先何度もユキに救われるんだろうかと思っている自分に思わず失笑してしまう。
「なるほど…」
ユキは長官室で藤堂と話をしていた。先日シームレスのパトロール艇の話を南部の父と話した内容を伝えていた。
「シームレスの設計と見積を出していただくよう依頼しました。南部重工業で今の
モデルのままでOKであれば見積はそんなに時間がかからず出すことできるで
しょうとの事です。」
そう言って現モデルの試作品を造るまでの予算と時間、試作品の値とラインで作成した時の1台あたりの単価を藤堂に見せる。
「また一週間後にお会いする予定です。」(ユキ)
「わかった。ご苦労だった。…今日は…」(藤堂)
「今日のご予定ですね。例の視察が…」(ユキ)
「わかった。では30分後に出かける。」
ユキは資料をまとめると藤堂に渡して長官室を辞した
今日視察に行くのは大統領が使う緊急脱出用高速連絡艇ができたのでそれを確認するべくシークレットターミナルへ向かうのだ。大統領緊急脱出高速連絡艇はそれぞれ北米、南米、オセアニア、ヨーロッパ・アフリカ地区の主要都市それぞれに用意が義務付けられ万一の時どこでも使用できるよう造られたものだ。これは軍の一部の人間にしか知らされていない。場所は軍の施設と近いところに設置が義務付けられ日本は英雄の丘の隣の森林地区の地下に造られた。基地は少し前にできていたがやっと高速艇が出来上がってきたのだ。
藤堂もユキもこの高速艇を使う日がこなければいいと思いながら視察の準備を始めた
「かなり小さいですね。」
小さなターミナルに小さな艦が収められている。上をみるとドームの天井が左右に開くように作られていてその上は英雄の丘の裏にある小さな林だ。
「小さいがワープ装備がある。そして向かう惑星を入力すれば自動操縦が自動セット
されるようになっている。万一の時操縦できる人間がいない場合を想定して造った
艦だ。例えば"月"と入れればその月基地の何処へ向かうのか基地の名前が示される
後はその名前の部分に触れれば出航だ。しかし…この高速艇を使うにはドームの
天井を解除するパスワードが必要だ。まずパスワードで天井を開けてそれから
出航先を入力すればOKだがそのパスワードはあそこにある管理室でしか入力
できない。なぜそのような設定にしたのかと言われてしまいそうだがいわゆる
乗っ取りを防ぐためだ。もし白色彗星のような輩が現れてこの高速艇を知っている
軍の一部が勝手に逃げるために使ってしまうかもしれない。それを避けるために
この2段階を経ないとこの艦を動かせないように造ったそうだ。」
作品名:銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ 作家名:kei