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第二部 レーゲンスブルグ編1(74)であい

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今まで性別を偽って来たから、ぼくは男の人のようにズボンを穿いて生活してきた。
なのでスカートの下の無防備な下半身に、殊更寒さが身にしみる。

おまけに女性の靴は靴底が薄い。

床から昇って来る冷えが靴底を通して下半身をダイレクトに襲ってくる。

持ち上げた足にギュッと力を入れ、肩から羽織っていた毛織物のショールの前を固く合わせる。

真冬のサンクトペテルブルグの日は短い。おまけに北国の冬は曇りがちで日が満足に射す日もそう多くはない。

日中は掃除や家事に精を出したりしてなるたけ身体を動かして寒さをやり過ごすことに専念するが、この狭いアパートにそうそう掃除する場所なんてありはしない。どんなに念入りに掃除や洗濯に精を出したところで、昼前には全て終わってしまう。
午前中の家事を一通り終えて、テーブルについて課題やロシア語の勉強を始めるころにはめったに射さない日ざしは既に西に大きく傾き始め、寒さが増してくる。

― うう…。寒い。

ぼくは、視線を上げ恨めし気に窓の外に目をやった。
その時―。

窓辺に干していたアレクセイのズボンがぼくの目に入る。

思いついて…、ぼくはそのズボンをスカートの下に穿いてみたんだ。

アレクセイのズボンは、やっぱりぼくにはかなり大きくて、ウエストは押さえていないとずり落ちてくるし、裾はスカートの裾からはみ出して床にずってしまう。

― ベルトベルト…。

ずり落ちるウエストを押さえながらクロゼットの中からアレクセイのベルトを探し出す。
穴が足りなかったので、アイスピックで穴を開けて、どうにかズボンはウエストに留まってくれた。

裾はまくり上げてスカートの中に収めた。


姿見に映して、スカートからズボンが出ていないかを確認する。

「うん!OK」

ぼくはこのアイデアに満足して姿見の自分に向かって大きく頷いた。

中に一枚ズボンを穿いていると驚くほどに冷えが軽減される。
それに―、アレクセイのズボンを穿いていると、何となく彼に温められているような気がしてきて…心までほっこりと暖かくなってくる気がするんだ。

アレクセイのズボンの暖かさに包まれて、ぼくは再び机に戻り勉強の続きを始めた。