永遠にともに〈グリプス編〉8
そして、その作戦を成功させ、グリプス2を制圧したエゥーゴに対し、アクシズとティターンズは総力戦を仕掛けてきた。
三つ巴の争いとなり、加速度的に悪化していく戦況の中、カミーユは人々を戦いに駆り立てる悪意の存在を感じずにはいられなかった。
「パプテマス・シロッコ、ハマーン・カーン…あの2人がこの戦争の中心だ。あの2人を倒さねければこの戦争は終わらない!」
戦況の悪化は、多くの人々の命を宇宙に散らしていった。
ロッカールームでシャアとアムロ、そしてカミーユがノーマルスーツへと着替える。
「カミーユ、おそらくこれが最後の出撃となる。」
「はい!クワトロ大尉。」
カミーユはスーツのファスナーを首元まで引き上げ気合を入れる。
「コロニーレーザーでティターンズの艦隊を殲滅させる為に何があってもレーザーを守りきるぞ。」
「はい!」
すると、隣に居たアムロがおもむろに右足に装着した銃を取り出し、弾を確認する。
「アムロさん?」
アムロは銃を確認しながらカミーユに視線を向ける。
「1年戦争の時の…ア・バオア・クーでの作戦前の時と同じ感じがする…。白兵戦になるかもしれない。」
ーーーあの時…、明らかに悪い戦況にも関わらず、自分の心が凪いでいたのを思い出す。
覚悟を決めたからのか、戦場に赴くというのにとても心が静かだった。
作戦を成功させ勝利を勝ち取ろうという闘志や死への恐怖はもちろん有った。けれど、そういうものを超えていたのだと思う。
静かに告げるアムロにシャアとカミーユが視線を合わせる。
するとアムロが遠くに視線を向ける。
「…ラーディッシュが攻撃を受けてる…アクシズの攻撃が加わってかなり戦況が悪い…。シャアは作戦通りレーザーの守りに入ってくれ。オレとカミーユでラーディッシュの援護に向かう。」
静かに告げるアムロにシャアとカミーユがゴクリと息を飲む。
ニュータイプとして完全に覚醒しているアムロは戦場の全てを把握しているのだ。
「カミーユ…、ジェリド・メサも戦場にいる。カミーユを探してる…。だけど奴にあまり気をとられ過ぎるな。それにヤザン・ゲーブル…奴もいるな、奴のが厄介だ…。」
アムロはふっと視線を戻すと銃をしまった。
そのアムロを凝視する2人と目が合う。
「何?」
自分が常人とは違う感覚を持っている事にイマイチ気付いていないアムロは目を見開き自分を見つめる2人に驚く。
「いや…、1年戦争の時も君はこうして戦況を把握していたのか?」
「え…?あ、うん。大体の事は…。オレが先頭に立って皆んなを連れてア・バオア・クーにとりつかなきゃいけなかったから、守りの薄いところを確認する為に…。」
「そうか…」
シャアは小さく息を吐きながら答える。
しかし、隣にいるカミーユは驚きで言葉が出なかった。
自身もそういった感覚を感じる事は出来る。
しかし、離れた場所から戦場全体の状況やパイロット達の心情までも冷静に読み取るアムロに驚きを隠せない。
おそらく、戦場に立てば自分も相手のパイロットの事がわかる…でも、ここまで能力をコントロール出来ない。下手をすると周りの感情に取り込まれそうになる。
「凄い…」
思わず漏れた言葉にアムロがキョトンとする。
「何言ってんだ?カミーユのがオレなんかより遥かにニュータイプ能力は高いだろ?」
「いえ…、僕はここまでコントロール出来ていないので…」
「うーん。カミーユは能力が高過ぎるからコントロールが難しいのかも。前にオレが言ったみたいに少しずつ力を解放して心を研ぎ澄ませてごらん。きっと君ならコントロール出来るよ。」
にっこり微笑むアムロにドキリとする。
「は、はい!あ…、えっと、そ、それじゃ、先に行きます!」
高鳴る心臓に、そのままその場に居たらとんでも無い事を口走りそうで急いでその場を離れた。
走り去るカミーユの後ろ姿を見つめ、アムロが首を傾げる。
「オレ、なんか変な事言ったかな?」
そんなアムロにシャアは盛大に大きな溜め息を吐く。
「何!?その溜め息?」
「君は本当に…。」
もう少し自分の魅力を自覚してくれないだろうか…。と思うがこの恋人はそもそも自分の事がよく分かっていない。
そっとその愛しい身体を抱きしめると、アムロはこんな所で!と慌てて身じろぎするが、しばらくすると力を抜いて寄り掛かってきた。
「シャア…。まだ戦場には出てきていないけどシロッコとハマーン様の気配もする。」
「ああ…」
「2人とも貴方の命を狙ってる…。」
「だろうな。私を殺せばエゥーゴは自然解体だ。」
「それだけじゃない…。貴方の持つカリスマ性はあの2人にとって脅威なんですよ。」
「ふっ、私は君だけが振り向いてくれれば良いのだがな。」
シャアはそっとアムロに口付ける。
「貴方はオレが守ります…。でも、気を付けて。今回は様々な人々の思いが交錯していて複雑に入り乱れてる。オレの力が及ばないかもしれない…。」
「赤い彗星の腕を舐めてもらっては困るな。まだ腕は鈍っていないつもりだ。」
額をこつりと小突かれてアムロが少し微笑む。
「そうですね…。すみません。」
アムロの丸い頬を手のひらで包み込み、その琥珀色の瞳を見つめる。
「君の瞳は美しいな。吸い込まれそうだ。その瞳で私を導いてくれ。」
アムロの目蓋にキスをし、ゆっくりと唇を下に下ろす。そして、柔らかい唇にたどり着くと深く甘い口付けをする。
銀糸を引きながら離れる唇を見つめてアムロが切なそうな表情を浮かべる。
「そんな顔をするな。必ず作戦を成功させ君をまたこの腕に抱きしめる。」
「シャア…」
シャアはグローブをはめるとアムロの肩をポンと叩いてロッカールームを後にした。
その後ろ姿をアムロが口元を押さえながら見つめる。
ーーーどうしてこんなに不安なんだ…。何故か分からないけど…心を締め付けるようなこの不安は一体…。まさか…あの人が…死ぬわけ無い…。そんな事させない!
アムロは頭を振って不安を吹き飛ばす。
「大丈夫だ!!」
己に言い聞かせるように叫ぶと、拳を握りしめ、零式の待つモビルスーツデッキへと向かった。
《カミーユ、Zガンダム出ます!》
Zがアーガマを飛び出しウェイブライダーに変型してラーディッシュの援護へと向かう。
《零式、アムロ・レイ出ます!》
アムロもZの後を追いアーガマを飛び立っていく。
その光景を艦橋から見ていたブライトがぼそりと呟く。
「これが最後の出撃になる…。」
「そうですね。」
それにトーレスが答えるとブライトが小さく頷く。
「1年戦争の時もパイロット達の最後の出撃をこんなに気持ちで見送った…。全員が必ず帰艦する事を願って…。」
その言葉に、艦橋のクルー達が飛び立つモビルスーツ達を静かに見つめる。
最後の一機が飛び立つのを見送ると、ブライトが背筋を伸ばす。
「よし!!アーガマはモビルスーツ隊を援護しつつグリプス2に向かう!!弾幕用意!」
「「「了解」」」
ラーディッシュはティターンズのヤザン・ゲーブル率いる小隊とアクシズの小隊からの攻撃を受けていた。
「左舷!弾幕薄いぞ!!」
ラーディッシュの艦橋ではヘンケンの怒声が響く。
その宙域ではエマのMk–Ⅱがヤザンのハンブラビに追い詰められていた。
「ははは!Mk–Ⅱ覚悟!」
作品名:永遠にともに〈グリプス編〉8 作家名:koyuho