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隠国(こもりく)

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【小話】隠国(こもりく) ver.リン【ボカロファミリー】




雨が続くと本当にイライラするの。
お気に入りのシャツは乾かないし、箱の下の方の蜜柑にはカビが生えちゃうし、何だかジメジメしているせいか発声も上手くいかないし。
せっかく買ってもらった新しい靴もまだ箱の中。
晴れたら皆でお出かけが出来るのに。

ベランダに吊り下げたテルテル坊主も、すっかり濡れて泣きじゃくったような顔になってる。
まったく根性が足りないわ。もっときちんと働いてくれなくちゃ。

テルテル坊主をにらみつけたら前よりも泣き顔が酷くなっちゃった。あーあ。これじゃフレフレ坊主だわ。

溜息をついたら頭を撫でられた。
誰?
「リンは雨が嫌いかな?」
「兄さん。」
ニコニコしている兄さんを見ていると、何だか前よりもイライラしてしまう。
「雨なんて大っ嫌い。ジメジメしてうっとおしくて、嫌になるわ。」
「うん。本当にジメジメして嫌になるよね。でもさ、雨の日も素敵だよ。」

そう言って兄さんはベランダの窓を開けてしまった。濡れちゃう!と思ったけど雨は入ってこなくて代わりに冷たい空気が流れ込んできた。
急な温度変化にぶるりと体を震わせると兄さんが抱きしめてくれた。
・・・暖かいのはいいけど、恥ずかしいんですけど。

「今日は風が無いから、ゆっくり雨の音を聞こうよ。」

そのまま、窓の傍に座り込んで二人で耳をすます。
聞こえてくる、遠くの雨の音。
ベランダに落ちる近くの雨粒。
どこかで鳴いている蛙の声。
あ、鳥も囀っている。こんな雨の中でも歌うのね。

「ほら、花も木も皆しっとりと潤って嬉しそうだろう。雨のおかげで一休みできるから、ゆっくりと深呼吸しているんだよ。」

アタシも花になったつもりで深呼吸をする。
冷たい空気が私の中のイライラを吸い取って空へと持って行ってくれるみたい。
うん。こんな優しい雨なら好きになれるかもしれない。

兄さんがアタシのほっぺたをゆっくりと撫でてくれるのが気持ち良くてアタシはいつの間にか眠ってしまったの。



作品名:隠国(こもりく) 作家名:てるてる