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71 utopia

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1918年夏

その年の春、ベラルーシの講和会議に参加していたアレクセイが多忙の合間を縫って、家族ー、妻と二人の子供、そして祖母を伴って、ミハイロフ家の墓所を訪れた。

ペトログラードの教会の一角にあるその墓地には、ミハイロフ家代々の当主とその妻、そして1900年のまだロシアが革命の黎明を見る前に反逆罪で処刑されたドミートリイ・ミハイロフ、ミハイロフ侯爵家の最後の当主が眠っていた。

かつてこの国に存在していた貴族らの墓が立ち並ぶこの区画の墓所は、今や誰もそこを訪ねる者もいないためか、大きく立派な墓碑はどこか侘しさを漂わせ、既に荒廃が始まっている墓所もちらほらと見られた。

そんな中でー、ミハイロフ家の墓は、綺麗に掃き清められ、心尽くしの小さな花束や、心の籠った手紙やカードがいくつも手向けられていた。

【ドミートリイへ】
【我らが英雄ドミートリイへ
あなたの1900年の勇気を私たちは忘れない】
墓所に供えられた、名もなき差出人たちから供えられた手紙やカードには、一様にそう書かれていた。

それらの手紙を手に取ったアレクセイの頬を涙が伝う。
アレクセイからその手紙を渡されたユリウスとヴァシリーサ、そしてミーチャも、それに目を通すと、ドミートリイの眠る墓碑に真摯な祈りを捧げた。

「あの子のした事は…、こうやって人の心に残り…種を蒔いていたのだね…。あの子は…反逆者じゃなくて…その身を挺して…民衆の心に…種を植え付けたんだね…」
泣き崩れるヴァシリーサを、ユリウスとミーチャが優しく支える。

「そうだよ…おばあさま。ドミートリイの蒔いた種は…俺たち跡を継いだ者の、そしてその行為を知っている全ての民衆の心に残り…こうして見事に花開いたんだ。ドミートリイは…巨大なゴライアテに撃ち込んだ、一投だったんだ」

「お墓…綺麗だったね」

花を手向けたユリウスが呟いた。

「そうだな…。彼を忘れなかった名もない人々が、ここを訪れてくれていたんだな…」

それぞれがー、孫に、兄に、義兄に、そして伯父に、心の中で語らい、再び祈りを捧げる。

長いことそこを訪れることのなかった家族が訪れ、墓所が温かで柔らかな空気に満たされる。
それはー、普段のミハイロフ家のダイニングのようでもあり、一家が祖母の元を訪れた時のサロンのような空気だった。

「さあ…行くか」

いつまでも去り難い空気を、アレクセイの明るい声が断ち切る。

ー また来るな、兄貴。

温かな満たされた気持ちを抱え、一同が墓所を後にした。

作品名:71 utopia 作家名:orangelatte