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夏の初めに此処に来て、朝晩は少しずつ冷え始め、秋も盛を過ぎたのを感じる。
だが風が秋の終わりを告げるは、幾分さきであろうか。

あの青冥関での戦いから、林殊は霓凰をさらって来たのだ。
あのまま二人で馬を駆り、この山の空き家へ。
二人共、野戦の経験などもあり、余程の環境でも苦には思わなかった。何も無くても、どうとでも凌いで行ける経験も知恵もあった。
何よりも、ただいるだけで幸せだったのだ。その様に思う様な年齢でも無かったが、離れていた月日が余りに長すぎたのだ。と、言うよりも、二人が寄り添い生き る事自体が、かつては考えらぬ事だった。

何かをせねばならない、という使命感の様なものはもう無い。
今までの定めを思うとここでひっそり生きても良いのではないかとさえ思えるのだ。
片や、まるで悪夢にでも見初められたのではないかと思うような運命を負い、片や、女人でありながら武人として戦場を駆け、梁の守護の一端を担った。
互いに想い合いながら、周囲にも認められながらも、結ばれぬ定めと諦めていた。

目の前には霓凰が居り、林殊が居る。
触れれば手は届くのだ。
あの日々は、大業の為、顔を見る事すら控えていた。
地獄の様な現を経て、つかの間の、まるで夢の中の様だった。
抱き合う互いの温もりさえ、夢の様な、現の様な、、、。
年甲斐もない若い男女の戯れの様であったが、十八年という年月を埋め合わせる大切な時間なのだ。

空き家といっても、そこそこの建物だった。まぁ、上等の小屋とでも言おうか。
ここでの暮らしは、まるで十八年前がそのまま戻ってきた様だった。
霓凰は世話焼き女房よろしく、あれやこれやと住みやすいように林殊に指図をする。初めは林殊も霓凰の言うことを聞いていたが、段々と嫌になって、いつの間にか何処かに消えてしまった。
また一人にされてしまったのかと心臓の音が頭まで響く様だった。
「林殊哥哥─────っ。」
辺りは森の中で、霓凰の声すら響いてはこない。
「林殊哥────哥──────っ」

────置いていかれた──────
その場に膝を抱えてうずくまった。次第に肩が震えだす。
だが、幾らもせぬうちに後ろから大きな腕に包まれた。
「霓凰」
林殊が囁いた。
「霓凰、ごめん。」
霓凰は小刻みに震えているが、、、、何か変だ。くすくすと笑っているようだった。
「騙されたわね、林殊哥哥。」
振り返った霓凰の瞳は潤んでいる。
━━━━━可笑しくて笑って涙が出たんじゃない。
自分が隠れてしまった事に、不安になったのだ。
昔はこんな事をよくやっていたが、もう、これはしてはいけない。
嫌になったのなら、止めようと言えば良かったのだ。
、、、、、こんな事で不安にさせた。━━━━━
強がる霓凰が愛おしい。林殊の腕に少しだけ力が込もる。
━━━━━何時までも子供みたいだな、私は。
霓凰の前だから、こんな自分が出せる。霓凰たから、甘えが出せるのだ。━━━━━━

林殊は霓凰を抱き上げて、小屋まで歩いて行く。
「大分綺麗になったから、我が豪邸で少し休もう。」
霓凰は笑っていた。
もう、昔の様に軽々と霓凰を抱き上げ、走り回ったりは出来ないが、豪邸までなら何とかなるだろう。ここは平気な顔が大切なのだ。
霓凰と痩せ我慢の勝負も、勝敗は昔と一緒で勝ちもせず、負けもせず、拮抗したままだった。



──────螢───────

ある夜、外へ行こうと、林殊が誘った。
「何があるの?」
霓凰の驚く顔を見たいのか、変な物を見つけた林殊を褒めて欲しいのか、、、。
幼い頃から幾度もされたが、どっちなのか、わからない。
いつも水を汲む、沢の方に下りているようだった。
も明るければ、もう間もなく沢も見えようという所で、
「オンブしてやる。」
そう言われて、目の前でしゃがまれた。
────大丈夫なの??────
怪童と呼ばれた頃の力は、とても戻らぬが、それでもそこそこ力仕事もこなす様だ。
しかし、長く力仕事を続けるのは辛そうだった。
やる前から心配したり、先回りして霓凰がやってしまうと、たちまち機嫌が悪くなるのだ。
─────めんどくさい。─────
と、思わないでもないが、自分は林殊を労るだけで良いのだと、それを望まれているのだと思った。
「え、、、こんな山道、大丈夫なの?。」
「いいから、ほら!」
顔だけ振り返って、自分の肩を手で叩いている。
急かされて、霓凰はおずおずと負ぶさった。
「よっ、、、と。」
林殊は立ち上がり、足元に気をつかい、いつもよりゆっくりと、沢迄の山道を下っていった。
その足取りに、不安はなかった。
「霓凰、目をつむって、、。」
「ええ───?」
────またいつものアレよ。────
────また私をびっくりさせるやつ、、。────
渋っていると、林殊は立ち止まり、
「ほら、大丈夫だから、はやく。」
「wwwwww。」
「、、、、、、、うん。」
霓凰は目を閉じ、林殊の肩に伏した。
林殊は山道を下りてゆく。背中にいても林殊が楽しそうに歩いているのが分かった。
今晩は三日月で、足元もそう明るくは無いが、凸凹のある道を迷わずに下りてゆく。
────そうだわ、林殊哥哥は道を覚えるのが得意だったわ。
一度通ったら、細々とした道の特徴を覚えてしまったわ。山道なんか得意よね。────
どんどんと下りてゆき、立ち止まった。水の流れる音がする。
いつも水を汲む、沢の川辺まで下りてきたのだ。
「もう、目を開けても良いぞ。」
「!!!!」
顔を上げ、目を開け、驚いた。
川辺に沿って、沢山の螢の群が飛び交っている。
言葉も出ずに、ただ、幾筋もの光の線を残して飛ぶ、螢を見ていた。
「、、、、綺麗。」
こんなに喜んでもらえるとは、林殊は嬉しい限りだった。
霓凰は、背中から下り、川際の方に歩んで行った。
膝丈程の草が茂り、その草の上は螢か飛び交い、草葉の上には光りながら螢がとまっている。
見たこともないような数だった。
いつ以来だっだたろうか、こんな風に川辺まで来て螢を見たのは、、、、。
────そうだわ、あの時も林殊哥哥に、こっそり連れて来てもらったのよ。
、、、、あとが、大変だったんだわ。────
螢を見たくて見たくて、駄々をこねて林殊に連れて来てもらったのだ。
つい、可笑しくなって、クスリと笑ってしまう。



✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼



林殊がまた忍んできた。
時折林殊は、夜、穆王府の塀を超えて、霓凰に会いに来るのだ。
「霓凰、霓凰。」
霓凰の部屋の扉の前で、コッソリと名を呼んだ。
いくらもせぬ内に、霓凰が部屋から出てきた。
「霓凰、良い物見せるぞ。」
「目をつぶって、手、出して!」
林殊は後ろ手に何かを持っているようだ。
「え、、また??、、、もう、いやよ!!」
「この間は、変な虫だったじゃない!!!」
「いやっ!!」
頬を膨らませて、林殊を睨んだ。
霓凰は、絶対に手を出さなかった。
「じゃあ、分かった。」
「見てろよ、綺麗だから。」
林殊は諦めて、自分の手のひらの上に出して見せることにした。