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I belong to you.

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すぐ横まで行くと、アムロがビクリと肩を震わす。そして、その口が名を呼んだ。
「シャア…か?」
己の存在を感じてくれた事に喜びが込み上げる。
「…アムロ…」
「なぜ…あ…っ…!」
アムロは何かを思い出したのか顔を上げる。
「オ…レ…、アクシズを…」
アムロの手がそばにあるシャアの袖を掴む。
「アクシズは…どう…なった!?」
縋り付く手を反対の腕でそっと掴むとその暖かい手の感触にアムロが動きを止める。
「…貴方…無事だったんだな…」
ホッとした様な口調でアムロが呟く。
「君のお陰だ…。それに、アクシズは地球から軌道を変えた…。地球には落ちていない。」
その言葉に、アムロは安堵の表情を浮かべ、シャアの腕を掴んでいた手がずるりと落る。
「アムロ!?」
その手を慌てて掴むがアムロの身体からはどんどん力が抜けていき、ぐったりとシャアにもたれ掛かる。
「無理をするな。もう休め」
シャアの胸に顔を埋めながら肩で息をするアムロがポツリと呟く。
「ララァに…追い帰されたんだ…。」
「アムロ?」
「あの時…、眩しい…光に…包まれて…ララァの所に行くんだと…思った…。」
ーーーそう、死を覚悟した。
遠くでララァの鈴を転がす様な笑い声がした。迎えに来てくれたと手を伸ばしたら、優しい手がそっと自分の頬を包み込んだ。
そして、その輝くエメラルドグリーンの瞳がオレの瞳を覗き込み、ふふふっと笑う。
『まだ駄目よ。大佐が悲しむから…。』
『ララァ?』
ララァはそっとオレを抱きしめると、耳元で囁く。
『お願い、アムロ。大佐を……』
『え?』
ララァは微笑むと、トンっとオレの胸を叩き、その光り輝く空間から押し出した。
『ふふ、アムロとはいつでも遊べるから…、今はお戻りなさい。』
『ララァ!!』
気付いた時には病院のベッド上だった。
そして、今、シャアの胸にもたれ掛かり、その暖かい胸に頬を寄せる。
その胸からは規則的な心音が聞こえ、この人が生きているのだと感じる。
「オレは…貴方を…」
そう言いかけて、アムロは意識を失った。
「アムロ!?」
ぐったりと力の抜けたアムロの顔を見ると、静かな呼吸音が聞こえる。
その様子に、医師がそっと脈を確認する。
「眠っています。少し疲れたのでしょう。」
シャアはその軍人にしては華奢な身体をそっとベッドに横たえる。
「ララァに…追い帰された?」
穏やかな寝息を立てるアムロの寝顔を見ながら、そっと頬に触れて呟いた。


その後、アムロは順調に回復し、車椅子で動ける様にまでなった。
リハビリの後、院内を移動する途中、暖かい中庭で少し休憩したいと車椅子を押す看護師に申し出た。少しの時間ならとその希望は受け入れられ、アムロは車椅子から中庭のベンチへと座り直すと、ふぅっと息を吐き、コロニーの人工風に身を任せる。
『ここはジオンの…スウィート・ウォーターなんだよな…。シャアはオレをどうするつもりなんだ?なぜ…オレは生かされているんだ?捕虜なのか?』
しかし、捕虜にしては待遇が良すぎる状況にアムロは困惑する。
自分をネオ・ジオンに引き入れるつもりなんだろうかとも思ったが、自分はもう目も見えずモビルスーツには乗れない。そんな自分にはもう価値すらない。
『ララァ…オレは君が望む様にあの人を…』
と思考を巡らせていると、アムロの膝の上に何か柔らかくて暖かいものが触れる。
ふと手を触れると、それはどうやら赤ん坊の様だった。気配を探ると、母親と思われる女性がアムロの隣に座っているのがわかる。どうやら母親が何かをしている隙に隣のアムロの膝へと這って来た様だ。
アムロは赤ん坊の両脇に手を入れるとそっと抱き上げ、その胸に抱く。
その柔らかい感触にフッと笑みが溢れる。
「あ、ごめんなさい。」
それに気付いた母親が慌てて声を掛ける。
「良いですよ。もしかしてミルクを作っていますか?良かったら出来るまで抱いていますよ?」
微かに香るミルクの香りに状況を感じ取り微笑む。
「すみません。それではお願いしても良いですか?」
「ええ、構いませんよ。」
優しく請け負うアムロに母親も安心してミルク作りを再開する。
その様子をアムロの見舞いに来たシャアとナナイ、そしてギュネイが見かけ、思わず足を止める。
慣れた手つきで赤ん坊を抱き、あやしている姿に3人は呆然と立ち尽くす。
連邦の白い悪魔と呼ばれ、幾百もの敵を倒してきた最強のパイロットが穏やかな日差しの中、優しく赤ん坊をあやしているのだ。そのギャップに只々驚く。
シャアは思わず庭に降り立ちアムロへと声を掛ける。
「随分と慣れているのだな」
その声に、隣にいた母親が慌てて立ち上がろうとするのをそっと手で制すと優しく微笑み、アムロの元へと歩み寄る。
アムロはシャアの声がした方へ顔を向け、気配が近寄ってくるのを感じ取る。
「シャア?」
アムロはトントンと赤ん坊の背中を叩きながらふふっと微笑む。
「だってオレ、子供いるもん。」
その答えに母親を除く3人が驚愕の表情を浮かべる。
母親はアムロの慣れた手つきから子供がいるのだろうと気付き、安心して赤ん坊を預けたのだ。
「何!?」
驚くシャアを他所にアムロは言葉を続ける。
「そろそろ2歳になるかなぁ。貴方を止めるために宇宙に上がる時、彼女から別れを突き付けられてから会ってないんだ…。酷い父親だよな…」
しみじみ話すアムロに頭が付いていかない。
「アムロ?!君、結婚していたのか?」
「いや、結婚はしてないよ。彼女はオレの気持ちを知ってたし…。ただ、どうしても子供が欲しいって懇願されて…」
アムロはバツが悪そうに頬をポリポリ掻きながら答える。
「彼女って、まさかあの女か?!」
アムロがカラバで活動していた時、その積極的な行動でアムロに迫っていた女。ベルトーチカ・イルマ。
「あの女って…。相変わらず貴方たちは仲が悪いなぁ。まぁ、うん。そうだよ。」
そう答えるアムロにシャアは呆然とする。
そして、アムロの言葉にある疑問を覚える。
「アムロ…君の気持ちとは…?」
シャアのその問いにアムロは顔を真っ赤に染め、慌てて赤ん坊を母親に返すとその場を去ろうと車椅子に手を掛ける。
シャアはそのアムロの膝裏に手を入れ、ゆっくりと抱き上げた。
「うわぁ!!」
突然の浮遊感にアムロは慌てて抱き上げたシャアの首に腕を回す。
シャアはアムロを車椅子に座らせると、隣でその様子に驚く母親が抱く赤ん坊の頬に親愛のキスを贈り、アムロの車椅子を押してその場を去って行った。
その様子を呆然と見つめていたナナイとギュネイが慌てて後を追うがシャアに制されてアムロの病室の前でその扉を目の前で閉じられてしまう。
「ナナイ大尉…どうしますか?」
「どうするも何も、待つしかないでしょう?あの様子なら、アムロ大尉が大佐を傷付ける事は無いでしょうし…。」
複雑な表情で大きな溜め息をついたナナイは踵を返しその場を立ち去る。
ギュネイはシャアの護衛という立場から、立ち去ることが出来ず、戸惑いつつも扉の前で待機することにした。
「どうすりゃ良いんだ?とりあえずここで待つしか無いか…?」
作品名:I belong to you. 作家名:koyuho