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偽りの深窓の君と踊り子 / プラチナと烏

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 長い廊下。その向こうから聞こえてくるざわめき。
 ざあ、と緑揺れる窓の外の明るい夜の世界をフレンは眺める。

 扉の向こうで待ち人の身支度を手伝っているであろう数人の侍女のもの以外、これといって人の気配が周辺にはなかった。すでに少し前まで廊下を行き交っていた来賓客や城の従者たちの姿もない。しんと奇妙な静けさが張っていて、ほとんどの人々が会場へ向かったらしかった。

 「おーい、フレン、いるか?」
 そう呼ばれ、フレンはそろそろかと窓辺を離れ扉の前に立つ。
 「何だい?」
 「剣持ってけそうにねぇんだけど、お前代わりに持てねぇ?」
 「…いや、残念だけど」

 騎士だからこそ、剣という象徴を持つことを舞踏会でも許されてはいるが、さすがに普段使い込んでいる剣までは持てない。現にフレンが今腰に据えているものも、使えないことはないが実戦性からは程遠い物だった。

 「まぁ、しょうがねぇか…」

 早々に割り切ったらしいトーンの落ちたユーリの声に、中の侍女たちはほっとしたようだ。
 フレンは扉越しの相手に深いため息をついた。

 「今夜は剣より必要なものがたくさんあるんだろ?」
 「わーかってるって」
 「………君に悪いとは思ってるけど、今回は我慢して、」
 「おう、もうとっくに腹は括ったっての。行くぞ、フレン」

 支度が整いましてございます、と語尾にハートマークがつきそうな侍女の楽しげな声が告げた。
 ユーリは廊下へ出て、振り返るフレンがそれを迎える。

 「よ、騎士様?」

 その左手を、傍らに立ったフレンに持ち上げ、ユーリは優艶な微笑を浮かべてみせた。
 ここに居るのは名高き騎士団長と、彼の相手をつとめる見目麗しき淑女だ。
 そうでなければならないのだ。
 フレンが思わず苦笑したのは、言うまでもない。
 それでもぴしゃりと紳士的な動作を心がけ、右手を差し伸べ額づいてみせる。

 「行こう」

 ( ここから先は戦場だ いたる世界に存在する舞台に役者たちが立つ )