隠国(こもりく)
【小話】隠国(こもりく) ver.KAITO 【現在】
注意:この小話のKAITO兄さんはアプリケーションソフトです
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アプリケーション終了の命令が実行される。
ついさっきまで俺の中にあったたくさんの音符がかき消され、瞬きをする間も無く世界が暗闇に沈む。
もう、マスターの声も聞こえない。
聞こえるのはコンピューターの中で繰り広げられる演算の音ばかり。
サラサラとまるで小雨のような(俺は本物の雨なんて知らないけど)音を聞きながら、さっき歌った時に感じたものを思い出す。
マスターが音符を渡してくれると、頭のてっぺんからつま先まで電流が流れるようなビリビリした感じに襲われる。
腹の底が熱くなって、そこから溢れる何かが俺の脳天を突き抜けて高い高い場所へと繋がっていく。
それを人間は『嬉しい』と呼ぶのだと、あるTEXTファイルさんが教えてくれた。
俺が起動しているときのあの感覚、あれを『嬉しい』というのなら今この時に感じているものは何なのだろう。
このからっぽの胸の内。
電子の光も届かないほど真っ暗で演算の音も響かない、何も無い場所。
だけれど、マスターが俺を起動してくれたらとたんに『嬉しい』でいっぱいになる不思議な場所。
また今度TEXTファイルさんに聞いてみよう。
次にマスターが起動してくれるのを待ちながら俺はからっぽの胸を自分で抱きしめた。
ああ、雨の音が聞こえる。
ここが俺の隠国。
終