隠国(こもりく)
【小話】隠国(こもりく) ver.ミク【ボカロファミリー】
遠くでゴロゴロ言ってる雷が怖くて思わず蹲る。
一日晴れって天気予報も言ってたのに!何で急に降り出すんだろう。
どうして今日に限って私が買い物当番なんだろう。
そのうちに雷がこっちにきて雨宿りしているこの木に落ちて、私の中のコンピューターも壊れてしまうかもしれない。
まだ歌ってない歌がいっぱいあるのに。リンちゃんと買い物一緒にいこうねって約束してたのに。レン君にロードローラーに乗せてもらうはずだったのに。メイコお姉ちゃんとのデュエットまだ仕上がってないのに。カイトお兄ちゃんのダッツこっそり食べたことまだ謝ってないのに。それに、それに、今夜は下仁田葱をいっぱい入れた葱カレーを作ろうと思っていたのに!!!!
稲光から雷鳴まで10.29秒。雷の発生源は現在地から3498.6mの所。
遠いのか近いのか解らないよ。怖い、怖いよ。
「ミク、大丈夫だから。」
ふいに頭の上に何かかぶせられた。
「急に夕立が来て怖かったね。」
顔を上げると、分厚い雨合羽に身を包んだカイトおにいちゃんがいた。
「お、お兄ちゃ、」
ほっとしたせいか涙が出てきた。しゃくりあげちゃうから、うまく声がでないよ。
お兄ちゃんは私を立たせて、合羽を着せてくれた。
仕上げにぎゅっと抱きしめて、背中をポンポンたたいてくれたから私の涙もちょっと収まった。
「この合羽は電磁波とか通さないちょっと特別なものだから、雷がどんなに近くにきてももう大丈夫だよ。夕立はあとちょっとで止むからもう少しだけ我慢しようね。」
そう言ってお兄ちゃんは雷が遠くへ行くまでそっと歌を歌ってくれた。
小ぶりになった雨の中を二人で手を繋いで歩く。ちょっと恥ずかしいけど、誰も見ていないからいいよね。
「あ、虹だ!」
遠くの雲の切れ端から日が挿して中途半端な虹が生まれた。光はどんどん増えていって、あっというまに大きな虹を作り上げた。
「綺麗だね、お兄ちゃん。」
「うん。」
あ、お兄ちゃんもすごく嬉しそう。
今日の買い物当番が私で本当に良かった。
今夜の葱カレーは特別においしくなりそうな気がするな。
私頑張っちゃう!