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BRING BACK LATER 6

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BRING BACK LATER 6

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

 素直に応じる身体。
 私を求めて伸ばされる熱い手、縋りつく腕。
 言葉は必要なく、私が黒くしたその瞳が涙を湛えて揺らめく。
 隙間から赤い肉を覗かせる唇が、微かな声で私を呼ぶ。
 熱く求めてくる士郎にこちらも熱が上がる。
「士郎……」
 耳朶を食んで呼べば、士郎の身体が小さく震える。
 求め合うことは常になった。
 毎夜、いや、夜だけでなく朝方も、今のように昼間も。
 陽光煌めく初夏、風薫る初夏、爽やかな季節であるはずの初夏……。
 かつての我が家であった衛宮邸にサーヴァントだけが残った平日、機能停止中のセイバーの目を盗んで、盛りのついた犬畜生のように我々は互いの身体を求めた。
 熱く濡れた瞳が私を映し、熱い身体が私に縋りつく。
 途轍もない安心感に胸を撫でおろす。
 その、撫でおろした刹那から、また胸を焦がして士郎を求める。
 どうしようもなく欲しい。
 どうしようもなく私を見ていてほしい。
 どうしようもなくて、どうしようもない。
 自身の感情に振り回されている。
 本当にどうしようもなくて、抗えない。
 傍にいれば抱きたくなる。
 触れていなければ不安になる。
 その気配を追い、その姿を追い…………、ストーカーか、私は……。
 自分自身に呆れはするものの、やめることができない。
 この状態は、おそろしく私に不釣り合いだと思う。
 自分でそう思うのだから、傍から見れば相当だろう……。
 この、おかしな状態というのは、口にするのには抵抗がある。
 思うだけでも少々 精神的ダメージを受けてしまう……。
 だが、あえてそのことに触れよう。
 おそらく私は…………恋をしている。
 おかしなことに、元を同じくする、この存在に。
 本来ならば認めたくない。
 冗談だろう? と何度も首を振った。それこそ眩暈を起こすほどに。
 だが、誤魔化しが効かないと、もうそんな段階ではないと、自分でもわかっている。
 嫌というほどため息をついた。
 ありえない、と否定したかった。
 私は英霊として死後を明け渡したのだ、こんな感情で右往左往するなど、本意ではない。
 何度思い返しても、何度くだらない言い訳を捻り出し、繰り返しても、この感情に他の名をつけるには至らない。
(ああ、まったく……。どうしようもないな、私は……)
 この存在が愛おしくて堪らない。
 恋とはこれほど厄介なものか。
 これほど盲目になれるものか。
 恋は盲目。
 誰の言葉だった?
 的を射ている。
 正解だ。
 私は溺れるほどに、士郎に依存している。
 最初と逆だ。
 士郎を留めた頃、士郎はずいぶんと私に左右されていた。
 今は少し違う。私以外にも目を向けることがある。
 凛も桜もセイバーも、姉のように士郎にかまう。
 そんな状況に士郎も慣れてきたようで、されるがままになっていることが多い。
 おまけに、家主の小僧は兄貴風を吹かす。
 全く以て腹立たしい。
 こいつは私のものだぞ、と言いたい。
 どこぞの輩には、するり、と出た言葉も、この家に出入りする者に言い放つ勇気はない。
 そんなことを言えば、セイバーの宝具解放を見る羽目になるだろう。
 ああ、腹立たしい。
 こいつをずっと、腕の中にしまっておきたい。

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


 休日の昼下がり、士郎とセイバーと桜、そしてアーチャーという珍しい組み合わせで食材の買い出しに四名が出たため、衛宮邸の居間には凛とシロウの二人きりだった。
 垂れ流されるテレビ番組を眺める凛の前に、シロウは少しぬるくしたお茶を置く。ぼんやりしていて、火傷をしないように、とのシロウの配慮だ。
 それに気づいているのかいないのか、凛はテレビから目を離すことなく、置かれた湯呑みを当然のごとく手に取る。
「遠坂は、好きな人はいるか?」
「んぐ?」
 なんの前触れもない、いきなりの問いかけに、凛はお茶を噴きそうになった。
「いいいいいいいい、いきなり、何よっ!」
「いるのか?」
 シロウは凛の剣幕などおかまいなした。
「いいいい、いるっちゃ、いるけど、いないっちゃ、いないわよ!」
「どっちだ?」
 眉をしかめて首を傾けるシロウに、
「ど、どうだっていいのよ、今の私には! それは心の贅肉。私は魔術師として大成するまでは、いいえ、してからも、その手のこととは、無関係を貫く主義なの」
 凛は動転しながらも持論を展開する。
「そうか。いるけれど、叶わないのか」
「どこを、どう捉えれば、そういう結論に至るのかしら?」
 凛が拳を握って、目尻を引き攣らせていることに気づき、
「う、い、いや、失言だ。前言は撤回する」
 言ってシロウは、一メートルは後退った。
「ほんっとに逃げ足だけは早いんだから!」
 噛みしめた歯の合間からこぼす凛の声は怒りを含んでいる。
「わ、悪かった、もう、言わない」
 正座をして居住まいを正し、シロウは素直に謝る。
「まったく……。で? どうしたのよ?」
「え?」
「私にそんなことを訊く理由があるでしょ? 何かあったの? アーチャーと」
「どうして、アーチャーだと……」
 ムッとして視線を逸らすシロウに、わかりやすいなこいつ、とは言わず、
「あんたの行動理念はアーチャーに基づいている。違う?」
「う……、違わない……」
 きっぱりと言われてシロウは膝の上の拳を握りしめた。
「あんたがそういう問いを向けるのならアーチャー絡みだって、小学生でもわかるわよ」
「しょ、小学生は、い、言い過ぎ、だ」
 なんとか言い募ったものの、
「あら、最近の小学生はませているのよ」
 勝ち誇ったように笑む凛を見て、シロウは観念したように項垂れる。
「それで? なんなの?」
 凛が真面目に聞く姿勢になり、シロウは落とした視線をさ迷わせながら口を開く。
「……好き……というのは……、どうやって……、確かめればいい……?」
「は?」
 凛はいまいちシロウの言葉の意味が把握できない。
(シロウが訊ねているのは、アーチャーのことよね。シロウは“好き”ということを確かめたい、と言っている気がするけど……)
 シロウはおとなしく凛の言葉を待っている。
「え……っと……」
 凛は頭の中を整理した。
 まず、シロウは好きという気持ちを確認したいという。
 “好き”の確認。
 何を好きなのか、となれば、もちろんアーチャーのことだろう。
「それは、あんたの気持ち?」
「え? あ、う……」
 困り果てたようにますます俯いてしまうシロウに呆れながら、
「自分の気持ちくらい、自分でわかるでしょ」
「じ、自分のは、わかっている……」
 ぼそり、と答えたシロウに、凛は意外だ、と驚いた。
「俺は好きだ。それは、わかっている……」
「じゃあ、アーチャーがシロウをってこと? そんなの、見ててわかんない? 嫌いな奴に、あそこまでかまわないと思うけど?」
 確かに、とシロウは頷くものの、納得がいかない様子だ。
作品名:BRING BACK LATER 6 作家名:さやけ