永遠にともに〈グリプス編〉7
section 10 接触
エゥーゴとティターンズが一進一退の攻防を繰り広げるなか、ハマーン・カーン率いるジオン公国の要塞 “アクシズ” は地球圏へと到達した。
地球圏の混乱に乗じて公国再興を図ろうとするジオン公国の残党に、警戒感を強めるエゥーゴとティターンズ。
しかし、両者はともに戦局を有利にするため、アクシズの戦力を利用しようとしていた。
エゥーゴ最大の出資者であるアナハイムエレクトロニクス社のウォン・リーを乗せたアーガマはアクシズを出立した先遣艦隊に接触するため、その空域に向かい航行していた。
ダカールでの演説を終え、再び宇宙へと戻ったシャアとアムロは無事アーガマに帰艦し、今はアーガマ内のシャアの私室で2人向かい合っていた。
「シャア…。アクシズの…ハマーン様の事、これからどうするつもりですか?」
アムロはベッドに座り、側に立つシャアを見上げる。
「エゥーゴはアクシズと同盟を?」
「ウォン・リーはそのつもりの様だな。」
シャアは肩を少し上げ、溜め息まじりに答える。
「私としてはアクシズの地球圏到達は少しタイミングが早すぎた。できればティターンズとの決着がついた後のが良かったのだがな…。」
おそらく、潜入したシャア達と連絡が取れず、痺れを切らした重鎮達に押し切られたのだろう。まだ若いハマーンにそれを抑えろというのが無理な話だ。
「アクシズとしてはこの混乱に乗じてジオン公国の再興を推し進めたいのだろうが、今はまだその時ではない。そもそも、ジオン本国の準備も整っていない。」
シャアのその言葉にアムロは少し考え込む。
「…シャア…。貴方はジオン公国を再興するつもりなんですか?」
アムロのその問いに、小さく溜め息をつくと、スクリーングラスを外しながらアムロの隣に座る。
「ジオン共和国は…私の祖国でもある。しかし、ザビ家の支配したジオン公国は私の求める祖国では無い。それを再興しようとは思わない。」
かつて、父を暗殺されザビ家に祖国を追われた。その後も執拗に命を狙われ、なんの罪も無い母を死に追いやったザビ家に復讐を誓った。
そして、復讐を遂げるという事は即ち、ジオン公国の衰退を意味していたが、それでも成し遂げずにはいられなかった。
ア・バオア・クーでキシリアを葬り、復讐を成し遂げた後、戦場の混乱で姿を眩ますつもりでいた。
しかし、その時グワダンで脱出しようとしていたドズル・ザビの妻ゼナと、まだ1歳にもならない忘れ形見、ミネバに会った。2人の乗る守りの薄いグワダンでは連邦軍に拿捕されるか撃墜される恐れがあった為、グワダンのドックにあったゲルググに乗り込み、2人の乗ったグワダンを守りながらその空域を脱出した。そして、そのまま自身も2人と共にアクシズへと向かってしまった。
正直、何故あんな行動を取ったのか自分でもよく判らない。
復讐とはいえ父親を奪ってしまった罪滅ぼしの気持ちがあったのか、幼いミネバに、大人の事情で父親を失ったかつての自分を重ねたからなのか、ただ、どうしても2人を見殺しにする事が出来なかった。
「私が求めるのはジオンの再興では無く、スペースノイドの独立だ。」
「シャア…」
「かつて、父が提唱したジオニズム…スペースノイドによる人類の革新という言葉は、それを都合のいい様に解釈し、利用したザビ家の暴挙によって、アースノイドとスペースノイドとの間に大きな溝を作り、スペースノイドへの圧政へと繋がってしまった。父の子として、その歪みを正す事が私の役目でもあると思う。」
「シャア…」
そう、思い詰める様に語るシャアをアムロはそっと抱きしめる。
「損な性格だね、貴方。もっと楽な生き方も出来るのに…。」
「アムロ…」
「でも、それが貴方なんですよね。それに、貴方ならそれが出来る。アクシズの上層部やハマーン様にもそれを理解して貰えるといいけれど…」
1年戦争後、地球連邦政府からの弾圧を受けたジオン公国にとって、連邦からの独立と公国の再興は悲願である。しかし、長年に及ぶ弾圧はサイド3のジオン本国の戦力を削ぎ、国民からその希望を失わせていった。
しかし、地球圏から遠く離れ、時間に取り残されたアクシズでは、その希望は失われず、独自のモビルスーツ開発や軍事の増強が行われ、着々とその時を伺っていたのだ。
無血の独立を目指していたマハラジャ・カーンが提督としてアクシズを制している間は、その時を見誤る事なく沈黙を守り続けていたが、そのマハラジャ亡き後、跡を継いだハマーンは穏健派と強硬派の抗争を目の当たりにし、また、裏切りや上層部の確執、そして偉大な父の跡を継いだことによるプレッシャーから、父親とは違う方法での独立を目指す様になっていった。
連邦からの確実な独立を果たすためならば戦闘も厭わないという、かつての強硬派寄りの方法で…。
「潜入成功の連絡以降、私が偵察の経過報告をしなかったのがアクシズの性急な地球圏帰還を許してしまった…。」
「アクシズに連絡を取らなかったのは…ジオンへ戻ることに迷いがあったからですか?」
アムロの鋭い指摘にシャアが小さく溜め息を吐く。
「そうだな…。正直なところ…ジオンから離れたかった。しかし、シャア・アズナブルである事を…キャスバル・レム・ダイクンである事をダカールで明かしてしまったからな。結局ジオンからは離れられない運命の様だ。」
少し悲しげな表情を浮かべるシャアの頬をアムロは両手でそっと包み込む。
「貴方だけに背負わせません。オレも一緒に支えます。だから…1人で全て抱え込まないで下さい。」
微笑むアムロにシャアの心が少し軽くなる。
「それは…心強いな。」
「誓ったでしょう?永遠にともにあると…」
「ああ、君がいなければ、きっと私は壊れてしまう。だから、もしもの時は私も一緒に連れて逝ってくれ。」
「はい…。でも、出来る事ならば貴方と共にずっと生きて行きたい。だからギリギリまで諦めませんよ。」
不敵に微笑むアムロにシャアも微笑む。
「そうだな」
アムロはそのままシャアの顔を引き寄せ、唇をシャアのそれにそっと重ねる。
「誓いのキスです。」
その言葉にシャアは一瞬目を見開くと、クスリと笑い、今度はシャアからアムロにキスをする。それは触れるだけのアムロのキスとは違い、互いの吐息を奪う様な激しく深いものだった。
「君に誓おう。何があろうとも君と共に生きると」
そのまま2人はベッドに倒れ込み、素肌に触れ、心に触れ、互いの愛を確かめ合う。
ーーーー
…アクシズのシャアの屋敷。コールドスリープから目覚めてからの3年あまりを過ごした場所。アムロは懐かしいその場所に佇んでした。
「夢?眠る前にアクシズの話をしていたからかな…。」
アムロは夢だと認識しつつ、懐かしい屋敷のリビングを見渡す。そして、足元に寄り添う懐かしい愛犬、ルシファの頭を撫ぜる。
「ルシファ!!」
すると、後ろから声が聞こえる。
『アムロ。私は力をつけ父のようにこのアクシズを掌握し、必ず地球圏へ帰還してみせる。その時にはシャア大佐とアムロの2人を私のモノにしてみせる!』
あの日、ハマーンに告げられた言葉。
「そういえば、まだシャアに話してなかったな…。一応話しておいた方がいいよな…。」
エゥーゴとティターンズが一進一退の攻防を繰り広げるなか、ハマーン・カーン率いるジオン公国の要塞 “アクシズ” は地球圏へと到達した。
地球圏の混乱に乗じて公国再興を図ろうとするジオン公国の残党に、警戒感を強めるエゥーゴとティターンズ。
しかし、両者はともに戦局を有利にするため、アクシズの戦力を利用しようとしていた。
エゥーゴ最大の出資者であるアナハイムエレクトロニクス社のウォン・リーを乗せたアーガマはアクシズを出立した先遣艦隊に接触するため、その空域に向かい航行していた。
ダカールでの演説を終え、再び宇宙へと戻ったシャアとアムロは無事アーガマに帰艦し、今はアーガマ内のシャアの私室で2人向かい合っていた。
「シャア…。アクシズの…ハマーン様の事、これからどうするつもりですか?」
アムロはベッドに座り、側に立つシャアを見上げる。
「エゥーゴはアクシズと同盟を?」
「ウォン・リーはそのつもりの様だな。」
シャアは肩を少し上げ、溜め息まじりに答える。
「私としてはアクシズの地球圏到達は少しタイミングが早すぎた。できればティターンズとの決着がついた後のが良かったのだがな…。」
おそらく、潜入したシャア達と連絡が取れず、痺れを切らした重鎮達に押し切られたのだろう。まだ若いハマーンにそれを抑えろというのが無理な話だ。
「アクシズとしてはこの混乱に乗じてジオン公国の再興を推し進めたいのだろうが、今はまだその時ではない。そもそも、ジオン本国の準備も整っていない。」
シャアのその言葉にアムロは少し考え込む。
「…シャア…。貴方はジオン公国を再興するつもりなんですか?」
アムロのその問いに、小さく溜め息をつくと、スクリーングラスを外しながらアムロの隣に座る。
「ジオン共和国は…私の祖国でもある。しかし、ザビ家の支配したジオン公国は私の求める祖国では無い。それを再興しようとは思わない。」
かつて、父を暗殺されザビ家に祖国を追われた。その後も執拗に命を狙われ、なんの罪も無い母を死に追いやったザビ家に復讐を誓った。
そして、復讐を遂げるという事は即ち、ジオン公国の衰退を意味していたが、それでも成し遂げずにはいられなかった。
ア・バオア・クーでキシリアを葬り、復讐を成し遂げた後、戦場の混乱で姿を眩ますつもりでいた。
しかし、その時グワダンで脱出しようとしていたドズル・ザビの妻ゼナと、まだ1歳にもならない忘れ形見、ミネバに会った。2人の乗る守りの薄いグワダンでは連邦軍に拿捕されるか撃墜される恐れがあった為、グワダンのドックにあったゲルググに乗り込み、2人の乗ったグワダンを守りながらその空域を脱出した。そして、そのまま自身も2人と共にアクシズへと向かってしまった。
正直、何故あんな行動を取ったのか自分でもよく判らない。
復讐とはいえ父親を奪ってしまった罪滅ぼしの気持ちがあったのか、幼いミネバに、大人の事情で父親を失ったかつての自分を重ねたからなのか、ただ、どうしても2人を見殺しにする事が出来なかった。
「私が求めるのはジオンの再興では無く、スペースノイドの独立だ。」
「シャア…」
「かつて、父が提唱したジオニズム…スペースノイドによる人類の革新という言葉は、それを都合のいい様に解釈し、利用したザビ家の暴挙によって、アースノイドとスペースノイドとの間に大きな溝を作り、スペースノイドへの圧政へと繋がってしまった。父の子として、その歪みを正す事が私の役目でもあると思う。」
「シャア…」
そう、思い詰める様に語るシャアをアムロはそっと抱きしめる。
「損な性格だね、貴方。もっと楽な生き方も出来るのに…。」
「アムロ…」
「でも、それが貴方なんですよね。それに、貴方ならそれが出来る。アクシズの上層部やハマーン様にもそれを理解して貰えるといいけれど…」
1年戦争後、地球連邦政府からの弾圧を受けたジオン公国にとって、連邦からの独立と公国の再興は悲願である。しかし、長年に及ぶ弾圧はサイド3のジオン本国の戦力を削ぎ、国民からその希望を失わせていった。
しかし、地球圏から遠く離れ、時間に取り残されたアクシズでは、その希望は失われず、独自のモビルスーツ開発や軍事の増強が行われ、着々とその時を伺っていたのだ。
無血の独立を目指していたマハラジャ・カーンが提督としてアクシズを制している間は、その時を見誤る事なく沈黙を守り続けていたが、そのマハラジャ亡き後、跡を継いだハマーンは穏健派と強硬派の抗争を目の当たりにし、また、裏切りや上層部の確執、そして偉大な父の跡を継いだことによるプレッシャーから、父親とは違う方法での独立を目指す様になっていった。
連邦からの確実な独立を果たすためならば戦闘も厭わないという、かつての強硬派寄りの方法で…。
「潜入成功の連絡以降、私が偵察の経過報告をしなかったのがアクシズの性急な地球圏帰還を許してしまった…。」
「アクシズに連絡を取らなかったのは…ジオンへ戻ることに迷いがあったからですか?」
アムロの鋭い指摘にシャアが小さく溜め息を吐く。
「そうだな…。正直なところ…ジオンから離れたかった。しかし、シャア・アズナブルである事を…キャスバル・レム・ダイクンである事をダカールで明かしてしまったからな。結局ジオンからは離れられない運命の様だ。」
少し悲しげな表情を浮かべるシャアの頬をアムロは両手でそっと包み込む。
「貴方だけに背負わせません。オレも一緒に支えます。だから…1人で全て抱え込まないで下さい。」
微笑むアムロにシャアの心が少し軽くなる。
「それは…心強いな。」
「誓ったでしょう?永遠にともにあると…」
「ああ、君がいなければ、きっと私は壊れてしまう。だから、もしもの時は私も一緒に連れて逝ってくれ。」
「はい…。でも、出来る事ならば貴方と共にずっと生きて行きたい。だからギリギリまで諦めませんよ。」
不敵に微笑むアムロにシャアも微笑む。
「そうだな」
アムロはそのままシャアの顔を引き寄せ、唇をシャアのそれにそっと重ねる。
「誓いのキスです。」
その言葉にシャアは一瞬目を見開くと、クスリと笑い、今度はシャアからアムロにキスをする。それは触れるだけのアムロのキスとは違い、互いの吐息を奪う様な激しく深いものだった。
「君に誓おう。何があろうとも君と共に生きると」
そのまま2人はベッドに倒れ込み、素肌に触れ、心に触れ、互いの愛を確かめ合う。
ーーーー
…アクシズのシャアの屋敷。コールドスリープから目覚めてからの3年あまりを過ごした場所。アムロは懐かしいその場所に佇んでした。
「夢?眠る前にアクシズの話をしていたからかな…。」
アムロは夢だと認識しつつ、懐かしい屋敷のリビングを見渡す。そして、足元に寄り添う懐かしい愛犬、ルシファの頭を撫ぜる。
「ルシファ!!」
すると、後ろから声が聞こえる。
『アムロ。私は力をつけ父のようにこのアクシズを掌握し、必ず地球圏へ帰還してみせる。その時にはシャア大佐とアムロの2人を私のモノにしてみせる!』
あの日、ハマーンに告げられた言葉。
「そういえば、まだシャアに話してなかったな…。一応話しておいた方がいいよな…。」
作品名:永遠にともに〈グリプス編〉7 作家名:koyuho