永遠にともに〈グリプス編〉6
ソファに座ると、セイラがまだ、何も言えぬシャアに視線を向ける。
「兄さんには言いたい事が色々あるけれど…、まずはアムロの事を話しましょう。」
「そうだな…。後で…時間をくれないか?」
「分かったわ」
セイラは視線をアムロに向けると、アーネストから聞いた事を確認する。
「アムロ、体調の方はどう?辛そうだけれど…。疲れているならばまずは休んでからでも良くてよ?」
「大丈夫です。それに…少しでも早く何とかしたいので…」
辛そうな表情をしながらもそっと微笑む。
「分かったわ。それで、マインドコントロールを受けていたと言う事だけれど、どういう状態だったの?今はどうなの?」
アムロは膝の上に置いた手を握り締める。
「始めは…身体に電気を流されて…激しい痛みと苦しい呼吸で死ぬんだと思いました。…その後、多分幻覚剤だと思うのですが、薬を打たれて頭が朦朧とし始めて…頭の中に誰かの声が聞こえてきたんです。」
アムロは息を止め、一旦言葉を切る。
「お前は…兵器だと…命令に従うまま敵を倒す兵器なんだと…、何度も何度も聞こえてきて…。」
アムロの声が震える。
「そして、戦時中、僕がジオンのモビルスーツを撃墜する姿を何度も見せられて…。僕は人では無いと…殺戮兵器なんだとそう思えてきて…
、段々と記憶が曖昧になって、自分が誰かもよく分からなくなってしまいました。」
アムロは顔を両手で覆い俯く。
「それで…ある人物の命令に逆らえないようにコントロールされました。あの男に命令されると自分の意思とは関係なく身体が勝手に動いて…」
ーーーパプテマス・シロッコ。あの男の命令に逆らう事が出来なかった。
あの男に身体を無理やり開かれても、逆らう事が出来なかった…。シャア以外に抱かれるなんて死んでも嫌だったのに…。
アムロはきつく目を閉じ、手をグッと握る。
「アムロ…」
セイラの心配気な声に頭を振って嫌な事を振り払う。
「すみません。」
その様子を見ていたアーネストがアムロに尋ねる。
「記憶は戻っているみたいだけれど…どうやって?」
マインドコントロールを受けていて、記憶を取り戻すのは難しい。それが出来たことにアーネストは驚きを隠せない。
「あの時は…」
アムロがその時の光景を頭に思い浮かべた瞬間、アムロの身体がガクガクと震え出し、目の焦点が合わなくなる。そして、身体がソファから崩れ落ち、悲鳴を上げ暴れ始めた。
「あっああああああああああ!!!」
「アムロ!!!」
暴れるアムロをシャアとカイの2人が抑え込み、シャアが「すまない」と言うと、アムロの首に手刀を打ち込み気絶させる。
シャアは力なく崩れ落ちるアムロの身体を抱きしめると、ソファへと横たえさせた。
「兄さん…。」
アムロを見つめ、セイラが悲痛な声を上げる。
「昨日からずっとこんな状態だ。薬が完全に抜ければもう少しマシになるらしいが…。」
よく見ると、シャアの腕にはいくつもの引っ掻き傷があった。
「アムロの記憶が戻ったのは、おそらくマインドコントロールを受けた時よりも強烈な光景に影響を受けたからだ。」
「強烈な影響?」
アーネストがシャアに目を向ける。
「ああ、あのフォウと言う少女がカミーユを庇って死んだ光景を見て…過去の事を…ララァが私を庇い、アムロのビームサーベルがララァを貫いた過去がフラッシュバックしたからだろう…。」
シャアのその言葉にセイラが悲痛な視線を向ける。
「ララァって…あの…ジオンのニュータイプの少女?」
「ああ、アムロとララァはサイド6で出会っていたらしい。その時、アムロはララァに強く惹かれたそうだ。そして、次に会ったのは戦場だった。その戦闘中、アムロとララァはニュータイプ同士、共鳴し合った。」
「アムロ…」
「私は2人の共鳴を目の当たりにして酷く狼狽えた。ララァが私から離れ、アムロと惹き合っていくのが…堪えられなかった。」
シャアが膝の上で組んだ指に力を込める。
「そして、私は2人の共鳴に割って入り、アムロを殺そうとした。」
その言葉にカイが眉をひそめる。
「しかし、反撃に出たアムロのビームサーベルが私のゲルググのコックピットに向かってきた瞬間、ララァのエルメスが間に飛び込んできて、彼女はアムロのサーベルに貫かれて命を落とした。」
戦時中、ア・バオア・クーでの最終決戦前、アムロの様子が明らかにおかしかった事をカイは思い出す。時々遠くを見つめては辛そうな顔をしていた。
「“僕は取り返しのつかない事をしてしまった。” アムロがそんな事を呟いてるのを聞いた事がある。…その事だったんだな。」
カイがアムロを見つめて呟く。
「戦争中だからな、みんなそれぞれ辛い思いの1つや2つある。しかし、大切な人の命を自分の手で奪ってしまったなんてのは流石にキツ過ぎるな…。」
皆、アムロを見つめ、言葉を無くす。
「…それで、アーネスト君。アムロのマインドコントロールを解く方法はあるのだろうか?」
シャアがその沈黙を破り、アーネストへと尋ねる。
「正直、完全に解くのはかなり時間が掛かります。ただ、体内から薬物が完全に抜ければ今のような発作は治まると思います。」
「薬物が抜けるまでどのくらいかかる?」
「あのデータを見る限り、投与された薬物の量を考えると、2、3週間は掛かると思います。」
「そんなにか…。」
「それにマインドコントロールはさっき、アムロ君が言ったように、肉体的、精神的苦痛を与え、正しい思考が出来なくなった状態になったところに薬物で更に判断能力を鈍らせ、暗示をかけていくと言う方法で行われます。」
「なんて事を…」
セイラが手で顔を覆い悲痛な声で呟く。
「昔、オーガスタ研究所でも同じような事をしていましたが、暗示をかける前にアムロ君が完全に心を閉ざしてしまった為、暗示を掛けられなかったんです。」
『それでコールドスリープか…。』
研究者達のあまりにも勝手な行動に、シャアの心に怒りが込み上げる。
シャアのその様子を見ながら、アーネストが話を続ける。
「マインドコントロールを解くには、アムロ君の心から“不安”を取り除く事。そして、自分は周りに必要とされ、皆に愛されているのだと思わせ心に平穏をもたらす事です。」
全ては心の“不安”が隙を作り暗示を刷り込む。
「もしくは研究所で受けた“自分は殺戮兵器だ”という刷りこみを上書きするような暗示を掛ける事です。」
「上書きする暗示?」
「ええ、自分は心を持った人なんだと、愛されているのだという、強い暗示を掛けるんです。それには今のまだ薬物が抜けきっていない状態のが効果があります。」
「出来るか?」
「ええ、一応その手の催眠療法の仕方は心得ています。」
「そうか…、よろしく頼む。」
「ただ…、ある人物の命令に逆らえないようにされたと言っていましたが…、聞いている限りではかなり強烈な暗示を掛けられています。おそらくアムロ君が本当につらい状況下で暗示を掛けられたんだと思います。なので、その暗示については完全に解けるかどうか分かりません。」
『アムロが本当に辛い状況下で…』
と、そこでアムロがシロッコに身体を強要されていた事を思い出す。
『まさか…!』
嫌な考えに虫酸が走る。
『アムロを強姦しながら暗示を掛けたのか!?』
作品名:永遠にともに〈グリプス編〉6 作家名:koyuho