I belong to you.
ギュネイもまた大きな溜め息吐く。そして、先程の光景を思い出し、『連邦の白い悪魔』と呼ばれたファーストニュータイプ、アムロ・レイ…。彼もまた、自分と同じ人間なんだと、当たり前だが改めてそう感じたギュネイだった。
病室に入ると、シャアはまた車椅子からアムロを抱き上げ、ベッドへと移動させる。
その行動に顔を真っ赤に染めながらアムロが俯く。
そして、シャアはアムロの手を握り、俯いたアムロに声を掛ける。
「アムロ…聞かせてくれないか?」
アムロはすぐ側から聞こえる艶のあるバリトンにビクリと肩を震わせる。
「…何を…」
何が聞きたいかは何となくわかるが、恥ずかしさについそんな言葉が出る。
「君の気持ちを…。」
さっき、思わず口にしてしまった言葉を聞き逃さずに自分を問い詰める目の前の存在にどうしようかと頭を抱える。
「アムロ…、あの時…アクシズでの光の中で、君は私の事が大切だと…支えたいと言ってくれたな……それは私を多少なりとも好いてくれているという事か?」
15歳の姿のアムロが己を愛おしげにその胸に抱き寄せ、囁いてくれた言葉を思い出しながらアムロに問う。
そして、あの時、自分の罪を悲しげに語る幼いアムロを思わず抱きしめた。
我々はそれぞれ進む道は違っていたが、いつも互いに求め合っていた。けれど立場や状況がその想いに蓋をしてしまっていたのだ。
ただ一度だけ、互いの立場が同じだったあの時を除いて…。
グリプス戦役時、共に同志として戦い、互いの気持ちを触れ合わせたダカールでの夜。
作戦の成功による興奮と己の自由を失った焦燥、それに酒の力が加わって、私たちは互いを求め肌を重ねた。あの一度きりの逢瀬は今でも胸の奥深くに刻み込まれている。
「好いてるって…」
アムロは自分の手を握るシャアの手をとても熱く感じる。視力を失い、それを補うように周りの気配や音、肌に触れる感触にとても敏感になっていた。その状態で触れられるシャアの手からは熱い体温とシャアの感情が物凄い勢いで流れ込んでくる。
その感情の波にアムロは少しクラリとしながらも、意を決すると、そっとその手を握り返す。
「アムロ?」
「…貴方の事が…好きだよ。」
小さな声で囁かれるその言葉にシャアの目が見開かれる。
「大体、何とも思っていない人の為に子供や自分の命を投げ出したりなんてしないよ…。バカ。」
拗ねる様に言うアムロに愛しさが込み上げ、シャアは思わずその華奢な身体を抱き締めた。
「アムロ!」
「シャっ、シャア!?」
「アムロ」
ただ自分の名を呼び、子供の様に抱きしめてくる金色のオーラの男に愛しさが込み上げ、そっとその背に手を回す。
「アムロ!」
シャアは自分の背にそっと回された手の感触に更に抱き締める手に力を込め、もう一度腕の中の存在の名を呼ぶ。
「我々は…随分と遠回りをしてきた様だな…。」
肩口に埋められた顔からそんな言葉が聞こえてきて、思わず頷く。
「ああ…そうだな…。」
「私はずっと君を自分のものにしたかった…。」
「ふふ…オレはずっと貴方のものだったよ…。」
「そうだな…、そして私もずっと君のものだった…。」
二人は向かい合うとクスクスと笑い出す。
そして、互いの頬をそれぞれの手で包み合い、そのまま唇を重ねる。
深く、優しく、互いを求めるように…。
長いキスの後、アムロがポツリと呟く。
「これから…オレはどうしたらいい?こんな身体だし、この目じゃモビルスーツにだってもう乗れない。ララァは…貴方を自分の代わりに導いてくれって言ったけど…。」
悲しげな表情を浮かべるアムロにシャアはもう一度優しく口付ける。
「私の側にいて欲しい。そして、私を支えて欲しい。どんな君でも構わない。君と言う存在そのものが道標だ。君がとても大切なんだ。」
嘘偽りのないその言葉にアムロの瞳から涙が溢れる。
「貴方って…本当に…」
一番欲しい言葉を惜しげも無くくれる存在に涙が溢れる。
その涙を唇で掬うと、もう一度愛しい存在を抱き締める。
「君は連邦から既にMIAの認定を受けている。もう連邦からは解放されたんだ。だから私の元に…ネオ・ジオンに来てくれないだろうか?」
その言葉にアムロは少し戸惑いを見せる。
「でも…オレはジオンのモビルスーツを数え切れない程撃墜して来たんだ。そんなオレが受け入れられるだろうか…。それにブライトや一緒に戦って来た仲間に申し訳ない…」
「そうだな…直ぐには難しいだろう。しかし…、ジオンの独立を礎にスペースノイドの独立を推し進め、アースノイドとスペースノイドの共存の道が開ければきっとその壁は打ち砕けるだろう。その為にも私を側で支えてくれないか?」
シャアの真摯な想いに少し思考を巡らせると、一呼吸置いて、アムロはコクリと頷いてそれに答える。
「そうだな…。分かったよ。貴方の側にいるよ…、いや、居させて欲しい…。」
アムロはそっとシャアの胸に顔を埋めた。
そのアムロをシャアはそっと抱き締める。
「落ち着いたらブライトには秘密裏に連絡をつけよう。かなり心配しているだろうからな。」
「ああ、…頼むよ」
心配性で苦労性な戦友の顔を思い出し、思わず苦笑を浮かべる。
「いつか…落ち着いたらいい酒持って会いに行きたいな…。」
そんなアムロの願いが叶うのはそれから数年後の事だった。
フラリと現れた戦友をブライトは涙を流しながら抱きしめ、そしてげんこつを食らわす。
「お前が死んだなんて思ってなかったよ!大体連絡が遅いんだよ!バカ野郎!」
戦友のそんな悪態がアムロは心底嬉しかった。
ーーーーー
その後、ネオ・ジオンは総帥 シャア・アズナブルの指揮の元その存在を不動のものにすると共に次々と各コロニーを独立へと導いていった。
そして、その彼の後ろにはいつもネオ・ジオンの青い制服を身に纏った赤茶色の髪の青年が控え支えて続けていた…。
END
2017.4.16
作品名:I belong to you. 作家名:koyuho