鳥のように 風のように / 幻影
「話が違うじゃないか!」
オリオンが 喚き立てるのも無理はない。
俺とオリオン それにミーシャの三人が 遮二無二なって働いた 一週間の対価が たった1ドラクマだとは 馬鹿にするにも程があるってもんだ! けれど・・・
「文句を言える 立場だと思っているのか?」
両腕を分厚い胸の前で組んだ大衆食堂の店主が 仁王立ちして睨みおろしている
大きな街道を外れた この店には 一癖も二癖も有りそうな輩が屯していて もとより堅気の客など 立ち寄るはずもなかったのだが・・・
「てめぇらの 客あしらいが悪いから 最近客足がサッパリだ!
幾ばくかでも賃金を払って貰えるだけ 有り難いと思えってもんだ!!」
確かに 俺たちが働いている間に 割った皿の数は両の手に余るだろうし お世辞にも 愛想が良かったとも思えないけれど
「約束では ひとり頭 1ドラクマだったはずだ!!」
「・・いいのか? お前達だって 何か訳ありなんだろう?」
そう言われれば グウの音も出ない俺たちだ・・・
なにしろ 神官殺しの三人組のお尋ね者なんだから
三人は黙って僅かな賃金を受け取ると 一週間働き通した愛すべき居酒屋を後にした。
「チッ 何てこった! これっぱかしじゃ 屁の突っ張りにもなりゃしない!!
せっかく 久しぶりに美味い物が食べられると思ったのに」
オリオンは まだ 腹の虫が収まらないらしい
「そうは言っても あれ以上粘っていても無駄さ
俺たちは 揉め事を起こして 目立つわけには いかないんだから
晩飯だったら オリオンお得意の野鼠の丸焼きでもいいんだ」
「そうそう!それよりも 今日は とっても良い天気じゃない!
やな事は 忘れて 先を急ぎましょう オリオン!」
俺とミーシャの 二人に即されて オリオンは不承不承歩き出した。
たしかに ミーシャの言うとおり 今日は良い天気だ!
見上げれば 突き抜けるような蒼い空と白い雲 懐は寂しいが わたる春風を頬に受け
三人肩を並べて旅するのは 奴隷時代の生活に比べれば まるで天国、これこそ 自由というものだ。
「そうは 言うけど 野鼠を捕まえるにもコツってもんが有って
なかなか難しいいんだぜ」
「俺にも 弓の使い方を 教えてくれよ オリオン」
「どうかな? お前には あんまり弓の才能がないみたいだけどな!」
「言ったな オリオン!」
******
俺たち三人が そうして ふざけ合いながら しばらく歩いて行くと、村はずれに人だかりが出来ているのに出会った。
なるべく、人目に付きたくはないから 本当はこのまま通り過ぎた方が良かったのだろうけれど、ほら! 好奇心は猫をも殺すって言うじゃないか・・
人だかりが有れば 覗き込んでみたいと思うのが人情ってもんだろう、 俺たちは 大人たちの人垣の間から 無理やり 首を突っ込んだ。
「ちっくしょう! また やられた!」
「へへへ いただき! これで三連勝だ!!」
「勘弁してくださいよ 旦那~!」
「次こそ 当ててみせるぜ!!」
数人の男たちが 地面に広げた布を囲んで 口々に興奮した様子で 喚き立てて何かやっている。よく見ると 布の上には 三個の木彫りのカップが 伏せられ、その中に隠された小さな金色の玉の位置を 金を賭けて当てようとしているようだ。
なるほど どこにでも 見かける ありふれたギャンブルだ。
奴隷小屋の中でも 毎夜 少しばかりの食い物を賭けて 馬鹿な大人たちが興じているのを 何度も見たことがある
「 おっちゃん! 俺たちにも 賭けさせてくれないか?」
俺は 人垣の真ん中でカップを振っている赤ら顔の店主らしき男に 声を掛けた。
「ああん!? 金は持っているのか?」
「ほら この通り!」
そう言って 懐から居酒屋で稼いだ賃金 キラキラ輝く1ドラクマ金貨を 不機嫌そうな顔の店主に 差し出して見せた。
「ちょっ・! おま! 待てよ エレフ!!」
オリオンが 俺の腕を掴んで 必死に引き止める。
それはそうだろう、 こういったギャンブルには 得てして 大抵の場合・・・
「判っているのか!? こんなのに手を出したら・・!」
「ああ 判ってる オリオン・・ まぁ 任せておいてくれよ」
現金を見た店主は 急に笑顔になると 目の前にいた男をかきわけ招き入れた。
「そうかそうか やっぱり男ってもんは 一発勝負してみるもんだ!
さあさあ ここに座って 座って!!」
大人たちの真ん中に出た俺は 広げられた布の前に ドッカと座ると、オリオンと その後ろに隠れていたミーシャを隣に招き寄せた。
「ただし この金は 俺たち三人が 苦労して稼いだ金だ
勝負するのは おっちゃんと 俺たち三人の 一対三だけど 文句は無いよな?」
「いいとも いいとも!何人掛かりだろうが 俺はかまわねえぜ さあ 始めようか?」
そう言うと 店主は捕まえた獲物を逃してたまるかと、急いでカップの中に玉を放り込んでカラカラと振りだした。
「ルールは 判ってるんだろうな 坊主?」
「いいから さっさと始めてくれよ! それに坊主じゃない エレフだ!!」
「ヨッシャ! 始めようか エレフ!!」
鮮やかな手捌きでカップを伏せると店主は、
三つのカップを素早く動かしシャッフルした。
「さあ さあ さあ! 賭けた 賭けた!!」
カップは 綺麗に磨きあげられ 表面には分厚く黒い塗料が塗られていて 傷一つ無く、見た目で どのカップの中に金色の玉が隠されているのか 判別するのは困難だ。
だが 良く見ていれば 当てられないわけではない、 ただし この店主が何のインチキもしていなければの話だが・・・
「ミーシャ・・・頼む・・」
俺が 小声で囁くと 傍らのミ-シャがコクリと頷き 真ん中のカップを そっと指差した。
途端に 店主の眉がヒクリと歪んだのが判った。
「坊主・・いや・エレフ 本当に良いのか? 変えるなら今のうちだぞ?」
「良いから さっさと開けてくれ」
渋々、店主がカップを開けると そこには金色に輝く小さな玉があった。
「おお すげぇじゃないか!」
「よう 早く払ってやれよ!オヤジ!」
勝負の行方を見ていた周りの大人たちが 口ぐちにはやし立てると、店主は 渋い顔をして 布の上に置かれた俺たちの賭け金の横に金貨を置いた。
「まさか ひと勝負だけで 終わりってことはないよな 小僧?」
「エレフだよ おっちゃん! もちろんだ さあ もうひと勝負!!」
先ほどよりも 念入りにカップをシャッフルすると 店主は叫んだ。
「さあ 今度は 簡単には当てられないぜ!!」
しかし 俺がミーシャの教えてくれたカップを指示し、店主が再びカップを持ち上げると またもや そこには金色の玉が・・
そのまま何度か勝負を繰り返していると、店主の顔はみるみる真っ赤になり やがて見る間に青ざめていった。
それもそうだ ミ-シャの指示にしたがっているかぎり 百発百中なのだから。
これは 小さなころからミーシャに備わっていた不思議な才能だった。
ただ 問題は・・・
「エレフ・・ ごめん・・もう・・・」
オリオンが 喚き立てるのも無理はない。
俺とオリオン それにミーシャの三人が 遮二無二なって働いた 一週間の対価が たった1ドラクマだとは 馬鹿にするにも程があるってもんだ! けれど・・・
「文句を言える 立場だと思っているのか?」
両腕を分厚い胸の前で組んだ大衆食堂の店主が 仁王立ちして睨みおろしている
大きな街道を外れた この店には 一癖も二癖も有りそうな輩が屯していて もとより堅気の客など 立ち寄るはずもなかったのだが・・・
「てめぇらの 客あしらいが悪いから 最近客足がサッパリだ!
幾ばくかでも賃金を払って貰えるだけ 有り難いと思えってもんだ!!」
確かに 俺たちが働いている間に 割った皿の数は両の手に余るだろうし お世辞にも 愛想が良かったとも思えないけれど
「約束では ひとり頭 1ドラクマだったはずだ!!」
「・・いいのか? お前達だって 何か訳ありなんだろう?」
そう言われれば グウの音も出ない俺たちだ・・・
なにしろ 神官殺しの三人組のお尋ね者なんだから
三人は黙って僅かな賃金を受け取ると 一週間働き通した愛すべき居酒屋を後にした。
「チッ 何てこった! これっぱかしじゃ 屁の突っ張りにもなりゃしない!!
せっかく 久しぶりに美味い物が食べられると思ったのに」
オリオンは まだ 腹の虫が収まらないらしい
「そうは言っても あれ以上粘っていても無駄さ
俺たちは 揉め事を起こして 目立つわけには いかないんだから
晩飯だったら オリオンお得意の野鼠の丸焼きでもいいんだ」
「そうそう!それよりも 今日は とっても良い天気じゃない!
やな事は 忘れて 先を急ぎましょう オリオン!」
俺とミーシャの 二人に即されて オリオンは不承不承歩き出した。
たしかに ミーシャの言うとおり 今日は良い天気だ!
見上げれば 突き抜けるような蒼い空と白い雲 懐は寂しいが わたる春風を頬に受け
三人肩を並べて旅するのは 奴隷時代の生活に比べれば まるで天国、これこそ 自由というものだ。
「そうは 言うけど 野鼠を捕まえるにもコツってもんが有って
なかなか難しいいんだぜ」
「俺にも 弓の使い方を 教えてくれよ オリオン」
「どうかな? お前には あんまり弓の才能がないみたいだけどな!」
「言ったな オリオン!」
******
俺たち三人が そうして ふざけ合いながら しばらく歩いて行くと、村はずれに人だかりが出来ているのに出会った。
なるべく、人目に付きたくはないから 本当はこのまま通り過ぎた方が良かったのだろうけれど、ほら! 好奇心は猫をも殺すって言うじゃないか・・
人だかりが有れば 覗き込んでみたいと思うのが人情ってもんだろう、 俺たちは 大人たちの人垣の間から 無理やり 首を突っ込んだ。
「ちっくしょう! また やられた!」
「へへへ いただき! これで三連勝だ!!」
「勘弁してくださいよ 旦那~!」
「次こそ 当ててみせるぜ!!」
数人の男たちが 地面に広げた布を囲んで 口々に興奮した様子で 喚き立てて何かやっている。よく見ると 布の上には 三個の木彫りのカップが 伏せられ、その中に隠された小さな金色の玉の位置を 金を賭けて当てようとしているようだ。
なるほど どこにでも 見かける ありふれたギャンブルだ。
奴隷小屋の中でも 毎夜 少しばかりの食い物を賭けて 馬鹿な大人たちが興じているのを 何度も見たことがある
「 おっちゃん! 俺たちにも 賭けさせてくれないか?」
俺は 人垣の真ん中でカップを振っている赤ら顔の店主らしき男に 声を掛けた。
「ああん!? 金は持っているのか?」
「ほら この通り!」
そう言って 懐から居酒屋で稼いだ賃金 キラキラ輝く1ドラクマ金貨を 不機嫌そうな顔の店主に 差し出して見せた。
「ちょっ・! おま! 待てよ エレフ!!」
オリオンが 俺の腕を掴んで 必死に引き止める。
それはそうだろう、 こういったギャンブルには 得てして 大抵の場合・・・
「判っているのか!? こんなのに手を出したら・・!」
「ああ 判ってる オリオン・・ まぁ 任せておいてくれよ」
現金を見た店主は 急に笑顔になると 目の前にいた男をかきわけ招き入れた。
「そうかそうか やっぱり男ってもんは 一発勝負してみるもんだ!
さあさあ ここに座って 座って!!」
大人たちの真ん中に出た俺は 広げられた布の前に ドッカと座ると、オリオンと その後ろに隠れていたミーシャを隣に招き寄せた。
「ただし この金は 俺たち三人が 苦労して稼いだ金だ
勝負するのは おっちゃんと 俺たち三人の 一対三だけど 文句は無いよな?」
「いいとも いいとも!何人掛かりだろうが 俺はかまわねえぜ さあ 始めようか?」
そう言うと 店主は捕まえた獲物を逃してたまるかと、急いでカップの中に玉を放り込んでカラカラと振りだした。
「ルールは 判ってるんだろうな 坊主?」
「いいから さっさと始めてくれよ! それに坊主じゃない エレフだ!!」
「ヨッシャ! 始めようか エレフ!!」
鮮やかな手捌きでカップを伏せると店主は、
三つのカップを素早く動かしシャッフルした。
「さあ さあ さあ! 賭けた 賭けた!!」
カップは 綺麗に磨きあげられ 表面には分厚く黒い塗料が塗られていて 傷一つ無く、見た目で どのカップの中に金色の玉が隠されているのか 判別するのは困難だ。
だが 良く見ていれば 当てられないわけではない、 ただし この店主が何のインチキもしていなければの話だが・・・
「ミーシャ・・・頼む・・」
俺が 小声で囁くと 傍らのミ-シャがコクリと頷き 真ん中のカップを そっと指差した。
途端に 店主の眉がヒクリと歪んだのが判った。
「坊主・・いや・エレフ 本当に良いのか? 変えるなら今のうちだぞ?」
「良いから さっさと開けてくれ」
渋々、店主がカップを開けると そこには金色に輝く小さな玉があった。
「おお すげぇじゃないか!」
「よう 早く払ってやれよ!オヤジ!」
勝負の行方を見ていた周りの大人たちが 口ぐちにはやし立てると、店主は 渋い顔をして 布の上に置かれた俺たちの賭け金の横に金貨を置いた。
「まさか ひと勝負だけで 終わりってことはないよな 小僧?」
「エレフだよ おっちゃん! もちろんだ さあ もうひと勝負!!」
先ほどよりも 念入りにカップをシャッフルすると 店主は叫んだ。
「さあ 今度は 簡単には当てられないぜ!!」
しかし 俺がミーシャの教えてくれたカップを指示し、店主が再びカップを持ち上げると またもや そこには金色の玉が・・
そのまま何度か勝負を繰り返していると、店主の顔はみるみる真っ赤になり やがて見る間に青ざめていった。
それもそうだ ミ-シャの指示にしたがっているかぎり 百発百中なのだから。
これは 小さなころからミーシャに備わっていた不思議な才能だった。
ただ 問題は・・・
「エレフ・・ ごめん・・もう・・・」
作品名:鳥のように 風のように / 幻影 作家名:時帰呼