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72 第二部 プロローグ 1919年冬 パリ

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「チャオ、エットーレ」

奇跡的な邂逅を果たした二人がヨールカの前で呆然と見つめあっているところに、大階段から金髪の小さな娘を抱いた「大使」と呼ばれている人物が降りてきた。

その男はイタリア人の友人が連れてきたー、夫人と向き合ったその男に視線を移し、一瞬驚いたように目を見張ったが、日頃の外交の場で身についた腹芸の賜物だろうか、すぐにその驚愕の表情を引っ込めると、不敵なー、だけど見た人全てが魅了されるどこか少年のような屈託無い笑みを浮かべて言った。

「俺はマルキストだから…神は信じていなかったが、今回ばかりはこう言わざるを得ないな。ー これは…どういう神の采配だ!」
ー 久しぶりだな、ダーヴィト。

大股で大階段を降りてきて近づいてきたその懐かしいー、今は異国の新政府の重鎮となって自分の前に思いがけず現れたその旧友が、昔通りの大きな手で、肩を抱いた。

「そうだな…。これは…粋な神の采配と、言わざるを得ないな…。無事で…生きていたか。ー クラウス」

ダーヴィトもその旧友の肩を抱き返した。そう返した声は、喉の奥から熱いものがこみ上げ、わずかに掠れていた。