73 ~intermezzo 円舞曲
「あぁ、あったな《ダンスの授業》。あの時のドレスアップしたお前…本当に可愛かったなぁ」
「うふふ…。あのドレス、本当に嬉しかった。何よりうれしかったのは…あなたがまるでレディにするようにぼくの手を取って踊ってくれたこと」
昔を思い出しながら、ユリウスは隣に座った夫の肩に頭をもたせかけた。
「おれも…嬉しかった。子供の頃はダンスなんてクソつまらね~と思ってたけど、お前をリードして踊った時に、「ああ、ダンスって好きな女と踊るとこんなに楽しいんだな」って思ったよ」
妻の頭を抱き寄せ、髪に指を絡めて夫も往時を回顧する。
「結局あのダンスの授業は…ロシアでは全然役立たなかったね」
「ああ、そうだな。…俺たちロシアでは結局全然ダンスなんか踊らなかったもんなぁ」
そのダンスの授業から間もなく三人はロシアへと旅立ち、その後のユリウスの妊娠出産、そしてアレクセイのシベリア流刑…と結局あれ以来二人はダンスを踊ることもなく、あの革命の時を迎えたのだった。
「さ、もうひと頑張りしようか!」
暫しの休憩を終えて、ユリウスが元気よく長椅子から立ち上がる。
女ざかりを迎え、昔とは比べ物にならにならない程洗練されエレガントな女性らしさを漂わせている彼女であるが、すくっと立ち上がってアレクセイを見下ろした碧の瞳が、少女の頃のように快活に輝く。
その表情に瞳の輝きに、アレクセイはたまらない愛おしさがこみ上げる。
「ああ、そうだな。優雅にステップ踏んで他の国の奴らの目をくぎ付けにしてやろうぜ」
少年のようないたずらっぽい笑顔を浮かべてアレクセイも立ち上がると、再びレコード針に針を落して、ユリウスに恭しく手を差し出す。
「一曲お願いします。マダム」
「喜んで」
昔と変わらぬ美しさで、昔とは比べ物にならない艶やかな笑みを浮かべながら、優雅な仕草でユリウスは差し出された手に自分の手を乗せた。
作品名:73 ~intermezzo 円舞曲 作家名:orangelatte