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73 ~intermezzo 円舞曲

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1904年ミュンヘン―

女性に戻ったユリウスを伴ってフォン・ベーリンガー屋敷を出、三人で同じミュンヘン市内の別のアジトに潜伏したアルラウネは、とある日ユリウスにいつものドレスとは少し違ったドレスを着せた。
それは―夜会などで着用するような、パニエでスカートを膨らませた、胸元と腕の出るパーティ用のドレスだった。淡いブルーに白のレースがあしらわれたそのドレスは白い肌と金髪の美少女の可憐さをよく際立たせていた。
ドレスの裾を整え、長手袋をはめさせ、髪もいつものようなシンプルなアップスタイルではなく、顔の周りを巻いた少し華やいだパーティ用の髪型に作りこむ。

「あの…?」

鏡に映っためかし込んだ姿に戸惑ったユリウスは鏡越しにアルラウネを見上げる。

「今日は…いつもと少し違った勉強をします。― サロンへ行きましょう」

アルラウネはユリウスに、サロンへ向かう様に促した。

「何だよ、アルラウネ。今日の日課って…!―え?!」

サロンには既に―、タキシードに身を包んだクラウスが待たされてむくれながら待機していた。

ややあって、サロンに入って来たアルラウネと、その後ろに付き従って来た、美しくドレスアップしたユリウスの姿に、暫し言葉をなくしてじっと彼女を凝視する。
そう―。あのクリームヒルトの扮そうで初めて皆の前に現れたときのように。

アレクセイの視線に気づいたユリウスが、頬を染めて俯いた。

「そういう事を言わないの。― 淑女の支度は時間がかかるものなのよ。…何ぼうッとしてんの!淑女が入室してきたらどうするの?さっさとダンスに誘いなさい!」

アルラウネにせっつかれたアレクセイとユリウスが「え?」という顔で義姉の顔を見る。

「今日のカリキュラムは…ダンスです。…ほら!早く」

アルラウネがパンと手を叩いた音にアレクセイは我に返ったように、ユリウスに恭しく手を差し伸べて、「フロイライン、一曲お願いします」とダンスに誘った。
元々が貴族のアレクセイだ。子供の頃からそういった素養と経験があったのだろう。なかなか板についている。
アレクセイに手を差し伸べられたユリウスがおずおずとその手に自分の手を乗せる。

「ユリア、顔が固い!ニッコリ笑いなさい。せっかく綺麗な顔をしてるんだから」

すかさず義姉の鋭いツッコミが入る。

ユリウスがはにかんだぎこちない笑いを浮かべる。

それを見てアルラウネが蓄音機のレコードに針を落した。

サロンに優雅なワルツが流れる。

「さ、アレクセイ。ユリアをリードなさい。出来るでしょ?」

「俺に身体を預けろ…。大丈夫だから」

手を取ったユリウスの耳元で囁くと、彼女をホールドして小さく「123」とカウントしながらアレクセイは音楽に乗って巧みに彼女をリードした。

「音楽をよく聞いて。…そうだ、123…」
時折ユリウスの耳元で囁きながらアレクセイがユリウスを巧みにリードして、フロアいっぱいにダンスのステップを踏んでいく。
アレクセイのリードと耳元で囁かれるアドバイスに、次第にユリウスもコツを掴んでいき最後は笑顔でワルツに興じていた。

やがて曲が終わり、アレクセイが「ありがとうございました。フロイライン」とユリウスの手の甲に恭しく口づけた。

アルラウネが二人のワルツに拍手をする。

「なかなか上手じゃない。全然駄目だったら音楽を一旦止めて、ステップを一から教え込まないとダメかと思ったけど…、男性のリードだけでこれだけ踊れれば問題ないわ。アレクセイも、いいリードだったわよ。…なかなかやるじゃない。やっぱり意中の女性と踊るときは本気度が全然違うものね~」

「こいつは元々運動神経も音感もいいから、女性のステップは初めてでもすぐに踊れるとは思ってたぜ。てか、最後の一言は何だよ?おれのリードはいつも冴えてるぜ?!」

ユリウスは初めて―しかも恋人にリードされて踊ったダンスにすっかり興奮して白い肌をうっすらとばら色に紅潮させていた。

「ダンスって…とても楽しいんですね。…こういうの…ちょっと憧れていたから」
―だから、とても嬉しい。
最後の言葉を囁くように言うと、ユリウスは少しはにかんだ様な笑顔を二人に向けた。
ピンクの早咲きの薔薇の蕾が綻びかけるような、そんな可憐な愛らしい少女の笑顔だった。

その笑顔に、アレクセイも…そしてアルラウネも思わず心を蕩かされた。

作品名:73 ~intermezzo 円舞曲 作家名:orangelatte