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【青エク】ブラック・シャック

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 丁寧な下処理に出汁と醤油で煮たぶりを頬張りながらの勝呂の他意のない疑問に、醤油の濃い色にキレイに染まって柔らかく煮えた大根をかじる廉造のからかうような言葉、そしてぱりぱりと歯切れのいい音を立ててきんぴらを咀嚼しながらそれを窘める子猫丸の純粋な気遣いすらも、出雲を責めて立ててくるようだ。それもこれも元はと言えば、燐のせいである。ぎろりとその当人を睨みつけた。
「ちょ……、にいさん……」
 出雲の不穏な空気を読んだ雪男が燐を窘めるが、燐はまるで気にしてない。少しは気にしろ! このバカ!
「メフィストに頼まれて、なんだっけ……? 行き方シチュエーション?」
「育成シミュレーションだろ」
「乗り換え案内か!」
 もはや間違えたとか言うレベルではない。
「で、育成シミュレーションってなんだ?」
 珍しく宝までが突っ込んでくる。
「おー、コイツ悪魔のよ……、ヨーセイ?」
「幼生体」
「それ。を育てろって言われてやってんだ。な?」
 な? ではない。同意を求めるな!
「なんやそれ?」
 全く要領を得ないとばかりに首を傾げる勝呂に、雪男が燐の言葉を補足する。
「フェレス卿と開発部が作ったテストアプリだそうです。既知の悪魔が発生した段階、つまり幼生体の状態から、育てていくとどうなるか、悪魔の属性やクラスがどう変化するのか、あるいは悪魔として目覚めない可能性はあるのか、などを見るシミュレーションだとか」
 へぇ、と一様に感心したような反応が返ってくる。
「すごいね! 恥ずかしがることじゃないのに!」
 しえみがキラキラした目で出雲を見てくる。だから、そんな目で見ないでよ!
「構へんのやったら、ちょこっと見せてもらえへんかな?」
 システム開発に興味がある子猫丸が、同じようにキラキラした目で見てくる。ハァ? と思わずつっけんどんに返すと、子猫丸がビク、と怯えてしょんぼりとする。うう、脅かすつもりじゃなかったのよ! けど、無理! 無理無理無理! ゼッタイ無理!
「機密事項やったら当たり前や……。やっぱり、ここの開発部は凄いなぁ……」
 寂しげに笑う子猫丸に、罪悪感で心が痛む。だが、それでも見せられなかった。だって、だって……! だから、このまま『燐や雪男が何故知っているのか』と言う矛盾に誰も気付かないで。
「あ? メフィストのヤツ俺の前でべらべら喋ってたぞ?」
 燐が高野豆腐とほうれん草のおひたしを口に放り込みながら言う。言い間違いはするくせに、そこはきちんと理解してるってなんなのよ。いいから黙れ!
「なんだっけ? アッポーカキーンで、ガチャがなんとかって」
「なんやそれ?」
「ゴメンね、燐。一つもわかんない」
 廉造としえみが首を傾げるのに対して、勝呂と雪男はなんの話か判ったらしい。
「それってもしや……、アプリ内課金とガチャの確率操作……か……?」
 勝呂が呆れたように呟く。眼鏡を直しながら雪男がぼそりと、アイツ……、と小さな声で苛立たしげに呟いたのは空耳じゃないだろう。
「神木さん……」
 雪男がゆっくりと出雲を見る。なんだか判らないけど、凄い迫力だ。雪男の背後に怒りのオーラが「ゴゴゴゴ」なんて文字つきでゆらゆらと立ち上るのが判るようだった。
「そのアプリ……、見せてもらえますか……」
 手を差し出してくるのを断りたいのに、雪男の有無を言わさぬ勢いが断らせてくれない。イヤだ、ダメだと思うのに、出雲は押し切られて貸し出されたポータブル端末を手渡してしまった。雪男が険しい表情で端末を操作する。
「あ! 俺も俺も!」
 出雲が止める間もなく、燐が雪男の肩越しに覗きこむ。
「出雲、お前スゲーな」
「……ホントだ……」
 燐と雪男のその言葉に、塾生の皆がなんだどうした、と小さい画面を覗き込んだ。
「あ、ちょ……っ!」
「これって全部明王クラスになるんか?」
「いや、今確認されたはるの中級までや思うてましたけど……」
 勝呂と子猫丸の呆然とした言葉が出雲に突き刺さる。
「魍魎《コールタール》単体で上級悪魔になってる」
「テストアプリなんやろ? バグっとるんと違う?」
 しえみの驚いた声に、廉造がフォローを入れるが、皆の雰囲気が若干呆れたような空気になっていくのが居た堪れない。
 そうなのだ。育成シミュレーションなのに、何故か出雲がやるとどんな悪魔も上級悪魔になってしまうのだ。最初の内は可愛いのに! 魍魎だって、ゴブリンだって、最初の内は大人しくて出雲に懐いて、見た目によらずあんなに可愛いのに。それがある日突然凶暴化し、気がついたら全部上級悪魔に変貌を遂げてしまう。可愛いままだったのはほんの数日で、ひどいのは数時間しか持たなかった。
「おやおや♪ アナタ意外と育成下手なんですねぇ☆」
 などと、依頼主のフェレス卿すらも呆れてしまうくらいだ。
 可愛いものがこんなに好きなのに。可愛いまま育たないってどう言うことよ! このアプリには『謎』といわれ、先日突如凶暴化して討伐任務のあった悪魔のデータが『ブラック・シャック』と言う名前で入っているが、もれなく凶暴化した。
「全部上級になるてある意味、天才かも知らんな……」
「戦闘ゲームやらはったら、エライ強いキャラになるかも」
 勝呂と子猫丸が真面目な声で言う。が、何故後ろを向いたままなのか。肩震えてるの見えてるわよ!
「ま……、まぁ。あくまで悪魔ですから……。凶暴化するのはむしろ当たり前かと……」
 雪男の慰めるような言葉に、そうかな、と一瞬納得しかけた。が、雪男の肩まで震えているではないか。さっきまでフェレス卿に怒っていたのではないのか。
「気にすんなって、出雲!」
「うっさい!」
 暢気な燐の声に、出雲の怒鳴り声が厨房に響いた。


――end