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永遠にともに〈グリプス編〉8

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部屋に入るなり、頭を固定され激しく口付けられる。
「んっんんん」
呼吸もままならない程の口付けに意識が遠のきかけ、ガクリと膝を落とすアムロの腰を逞しい腕が支える。そしてもう片方の手で顎を掴み上向かせると、涙で潤んだ琥珀色の瞳がシャアを見つめた。
「シャ…ア…、ごめん」
その、切なげで憂いを含んだ表情にドクリと心臓が跳ねる。シャアは降参だと言わんばかりに大きく溜め息を吐くと強くアムロを抱きしめた。
「アムロ、君は私のモノだ。誰にも触れさせたくない。」
そっと耳元で囁かれるその悲痛な声にアムロは胸を締め付けられる。
「ごめん!ごめん…シャア…。」
アムロはシャアの背中に手を回し、縋り付いて謝る。
「ハマーンの心に触れて、突き放せない君の優しい気持ちは分かっている。しかし、私は君に関しては酷く狭小になってしまう様だ。君が他の誰かにその唇を奪われるのは耐えられない。」
シャアはそのままアムロをベッドに押し倒すとその上にのし掛かり、青い制服のジャケットを脱がしていく。
シャアの激情を肌に感じながら、アムロはシャアの頬を両手で包み込み、そのスカイブルーの美しい瞳を見つめる。
「オレは優しくなんかない。ハマーン様の…あの、縋る様な手を取らなかった。…貴方の側に居たかったから…。」
そっと己の唇をシャアのそれに重ねる。
「何があっても…誰を敵に回しても貴方の側に居たい…」
アムロの想いの激情が肌から直接シャアへと伝わる。その熱い想いを受け取ると、シャアはアムロを強く掻き抱いた。

シーツの中で、その逞しい腕に頬を乗せ、ポツリ、ポツリとアクシズであの日、ハマーンとの間にあった出来事をシャアに伝える。
ハマーンが自分たちを引き止めに来た事。
自分がアラン・マスではなく、アムロ・レイだと知っていた事。自分とシャアとの関係。そして、ハマーンの決意を…。
「ハマーン様は貴方を心から求めてる。そして、ニュータイプとして共感したオレの事も…」
それを聞きながらシャアは思う。
『ニュータイプ同士の共感をしたからと言ってキスはしない…。おそらくハマーンは恋愛の対象としてアムロを求めている。そして、自分に対してのハマーンの思いは憧れの域を出ていないだろう。』
柔らかい赤茶色のくせ毛を指で梳く。
アムロは自身に対する評価が低すぎる。自分がどれだけ周りの人間を魅了しているか全く気付いていない。
ニュータイプとして周りに求められるあまり、その能力だけが自分の価値であり、それが無ければ自分には全く価値が無いと思っている。おそらくそれは幼い頃、両親に顧みられなかった事が大きく影響しているのだろう。
「ハマーンにはすまないと思っている。しかし、ザビ家の再興は私の望むところでは無い。だが、エゥーゴの戦力云々を考えれば表面上だけでも同盟を結ぶべきなのは分かっているのだがな…。」
「シャア…」
「あそこであんなに感情的になるなど…私もまだまだ人間が出来ていないという事だな。」
シャアはアムロをその腕に抱きしめる。
ザビ家…、父を殺し、自分と妹を祖国から追放して、母を孤独な死に追いやった者たち…。そして父の名や思想を利用してあの戦争を始めた一族…。
その一族を再興?
おまけに幼いミネバを担ぎ出し、ザビ家の再興を称える言葉を聞き頭に血が昇った。
本当に自分はまだまだ青いな…と自嘲する。
「この機をシロッコが見過ごすとは思えない…おそらくシロッコはアクシズとティターンズの同盟締結を成し遂げるでしょう…。けれど、その同盟は強固なものでは無いはずです。きっとまだチャンスはあります。」
アムロはシャアを見上げてその力強い視線を向ける。
その意思の強い琥珀色の瞳に見入ると、「そうだな…」と頷く。
こうしていつも自分を導いてくれる存在に胸が熱くなる。
「アムロ…、その力強い偽りのない瞳で私を導いてくれ…。」
シャアはそっとアムロの瞼にキスをすると、その肩に顔を埋めて縋り付いた。
「私には君が必要だ…。ずっと側にいてくれ…」
「はい…。」
アムロは自分より一回り大きいその背中をそっと抱きしめた。


そして、数日後にアクシズはティターンズのシロッコと同盟を結ぶ事となる。
しかし、予想通りハマーンはティターンズと同盟を結びつつ、エゥーゴを支援するアナハイムエレクトロニクス社の会長、メラニー・ヒュー・カーバインとサイド3の譲渡を条件に秘密裏に手を結び、ティターンズのコロニーレーザー“グリプス2”によるグラナダ攻撃作戦の阻止に手を貸すことを約束した。
その交渉の際、カーバインと共にシャアもハマーンとの交渉の場に赴き、屈辱に耐えハマーンに頭を下げたのだった。

交渉から帰ったシャアはアーガマの艦橋でブライト達への報告を済ませるとアムロの私室へと足を向ける。
そのシャアをアムロは両手を広げて迎え入れた。
「お疲れ様。」
シャアはその腕の中に顔を埋める。
「これで何十万もの人が救われるのならば何でもない。」
「シャア…」
何でもない筈がない。ハマーンに頭を下げるという事はザビ家の再興を認めるという事だ。
アムロはシャアの辛い心中を思い、腕の中の愛しい人をギュッと抱きしめる。
その腕の暖かさにアムロの優しい心を感じてシャアはふっと笑みを浮かべた。
「この腕があれば私はどんな事でも乗り越えていける。」
2人は視線を合わせると、どちらともなく唇を重ねた。

アクシズの協力によりグリプス2によるグラナダへの攻撃は回避された。
しかし、エゥーゴと手を組んだかに見えたハマーンだったが、その一方で、ジオン公国の宇宙要塞ア・バオア・クーを接収、改称したティターンズの軍事拠点、ゼダンの門においてジャミトフと会見を行っていた。ザビ家再興の後押しを約束させるためである。しかし、交渉は決裂し、ハマーンはジャミトフの暗殺を試みると同時に、エゥーゴに援護を要請した。
エゥーゴの攻撃によってティターンズ艦隊は大きな被害を受け、その混乱に乗じて野心を持つシロッコはジャミトフを殺害し、ティターンズの実権を握ることに成功した。
そして、ハマーンもまた、混乱の最中グリプス2を制圧した。

「まさかハマーンにグリプス2を奪われるとはな…」
シャアが溜め息混じりに呟く。
「ハマーン・カーン…。流石というか…、やはりニュータイプとして先見の眼を持っているのでしょうな。」
艦橋でシャアとブライトがコーヒーを片手に向き合う。
「それから、パプテマス・シロッコ。まんまとジャミトフを退けティターンズの実権を握ったらしい。」
その名にシャアは手の中のコーヒーカップを握りしめる。
ーーーパプテマス・シロッコ…。ムラサメ研究所に囚われたアムロにマインドコントロールを施し、その身体や心を深く傷付けた男。
一部の天才のみが支配し創り上げる世界こそが地球を救うと説くこの男は、深い闇を持つ瞳で人々を悪しき道へと導いて行く。
「あの男だけは絶対に許さない。今、この時という時に生きていてはいけない人間だ。」



section 12 決戦

エゥーゴはアクシズの手に落ちたコロニーレーザーを奪取すべく、グリプス2を渦のように取り囲むメールシュトローム作戦を始動する。