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BRING BACK LATER 12

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BRING BACK LATER 12

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

 遠坂邸で毎日蔵書をあさる。
 凛も小僧も機能停止中でなければセイバーも、ともに作業をしている。
 そんな日々の中、給仕を任命された士郎と私は、午後には遠坂邸を出て商店街へ向かい、買い物をして衛宮邸へと帰る。
 毎日買い物をする必要も、金銭的な余裕もないが、凛は我々の作業は昼までと決めてしまったため、昼食が終わると自由時間になる。
 この自由時間に、はじめから納得していたわけではない。
 何しろ自分たちのことだ、責任を持って我々も作業をしなければならないはず。
 蔵書あさりに小僧は役に立たないし、セイバーでは力不足だ。したがって、当事者でもある我々が率先して作業にあたらねばと、自由時間と決められても作業を続けようとしたが、凛に追い出されてしまった。
「休息も必要なのよ! いいから、あんたたちは、ぷらっとどこかへ行ってなさい!」
 反論も御託も何も言わせてはもらえず、玄関から押し出され、扉は魔術で閉じられ、遠坂邸に入れなくなった。
 士郎と顔を見合わせ、仕方がないから、と後ろ髪を引かれる思いで遠坂邸を後にしたのが一か月ほど前のことだ。
 そうやって毎日のように追い出されていると、まあ、人というものは慣れてしまうもので(我々がいまだ人という括りなのかは疑問だが……)、昼食の後片づけを終わらせて出かけることに躊躇しなくなった。
 何より士郎が心なしかうれしそうにしているので、これはこれで、ありか、と思う。
 こんな時間を過ごすのも悪くない。
 現界する間だけの、束の間の日常。
 戦うことも、殺戮を繰り返すこともない。忘れていた安らぎなんてものを思い出す。
 安らぎなど、すでに求めるような存在ではない私が、それを感じているとは……。
 奇妙な気がして自身の置かれている現状に可笑しくなることもしばしば。こんなふうに過ごす時間を与えてくれたマスターに感謝することしきりだ。
 そんな穏やかな時間を何に費やすかと言えば、特にすることはない。士郎と遠坂邸を出て、川沿いの公園を散歩することもあれば、暑さを逃れ、木陰でぼんやりすることもある。
 手は、いつも繋いでいる。
 歩く時も、座る時も、ぼんやりと立ち尽くす時も。
 士郎が手を差し出してくることもたまにある。
 だが、たいてい私が士郎に手を差し伸べる。なにせ、その時の士郎は、うれしそうな微笑を浮かべるのだ。そんな顔を見られるのなら、いくらでも士郎に手を差し出す。
 そうして、我慢のきかない私は、つい握った手を引き寄せ、抱き込んでキスなどしてしまう。
 ふむ……、厄介だな、こういう感情は。
 所かまわずやるな、と真っ赤になって士郎は怒るのだが、時や場所を選ぶ余裕があるならばとっくにしている。むしろ、その衝動に走る私に配慮してくれと言いたい。
「まったく……」
「ん?」
 ほら、また、そんな可愛い仕草で私を見上げてくる。
 こいつは、本当に厄介だ。
 いつもいつも、私を翻弄してくれる。
「まったく……」
 ため息が甘くなるのも仕方がなかった。


 毎日続いている蔵書あさりを、今日は凛たちだけでやると言われ、衛宮邸に二人、取り残されてしまった。
 いつも作業は午前中だけで、午後からは休息だと言われてフリータイムだ。疲れてなどいない。だというのに、さらに息抜きでもして来い、と言われても、それほど抜く息を持ち合わせているわけではない。
 それでも、そういうことを言うのは、凛の気遣いだろう。
 もうすぐ凛と小僧は学校がはじまる。そうなると、格段に作業に費やす時間が削られてしまうために、我々が率先して蔵書あさりに勤しむだろうと考えてのことだ。
 まったく、凛は本当に人が好い。そこまでの配慮をされて、口ごたえする気になどならない。
 お言葉に甘え、午前中から新都へ出かけることにした。
 買い物をするでもなし、何か目的があるわけでもない。
 ただ、士郎と歩いた。手を繋いで。
 道行く人々は驚いた顔を見せることもあったが、気にはならない。
 文句があるなら言ってみろ、即刻論破してやる。
 そんな私の醸し出す空気が漏れているからか、揶揄するような者はいない。
 ふと士郎に目を向けて、汗がその首筋を流れたのに気づき、手近なコーヒーショップに入った。
 窓際に面したカウンター席に並んで腰を下ろすと、
「アーチャーは、ブラックなんだな」
 士郎が納得したように呟く。
「お前は、カフェオレか?」
「ガムシロは入れないけれど、ブラックはあまり好きじゃない」
「そうか」
 それは初耳だった。味の好みはたいして変わらないと思っていたが……。
 我々は会話が弾むわけではない。
 士郎は口下手だし、私も無意味にベラベラと話す方ではない。
 小僧を言い負かすことに関しては例外だが、基本、言葉などない。盛り上がるような話題もない。それでも、こうして一緒にいることが心地好い。
「ずっと着ているな」
「え?」
「そのパーカー」
「え……、あ……、うん」
 少し表情が曇った。
 今の会話のどこにそんなポイントがあったのか?
「暑くはないのか?」
 真夏の今、シャツ一枚でも汗が出るというのに、士郎はTシャツの上にその夏物でもない長袖のパーカーを着ているのだ。疑問が浮かんでも仕方がない。
「……うん」
「突然手が消えることを警戒しているのか? ならば――」
「違う」
 腕が露出した物では、薄れた腕を隠しようがない。それを見越してのことだと思ったが、士郎は否定した。
 ではなぜ、この暑いのに、パーカーを……?
 疑問符を浮かべていると、士郎は俯いてしまった。何かまずいことを言っただろうか。
「アーチャーが……着ていろって……」
 私はパーカーを着ていろと言った覚えはないが……。
 身に覚えがなく、ぽかん、としていると、恨めしそうに士郎は私を睨む。
「前に、言ったじゃないか……、脱ぐなって」
「え……」
 前に?
 前? い、いつ、私は……、いや、脱ぐな?
 そ、それは、その……、以前、洗濯物を干していた士郎に聖骸布を被せて、肌を見せるなと言った、あのこと、なのか?
「だから……、アーチャーは、嫌だろうと、思って……」
 視線を落としてしまった士郎に、私はなんと答えればいいのか……。
 ああ、まったく、厄介だ。
 本当にこいつは、私を翻弄して……。
 こんなところで、そんな、私が速攻、暗がりに連れ込みそうなことを言うな、たわけ。
「そう……だったな」
「忘れていたのか」
 憮然と上目で見つめる士郎に、口元がほころぶ。
「ああ、いや、ありがとう、士郎。まさか、ここまで私の言ったことを守ってくれているとは、……とても、うれしい」
 大きく目を見開き、やがて真っ赤になって、また俯いた士郎の手を握る。
「凛に、夏物の上着を提案しよう」
 こく、と頷く士郎に、私はおそらく、満面の笑みを浮かべていたことだろう。

◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


「っわ!」
 縁側から落ちかけたシロウの身体を抱え、アーチャーは、ほっと息を吐く。
「何をしている、余所見を……、士郎?」
 シロウの顔を覗き込み、アーチャーはその視線の先に目を向けた。
「な……」
作品名:BRING BACK LATER 12 作家名:さやけ