傷口
喉を通る呼吸の熱さで熱が上がった事を知る
そして同時に覚醒しきった意識の中で
急激に襲ってくる痛みに顔を顰めた
「・・・テテ。これ絶対また傷開いたよね。」
「あぁ。見事に開いてたそうだぞ?」
「それって。また新羅に儲けさせちゃっただけじゃん。」
「だな。嬉々として縫ってやがった。」
「うわぁ。顔が思い浮かぶよ。」
苦笑して
額に腕をやった拍子に
ぺろりと貼ってあった冷却シートがめくれ
「あぁ。ちょっと待ってろ。」
丁度
取り替えなきゃなと思ってたとこだ、と
平和島静雄がすっかり温く乾いたシートを剥がして
新しいシートを折原臨也の額に貼る
そして
よく馴染ませるように
押さえつけるように
掌を
折原臨也の額に当てると
大きな掌が
折原臨也の目までを隠す
悪かった
と
目を塞がれたまま
折原臨也は平和島静雄の声を聞く
手前の
好きにしろ
と
やがて
掌が離れると同時
視界が開けた折原臨也の目に映ったのは
部屋を出て行こうとしている
男の背中
思わず
がばりと起き上がって
シズちゃ、
と
出しかけた声は
ドアを開けて
振り向いた男の視線を受けて喉の奥で止まる
「何だ?」
何を
言えば
この男に伝わるのだろうと
折原臨也は思う
何でもない
と
上手く
笑えたのかどうか
眼鏡の向こうで
眉を潜めた男に
どう
伝わったのか
「・・・もう少し居てやろうか?」
「・・・冗談でしょ。シズちゃんなんかの顔見てたら」
治るもんも治らないよね
と
上手く
嫌味たっぷりに笑えていればいいと折原臨也は願う
そして
そんな泣きそうな目して
笑ってんじゃねぇ
ノミ蟲が
馬鹿か
大人しく寝てろ
と
吐き捨てて閉じられたドア
最悪だな
と
折原臨也は己を嗤う
あの男に
弱み
見せるなんて最悪だと
けどそれでもせめて
「もう少し」
居てくれても良かったんじゃない?
「ねぇシズちゃん?」
居て欲しいと
言えるのは
居ない時にだけ
どさりと
寝床に倒れ込むと
二度縫った傷口がジワリと痛む
溜息をついて
額に載せる腕
貼られたシートは既に温く
それが
あの掌の体温を思わせて
つう
と
落ちた雫が
シーツに丸く
沁みを
残した