銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅲ
「失礼します。」
サーシアが後部展望室をでてしばらくすると加藤四郎が来た。
「どうした?何かあったか?」(進)
「いえ…一度戦闘班長と話してみたかったんです…兄の事で。」
加藤四郎は複雑そうな顔をしていた。進は何が言いたいのか直ぐにわかったが四郎の次の言葉を待った。
「兄は…なぜあなたのために命を落としたのでしょうか。私は兄を尊敬しています。
不可能と言われたイスカンダルの旅を成功させた兄…その兄が冷たくなって地球へ
戻ってきたと母から聞いたとき訓練生だった私は目標を失ってしまいました。
教えてください。あの時古代さんは兄になんて命令したんですか?」
加藤四郎の目は真剣だった。余りにもよく似ているのでその目を見ながら進は三郎の最期の姿を思い出し思わず涙が溢れてしまった。
「戦闘班長?」
進は慌てて視線を逸らし後ろを向いた。決して涙など見せてはいけないと思ったからだ。
「加藤三郎は…部下である前に親友だった。訓練予備性からずっと一緒で月基地にも
一緒に行った。月基地で同じ配属先になったが私はひとり砲手になるために異動し
それからは別々の道を歩んできたが目標はいつも同じだった。地球を元の碧い星に
すること。その為に一緒に戦うこと…それだけを目標に月基地で訓練を重ねてきた。
そしてイスカンダルへ向かい私たちは目標を達成した。」
進は加藤四郎に背を向けて宇宙空間を見つめながら話を続けた。
「そして白色彗星が見え始めたとき元クルーはヤマトを乗っ取って地球を出発した。
その時加藤が新しい艦載機に乗って月基地からやってきてくれた。」(進)
「地球を出るとき兄たちに命令したのではないのですか?」(加藤四郎)
「私は命令できる立場ではなかったからね。私は輸送船団の護衛艦の艦長だった。」
涙が収まった進はやっと加藤四郎の顔を見た。
「しかし…命令できる立場だったら迷わず元ブラックタイガー隊に声をかけただろう。
命をかけた戦いを一緒に乗り越えた仲間だから。」
進は無意識に羅針盤に触れた
「ヤマトに戻るまで…一緒に飛んでたのに…加藤は私と真田さんをヤマトに送り
届けたのに加藤だけ逝ってしまった…辛かっただろうに何も言わず操縦桿を握り
ながら逝ってしまったんだ。加藤は笑顔だった。地球に戻ってきてから私は自分を
呪い殺したかった。誰もが私に地球の未来を託し笑顔で去って逝く。一緒に戦って
一緒に死んでくれと言われた方が余程楽だと思った。生き残った私たちは戦死した
仲間と一緒に生きてその戦いを語り継がなくてはいけない。同じ過ちを繰り返さない
事を心に誓いながら…私たちは仲間の死をそうやって乗り越えなくてはいけない。
戦いに勝利してもそこには犠牲になった仲間と敵がいる。敵だって好き好んで戦いに
参加するヤツばかりじゃないはずだ。私達みたいに止むなく戦わなくてはいけない
状態になっているヤツもいるはずだ。束の間の平和だったがその犠牲の上に私達は
生きていたんだ。
私は飛ぶ時加藤と山本と一緒に飛んでいると思っている。白色彗星の戦いが終わり
加藤の遺体を引き渡す時加藤のお母さんとお兄さんが迎えに来てくれた。その時に
"弟が訓練生なので一緒に飛ぶ機会があったらよろしくお願いします"と言われた。
イカルスで紹介された時は嬉しくて…」
進は"迷惑すぎるだろ?"と笑った。加藤四郎は衝撃を受けた。ただ一人のパイロットの死としか思っていなかったのではと思っていたからだ。
「戦闘班長にとって兄は大切な存在だったのですね?」
加藤の言葉に進は静かに頷いた。
「加藤…お前は俺の事どう思っていたんだ?」
加藤四郎がいなくなった展望室は静かで進の言葉と嗚咽が響く。
「加藤…山本…なんで俺を置いて逝っちまったんだ…そっちにユキはいないか?来たら
追い返してくれよ。」
島が進の様子を心配して居住区へ向かったが部屋にいなかったので後部展望室へ向かった。そこで加藤四郎との会話を聞いてしまった。島はずっと入院していて自分のことで精一杯で周りの事を考える余裕もなかった。
(お前に全部任せちまったようなもんだった…)
加藤が後部展望室を出そうになったので一度扉の陰に隠れ加藤を見送った後進に声を掛けようと思ったが進の嗚咽が聞こえてきて声をかけられなくなってしまった。
作品名:銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅲ 作家名:kei