73 ~intermezzo 円舞曲
1922年
パリのとある屋敷のサロンで、夜も更けた頃、そこの主夫妻―、アレクセイ・ミハイロフとその妻ユリアが蓄音機のレコードに針を落し、何やら熱心にいそしんでいた。
二人が先ほどから取り組んでいたのは―、ダンスのステップのおさらいだった。
ロシアで非合法の活動家として市井に紛れて10数年。
先年宿願叶い革命を成功させた彼らは、第一次世界大戦後のパリへ新生ロシアを代表し、外交要員として派遣されていた。
市井の一市民として暮らしながら活動してきた二人がいきなり放り込まれた華やかな外交の世界―。
日々行われるパーティや晩さん会に必ず付き物のダンス。
二人はこの、ロシアにいた頃にはとんとご無沙汰だったダンスという難物に向かうために、こうして屋敷のホールで夜な夜なレコードに針を落し、ステップのおさらいをしていたのだった。
~~~~~~
「いいか―1,2,3…イテ!バカたれ。踏むな」
「あ、ごめ~ん。もう一回…」
曲の切れ目を待って、また二人はステップを踏み始める。
最初はぎこちなかった二人だが、身体が思い出すにつれて曲に合わせて優雅にステップを踏んでいく。元来が抜群に見栄えのいい二人な上に、音楽を学んでいただけに音を正確に捉えステップを踏む姿はこの上なく優雅で美しかった。
音楽に身を任せフロアを滑るようにステップを踏む二人の顔に自然と笑顔が浮かんでくる。
やがてレコードの音楽が終わった。
「ふ~。さすがに疲れたな…少し休もうか」
「そうだね…」
二人は隅に置かれた長椅子に腰かけた。
「だいぶ思い出してきたな」
「うん。…でもダンスって…慣れると楽しいね」
「ああ…そうだな」
「ねえ…アレクセイ」
「なんだ?」
「こうやってダンスのステップを攫ってると…あのミュンヘンのアジトを思い出すね…」
パリのとある屋敷のサロンで、夜も更けた頃、そこの主夫妻―、アレクセイ・ミハイロフとその妻ユリアが蓄音機のレコードに針を落し、何やら熱心にいそしんでいた。
二人が先ほどから取り組んでいたのは―、ダンスのステップのおさらいだった。
ロシアで非合法の活動家として市井に紛れて10数年。
先年宿願叶い革命を成功させた彼らは、第一次世界大戦後のパリへ新生ロシアを代表し、外交要員として派遣されていた。
市井の一市民として暮らしながら活動してきた二人がいきなり放り込まれた華やかな外交の世界―。
日々行われるパーティや晩さん会に必ず付き物のダンス。
二人はこの、ロシアにいた頃にはとんとご無沙汰だったダンスという難物に向かうために、こうして屋敷のホールで夜な夜なレコードに針を落し、ステップのおさらいをしていたのだった。
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「いいか―1,2,3…イテ!バカたれ。踏むな」
「あ、ごめ~ん。もう一回…」
曲の切れ目を待って、また二人はステップを踏み始める。
最初はぎこちなかった二人だが、身体が思い出すにつれて曲に合わせて優雅にステップを踏んでいく。元来が抜群に見栄えのいい二人な上に、音楽を学んでいただけに音を正確に捉えステップを踏む姿はこの上なく優雅で美しかった。
音楽に身を任せフロアを滑るようにステップを踏む二人の顔に自然と笑顔が浮かんでくる。
やがてレコードの音楽が終わった。
「ふ~。さすがに疲れたな…少し休もうか」
「そうだね…」
二人は隅に置かれた長椅子に腰かけた。
「だいぶ思い出してきたな」
「うん。…でもダンスって…慣れると楽しいね」
「ああ…そうだな」
「ねえ…アレクセイ」
「なんだ?」
「こうやってダンスのステップを攫ってると…あのミュンヘンのアジトを思い出すね…」
作品名:73 ~intermezzo 円舞曲 作家名:orangelatte