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偽りの深窓の君と踊り子 / プラチナと烏

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 重厚な絨毯の敷き詰められた廊下をふたりは黙って歩いていた。
 そうして扉の前へと辿り着くと、フレンが一度道をユーリに譲るように壁際へと寄り、その場にゆっくりと跪く。

 「今夜限りとは言え、僕は帝国の騎士だから。略式だけど――――、」

 そう言って、鞘から細身の剣を引き抜き、その柄をユーリへと捧げる。
 傅くフレンの心臓へと向けられている剣先の剣を見下ろし、ユーリは気まずげな表情をした。本来なら、これは非現実的としか言えない光景だ。とんだ悪ふざけの類だ。しかし足元の親友の姿にあれこれ思うところはあっても、その柄を静かに受ける。装飾剣ではあるが、傅いた命を傷つけるのには十分事足りるであろう鋭利な剣は、見た目にそぐわず随分と重たかった。
 矜持と、羨望と、憧憬と。
 騎士それぞれに抱く想いは違えども、騎士ならば誰もが意味を知っている。

 「なぁ、まさかオレがこっちの役やる日がくるなんて想像したこともなかったぜ」
 「懐かしいかい?あの頃が」
 「随分前の話になっちまうんだな」
 「……そうだね」
 「お前たちも、そう遠くはないいつか、…っつってたっけか……」

 誰が、とユーリは言わなかった。
 その必要はなかった。
 ふたりの脳裡を過ぎる遠い日の誰かは同じだ。

 「僕にとっての、そう遠くはないいつか、が今なんだと思うと…、少し複雑な気持ちだよ」
 「あの殿下にも済ませてなかったのはご愁傷様としか言えねぇな」
 「本当にね」

 傅き俯いたままのフレンの肩が揺れた。
 必死に笑いを堪えているようだった。
 今夜限り、偽り、そうは言えど相手は親友ときている。
 そりゃ笑いたくもなる。

 「ほんと、いいのか?」
 「言っただろ?僕は、騎士だ」

 珍しく遠慮がちに問い掛けるユーリにフレンは可笑しそうに頷いた。
 そもそもこういう場が設けられたこと自体、星喰み以前の話らしく、特別な条件の揃う場でなされるべき騎士の特別な礼式というのは、日の目を見れないものも多い。立場としては騎士団長なのだから、この先機会は多くなるはずだが、さりとてこれから先の未来の話だ。
 ユーリは肩を竦め、そして見覚えただけの所作の記憶を辿った。

 「ま、減るもんじゃねぇし、さっさと済ますか…」

 たとえ偽りであろうと、これからやろうとしていることは、莫迦騒ぎでも現実の内のひとつだ。
 フレンとユーリを、今宵の役者たちと共に、扉の向こうで舞台が待っている。