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琅琊閣 備忘録

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一章 林燮
こんな話が有ろう筈が無い。
大渝と戦っている赤焰軍を討つべく、梁の皇帝が梅嶺に軍を送ったなどと。
琅琊閣にもたらされる密偵からの情報を繋ぎ合わせるのに時を要し、梅嶺で闘う赤焰軍の主帥林燮にこの事実を、もはや伝達する術がない。もう討伐軍は数日も掛からず梅嶺に到着するであろう。
どうにもならぬ、どうにもならぬのだが行かねばならぬ。
いくら林燮の育て上げた精鋭部隊の赤焰軍と言えども、大渝の軍は二十万である。この数の差では赤焰軍とて苦戦をしておろう。
だから梅嶺に派兵される、夏江と謝玉の軍は援軍であるとばかり思っていた。
だがどうだ、奴らは赤焰軍を討つのだという。何たる者共か、赤焰軍は大渝の軍と討伐軍の挟み撃ちに合うではないか。何たる卑劣さか。こんな話は聞いたことが無い。
だからあれ程林燮には言ったのだ、主は選べ、と。結局こうなってしまったではないか。
私が何度言っても聞き入れなかった。
若い時分は奴も信念があり梁の皇帝に仕えていたが、滑族を滅ぼしたあの闘いから、林燮の心が皇帝から離れていったのだ。滑族の力を借りて帝位に就いた梁帝は不要になればお前に尻拭いをさせるのだ。
あの皇帝は、兵など使い捨ての駒としか見ておらぬ事は薄々感じておったろうに、不信も徐々に募っていった筈だ。
なのにお前ときたら、今後十年もせぬ内に祁王が朝政の一角を担えると、淡き夢にすがっていたのだ。祁王なれば良き天下になると。それ迄は赤焰軍を護り、役目を果たすと。大梁帝国の民の為に、皇帝の為にと。
お前のそんな愛国心も、あの狭量で疑り深い皇帝の目にはどう映ったか。離れてゆくお前の心を見抜き、祁王と結託したと言う夏江と謝玉の虚言を信じたのだ。あの皇帝は離れてゆく者など許せぬのだ。許せぬ者の末路は滑族と同じなのだ。

この事実を何とか伝えてやれたならば、お前はこの危機を脱するだろうか。
だが術がない。伝書鳩は密偵からこの琅琊閣には飛んで来れても、その逆は出来ぬのだ。お前が何とか逃げ果せ、ただ生きてさえいてくれる事を祈るのみだ。

お前がこんな事で果ててしまうのは忍びない。私も梅嶺に臨む事とした。
梅嶺で刀を振るい助ける事は出来はせぬが、とても黙っては居られぬ。お前は友なのだ。
まさか、武人の友が出来るとは、かつては想像もしていなかったのだが。

私は元来武人という者を好かぬ。国の為に人と切り合うなど愚かな事である。兵士同士は互いに何の怨みも関係もないのである。まだ、江湖でイキがっている無頼の方が可愛げがある。当然お前とも信念が合わず、よく言い争った。この点はいかに歳月を経ようとも、並行線のままであったな。
だが林燮の人となりは好ましく気心も知れた。
良く飲みもし、良く語り明かした。
お前には心があり、人命というものを理解していた。お前は滑族を滅ぼした事はずっと引っ掛かっていたのだ。
武人だの、官職だの、生きにくい事、この上ない。

傷治療に長けた配下を十数人連れ、薬剤を持ち、馬を馳せ、梅嶺へと向う。
上手く、何とか、逃れてくれる事を願い、ただ馳せた。



二章 梅嶺
今、正に闘っているのか、梅嶺の稜線の一部が朱赤と燃える炎と濛々と上がる煙が見えるのだ。戦況はどうなのか、心だけが逸り、馬の足は思う様に進まぬ。
ここまで来たのだ。これより先は討伐軍がいるやも知れぬ。心して慎重に進まねばならぬのだ。見つかってしまえば、我らの命も危うくなり、赤焰軍の為に運んできた薬剤とて、奴らに全て取り上げられよう。何の為にここ迄来たのか意味が無くなる。

梅嶺の中腹よりも進んだ所で、濃い血の匂いを感ずる。更に先に進んで行くと兵士が倒れている。数十人は居るようだ。
生きている者を探すが、ただの一人もいなかった。皆絶命していた。そして赤焰軍の軍旗が馬と人の足に踏みにじられている。
あやつら討伐軍は、赤焰軍を捕らえて生かしておこうとは思わぬ様だ。
これだから武人という奴らは好かぬのだ。
しかもこの討伐軍という奴らは、軍命とは言え、故郷を同じにし、共に国を守る同士であるのに、躊躇なく殺してしまえるのだ。何という奴らであろう、、、。
互いに顔を知る者も居るであろうに、、、、。

赤焰軍は今、どうなっているのだ。

更に戦地へと向う。
途中、赤焰軍の小隊と出合う。軍の将は衞箏と名乗った。林燮の息子の率いる赤羽営の副将と言っていた。
赤焰軍は三日三晩、大渝軍二十万と戦い続け、大渝軍を撃退したのだと言う。流石、林燮の精鋭部隊である。だが、火薬も武器も力も底を尽きた状態であると言う。
そしてこの者は、援軍と先程の潰された軍の様子を見に下りて来た所を、討伐軍に出くわし、隊の半数近くを失ったと。残った兵とて無傷の者などいなかった。この後隊を立直し、また戦地へと向うつもりだと言う。
私は止せと言った。
私は大渝軍とも結託しており、挟み撃ちにするのかと思っていた。たが真相は赤焰軍が大渝と戦い、力尽きるのを待っていたのだ。
そして只の一人も生かすつもりは更々無いのだ。
この者達が例え戦地へ還ろうとも、犬死にの道しか残っておらぬ。
この者も幾らか事態の不可思議さを感じていたようで、考え込んでいた。
だが、いずれにしろあの戦地へと入らねばならぬ。例え幾人でも命の尽きぬ者を救けてやらねばならぬ。
先へと進む。
進むにつれ、火薬と血と焼けた肉の様な匂いが漂い出す。間もなく赤焰軍の宿営地があるというが、衞箏はこの宿営地を通過するのは危険だと言う。回り込んで戦場に入り、討伐軍が撤退した後直ぐ救助出来た方が良いと言う。幾度もこの地を守って来たのだ。衞箏はこの地を良く知っていた。何処をどう行けば良いか、この者に任せた。
そして異臭は更に濃さを増し、、、火薬と、血生臭さと、焼けた肉の匂い、、、。私はこの様な臭いは今迄嗅いだ事が無い。この臭いに我らはもとより、兵士達ですら吐気を催していた。
一体どの様な地獄なのだ。


もう討伐は終わってしまったのか、早く去ってしまえと固唾を飲んで祈っていた。

衞箏の配下が合図を寄こす。

戦場へ入れば累々たる屍の山、、、、。
生きている者が、幾人でもいれば、、、。手分けをして幾らかでも息のある者を探す。

望みは非情にも薄く、時間が経つ程に絶望感が拡がってゆく。
これ程徹底して命を奪うあの者共は、鬼の化身としか思えぬ。
凄惨極まるこの地は死者の怒りで充ちている。

どの位探し歩いたか、ようやく数人。
討伐軍はあのままこの地を去った様だ。
壊れて残された赤焰軍の軍幕で治療に当たる。流石に武人、強靭な体で息を吹き返す者、そのまま果てしまう者、様々。我々の考えていたよりも生存者ははるかに少ない。
動ける者は更に探し続けた。長い長い時間、大変な人数の生死を確かめて、絶望に疲労だけがのしかかり、、、、。皆、言葉もない。
作品名:琅琊閣 備忘録 作家名:古槍ノ標