偽りの深窓の君と踊り子 / プラチナと烏
主賓席は皇帝たちのものとは別に設けられ、ざわめき立つ着飾った人々の輪から少し離れたところにあった。頭上には広々としたステンドグラスの天窓があり、今夜は天気がいいことも相俟って開け放たれていて、外からの風と光が差し込む。
「ちょっと。ちょっと、おっさん。ねえ。ちょっと。なに。何なの、あれ、おっさ」
「リタっち。分かる。分かるけどおっさんの空気もちょっとは読んであげて。足踏まないで。引っ張らないで。おっさん今ね、一応ね、騎士団のえらい人なのよね」
皇帝たちが座す場を真正面に、先に会場入りして主賓側に立っていたリタとレイヴンは、周辺の人々とはまるで違う反応をしてしまうのを必死で押し殺しながら小突きあう。片や人々はというと、貞淑な雰囲気で会場に入ってきた、若き騎士団長と同伴者の姿に目を奪われていて、主賓席に漂った異様な空気に気付くものはいない。
「偉大よね、なんか、いろいろなものが」
「ま…、魔法とか何とかってレベルじゃ」
「まあ元の素材もあるんじゃなーい?」
「うーわー。わー。いやー、ないわー。あれがあんなんなるとかー。どうなの?詐欺なの?」
「うん」
詐欺だよ、と清廉潔白に断言したレイヴンに、しばらくして少し落ち着きを取り戻したリタがため息を漏らす。
「何かちょっとした騒動、じゃ終わらない気がしてきた…」
「俺様もです。今のうちに最低限の確認はしておかないとね」
「そうね…。その前に何か飲み物もらってくるわ」
「おっと。大切なお客様なんだから。とってくるよ、どんなんがいいの?」
アスピオ式の紋様に則っている赤と黒の可愛らしいセパレートドレス。ひらひらと躍る長い紐状のものが服だけでなくいつもどおり腕にも巻かれていて、レイヴンはそれを軽く引いてリタを引き止めた。その白い手袋に包まれた手をぺんっと叩き、リタが首を傾げる。
「踊り子さんには手を触れない、でしょ?」
レイヴンは一瞬自分の手元でふわりと発光したそれを見送り、リタの忠告に笑いながら肩を竦めた。
作品名:偽りの深窓の君と踊り子 / プラチナと烏 作家名:toro@ハチ