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琅琊閣 備忘録

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屍も酷い有り様だ。武器で絶命していたり、焼かれて絶命していたり、医者の私でも目を背けてしまいたくなる。

そして我が友、林燮を遂に見付ける。崖のそばで絶命していた。焼け爛れた凄惨な骸。その左手は切り落とされていた。赤焰軍の者は名入の腕輪をしていた。万が一があった時に故郷の家族の元に戻れるよう、、。
腕輪は簡単には外れぬ。手っ取り早く、切り落として討伐の証拠品として持ち去って行ったのだ。情も知らぬ鬼共の成する事である。

もう息のある者は見つからぬ。


三章 林殊
衞箏の配下の、体力のある者が一人の兵士を背負って来た。
酷い火傷と深い刀傷のある若者のようだ。この状態でまだ息があるとは。
衞箏はこの者が林燮のセガレだというのだ。良く見れば確に若い頃の奴に似ている。だがこの火傷の酷さ、、、。
そしてこの者は、雪蚧虫に蝕まれていた。数匹などというものでは無い。だからこの酷い火傷に耐えられたのだ。
梅嶺に雪蚧虫がいることは知っていた。私は予防の為、火傷の酷い者は患部を覆い、蝕まれぬ様にしていたのだ。
この子は見つけられるまで時間が掛かったが、この火傷では早くに見つけられても手が施せなかったかも知れぬ。
雪蚧虫に蝕まれたのなら火傷で死ぬ事は無いだろうが、この先を考えると可愛そうでならぬ。次第に体は膨れ、そして体中白い毛で覆われる。見た目が人のソレでは無くなってしまうのだ。
腹部の刀傷も深く、、、、。予断の許さぬ状況だ。
このまま死んでも浮かばれず、峠を越して生き延びようとも辛かろう。
この子の定めは天のみが決めること。私は治療をするだけなのた。

この子の治療を進めると同時に、動ける様になった者を山から下ろさねばならぬ。皇帝の軍がまたいつ来るやも知れぬのだ。




四章 琅琊閣
琅琊閣に着いた頃にはこの子に身体は、すっかり白い毛で覆われていた。
雪蚧虫の毒の為、人の姿からは離れてしまった。毒を抑える治療を施すが、毒の侵蝕が深くまた毒の量も多く、中々思い通りには進まなかった。
ここでこのまま、ゆっくりながらも治療を進めれば、多少の不便は有ろうが、完治は出来ずとも天寿を全う出来よう。
赤焰軍の者は謀反の者となり、林殊の名前も名乗ることは出来ぬ。
林燮の息子なれば、ここでずっとこのまま過ごすのが良いと思っている。

あの酷い記憶が癒える事は無いだろうが、天の定めで生かされたのなら、時がこの子の生きる力を呼び覚ますであろう。

金陵の密偵からは、私が梅嶺に行っている内に、長子祁王やその旗下の者、嘆願をした者、全てが処刑されたり然るべき刑に処されたと。この子の母親は自害をし一族も処断され、天涯孤独となってしまった。
立向かうには余りに大きな力である。そしてこの子の姿。復讐なぞどれ程遠く長い道か。この子と僅かな赤焰軍の生き残りで、一体何を変えられようか。変えるどころか皆死んでしまう終末の方がはるかに高い。
復讐で長い時を潰してしまうより、この子の人生をこの子らしく生きて欲しい。

一緒に来た赤焰軍の者によると、どうやらこの子は大変な機動力と機転の持主のようだ。この年頃の青年とは考えぬ方が良い様だ。
この事案の密書やら情報はこの子には知らせぬほうが良い。そしてこの火寒ノ毒の事もだ。
密書は私が肌身に持ち、火寒ノ毒の記された書簡は人の入ってはならぬ書房に紛らせて置こう。書簡には他の病状も記されている故に、無くす事も出来ぬ。近日中に火寒ノ毒の部分を抜き、書き改めた物を替りに置くとしよう。
火寒ノ毒には二通りの治療が有り、毒は残り白毛をはやしたままだが長く生きられる治療と、毒を抜き去り姿は人に戻るが長くは生きられぬ治療がある。
この子には人の姿に戻る治療がある事は教えておらぬ。あの様な治療はする必要が無い。このままであれば、復讐を考える事も無いだろう。ただ一人遺されたこの子には、望みのない可能性の道を歩むよりも、現実を見て生きて欲しい。
第一、私はあの様な治療をするのは真っ平なのである。

5、6年の間は穏やかに過ごしていた。此処での生きようも、見い出した様子であった。
まだこの琅琊閣に来ていくらか経ち、ここの生活にも慣れたかという頃に、肌身に着けていた赤焰事案の真相の書かれた密書をすり替えられていた。恐らくはこの子の仕業であろう。
知られしまったのなら仕方の無い事で、尋ねられれば分かる全てを知らせ、復讐の如何に遠き事かを教えてやらねばと思っておった。
だが、何か行動に移す事も無く、その後は穏やかに過ごしていたのだ。復讐なぞとうに頭には無いものと、この姿で生きる術を見つけたものと私は安堵した。
私は林燮の形見を大切に見守っていきたいと、思っておった。

林家は元々、私兵の養成組織を持っており、能力のある者は赤焰軍の兵としていた様だ。そう大きな組織でもなく、江湖勢力に埋もれるように存在していた。
この子はその組織を解体し、江左盟として新たに編成し直し、様々な事業を営んでいた様だ。数年の時を掛け江左盟はメキメキと江湖での勢力を拡大していった。赤焰軍の生き残りが、この地で生きてゆける様に、どの者にも適性のある分野での居場所を作ってやったのだと思っていた。
この子の思いもよらぬ能力を見た思いである。自分もまたこの環境で生きる覚悟が出来たのだろうと思った。
もう、心配はない、復讐なぞ不可能だと諦めたのだ、と、ずっと私が不安に思っていた事は杞憂であったようだ、と、思っていた。

だが6度目の夏も終わろうという時、この子はとんでも無い事を口にする。

自分の体にある火寒ノ毒を抜いて欲しい、と。

まさに晴天の霹靂、この子にはすっかり騙されていた。いや、私が勝手に良い様に妄想を巡らしていたのかも知れぬ。

火寒ノ毒の治療など他に無いと知らばくれてはみたが、とうに別の治療法がある事も、自分の身体にどの様な影響が及ぶかも全て理解していた。
私があれ程に隠しておいた筈の火寒ノ毒の書簡すら、とうに目を通していたのだ。
諦めたとばかり、赤焰軍の生き残りが生きて行けるようとばかり思っていたのは、全てが復讐と赤焰事案の再審の為なのだと、ここにきて私もツジツマを合わせる事が出来た。
そして、この子自身が事案再審の最後の仕上げをせねばならぬと。
そして、火寒ノ毒を抜く治療で、かつての面影が無くなる事はむしろ好都合であると。

林燮よ、お主の息子は何という男なのだ。

当然、これ以上の治療は出来ぬとはっきりと断ってやった。
そして、林燮は復讐をさせたくて、お前に「生きろ」と言い残した訳ではないのだ。その様な親は何処にも居らぬ、と。
ずっと筆談で交わしていたのだが、この子は一言だけ、辿々しい口で「解る」とだけ言った。

昔、遠い昔、林燮とは話が合わず三日三晩喧嘩をした。
作品名:琅琊閣 備忘録 作家名:古槍ノ標