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リハビリ一日トライアル

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ペイラーは基本的に放任主義であるし(むしろ彼はシオがどの程度まで学習し、知能を高めていくのかを観察したいと思っているらしい)、アリサは出来るだけ文学的な言葉を覚えさせようとしている節がある(会話に使えないような言葉を覚えさせてはコウタと口論になっているらしい)。コウタはむしろ年相応の喋り言葉やスラングを教えては面白がっているし(後で皆がこっそりシオの知識を軌道修正していることには気づいているのかいないのかわからない)、サクヤや新型は時々こっそりシオに何かを吹き込んでいるようだが何を教えているのかは定かではない。
――では、自分は?
彼らが一生懸命シオの面倒を見ている半面、ソーマは余りシオに何かを教えると言う事はしていない。余り何かを教えるような性格ではない、と自覚している所為もあるが、――傍にいる事は多くとも、余り言葉を交わした事はないのかもしれないと、不意に気づく。
基よりソーマは口達者な性質ではない。ペイラーの要請によってシオの傍にいることは多いが、さりとて会話をした回数は思いのほか少なく、ただ傍にいるだけだ。シオもソーマに対しては余り食い下がって何かを問うてくる事はない。むしろ何かを知りたい時、シオはアリサやコウタ、サクヤに頼っている節があった。あの三人ならば自分に答えてくれることを知っているのだろう、或いは彼らに――特にアリサとコウタに聞けば、一の質問に十や二十の返答が得られることを覚えて情報収集に活用しているのかもしれない。
それでも、ペイラーによれば『一番シオが懐いているのはソーマだ』と言うのだからよくわからない。
わからない、けれど。
「‥‥心配するな。何でもない」
「そうか? ソーマはあまりしゃべってくれないから、よくわからない」
苦笑して答えた言葉にむう、と口を尖らせるシオの表情は、まるで拗ねた子供のようで。
その可愛らしさに思わずソーマが口元を綻ばせてシオの頭をぽんぽんと軽く叩いたその時、不意に蝶番の軋む幽かな音が耳朶を叩いた。
咄嗟にソーマがぱっと顔を上げると、閉めた筈のドアが薄く開き、其処から覗く五つの視線。
「ねぇ、今の見た?」
「‥‥見た」
「勿論見ました」
「見た見た、バッチリ見た!」
「いやあ、予想外だねえ」
色も形も違う五つの視線が、ドアの細い隙間で縦に連なり口々に囁く言葉が聞こえる。そのどれもがからかいに近い色を含み、笑んでいる事に気付いた瞬間。
「おまえら‥‥‥‥!」
一気に顔が熱くなり、心拍数が上昇する。思わず立ち上がりながら零した怒声にシオはきょとんと小首を傾げ、ドアの隙間に覗いていた顔は目をぱちくりさせたかと思うや、即座に――開いた時とは対照的に――ばたんとドアを閉めて、消えた。
「どうした、ソーマ?」
何が起きたのかわかっていないのだろうシオの言葉に言い返す余裕もなく、ソーマはその場に立ち尽くす。
「みんな来てたのか? 何処か行っちゃったのか? シオ、みんなと遊びたいぞー」
あれー? と呟いて首を傾げる事しきりのシオを足元に絡めたまま、ソーマは羞恥と焦燥に冷や汗をだらだらと流す。
――見られた。
ソーマとて感情のない人形ではないのだから笑う事もある、が――普段は人を寄せ付けないようにと、敢えて仏頂面を装っている内にそれが当たり前になってしまったのも事実だ。元々余り感情豊かな性質でもなければ感情の起伏が激しい性質でもないので当然と言えば当然だが、。
油断していたと言えば、油断していたのだろう。シオが余りにも屈託なく笑うから、――彼女には先入観と言うものがないから、ソーマも素の自分で笑う事が出来るのだけれど。
まさかそれを、他の連中に見られてしまうとは思わなかったと一人ごち、ソーマは必死に考えを巡らせる。
今のはなかったことにしてくれ、と全力で叫びたい処であったが、既に閉じられたドアの向こうに人の気配はなかった。恐らくはダッシュで全員が逃げ出したのだろう、娯楽に飢えている連中のことだからどうせろくでもないことを言い合っているに違いない。忘れろと言ったところでからかってくるのは目に見えている、――幾ら後悔してみたところで時間を戻すことも出来なければ、彼らの記憶を消す術もない。
――いっそ拳骨の一つ二つも全力で脳天に見舞ってやれば、連中の記憶を消すことも出来るだろうか。
何とも物騒な事を考えつつ、ソーマは堅く拳を握りしめる。その、人間離れした威力を持つ拳を、だ。
どっと襲ってくる羞恥と焦燥に青くなったり赤くなったりを繰り返すソーマの顔を見上げ、シオは右へ左へと首を傾げることを繰り返していた。



一方、ペイラーの研究室から逃げ出した面々は、サクヤの部屋に逃げ込んで清々しい笑顔を浮かべていた。
「ソーマがあんな可愛い顔するなんて予想外だったわー!」
「本当ですね! いつも無愛想なのに、シオちゃんの前ではあんな顔をするなんて驚きました」
「仏頂面しか出来ないのかと思ったら、ちゃんと笑えるんだもんなー。ちょっと意外!」
「まあ、彼も冷血漢ではないからねえ。それだけシオの事を可愛がっているってことさ。余りからかわないでやってくれよ。後々大変な目に会うのは君たちだよ?」
「博士だって笑ってたじゃないですか。元々、覗き見しようって私たちを呼んだのも博士でしょう?」
「まあ、そうだけどね。シオを保護してからの彼は、随分と感情を表に出すようになったから、いい傾向だと思ってね」
「お陰で面白いものが見れたから、俺は満足っすけどね!」
「次に顔を合わせた時、思い出して笑っちゃいそう‥‥」


初めて、と言っても過言ではない(屈託のない)ソーマの笑顔を思い浮かべながら、さてどうやって弄ってやろうかと算段する面々は、当の本人が皆の記憶抹消を狙って拳骨を固めている事実を未だ知らない。


作品名:リハビリ一日トライアル 作家名:柘榴