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彼にまつわるいくつかの

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「あ、はいっ」
 なんでこの人は毎回手を握れというんだろうと不思議に思いながら手を取れば、びっくりしたようにそれを見ている伊作がいる。思わず握ってしまったけれど、子供みたいに手を引かれるのは本当に恥ずかしい。
「せ、先輩! ひとりで歩けますっ」
「迷子になったらどうする」
 抵抗すれば、真顔で返される。それを聞いていた伊作が我慢できないと吹き出す。
「滝夜叉丸。多分その子は、次屋と違って普通に歩けるよ。過保護なのもほどほどにね」
「そうなのか…?」
 年上の人の突っ込みに対する答えを四郎兵衛本人に問われても、困る。でも、迷子になんてならないからこくりと頷けば、わかったと右手を開放してくれる。
「では、行くか」
 伊作に一礼して滝夜叉丸は保健室から出て行くので、慌てて四郎兵衛も一礼する。それを見ていた伊作が悪戯っぽい笑みを向けて、片手で静かにと口元に指を立て、片手でおいでと手招く。
 首を傾げて近づけば、耳元を優しい声がくすぐる。
「滝夜叉丸は根は優しいんだ。君にどう接していいかよくわかってないだけだから、泣かずにがんばって」
 囁きと共にポンと背中を叩かれて、なんとなく理解した。ああ、あの人ってじつは不器用?
 ぱちくりと瞬きを繰り返しているうちに、ようやく染みこんで来る。伊作が頷きを返してくれるので、今度こそ一礼して部屋を出た。
 待たせたのに滝夜叉丸は部屋の外で待っていてくれて、四郎兵衛が隣に並ぶとなにも言わずに一年長屋に向かって歩き出す。ただ、すたすた歩くものだから、四郎兵衛は何度も小走りになる。
「た、滝夜叉丸先輩、待ってください!」
 勇気を出して言葉にすると、あって顔をして振り返る。
「……お前の足は短いのだな。忘れていた」
 せめて小さいとか、もうちょっと物の言い方があるだろうに。でも、なんとなくこういう人なんだと思ったら、ひどい言葉もそうは聞こえない。
「あの…っ」
「なんだ?」
「……委員会に戻らなくていいんですか?」
 なぜその言葉が出たかは、四郎兵衛もよくわからない。でもなんとなく、戻らなきゃいけないと思ったのだ。この人が自分とどう向き合えばいいのかわかってないというのならば、自分だってよくわからない。変な先輩たちのことも、全部。
 じっとこちらの顔を見つめてくる人は、一拍して優しく微笑んだ。
「それでこそ、花形体育委員だ」