ヒカリ 1
ヒカリ 1
平凡で退屈だけれども平穏だった僕の日常は、ある日突然“戦場”と言う悪夢へと姿を変えた。
敵襲のサイレンが響き渡れば息苦しいノーマルスーツを身に纏い、白いモビルスーツを駆って戦場へと飛び出す。
宇宙空間と言う無音の世界で、命を奪うたび、聞こえない筈の叫び声や嘆きが僕の脳裏を通り過ぎて行く。その声が僕の心を蝕み、引き裂く。
しかし、いつしかその声から逃れる様に耳を塞ぎ、「生き延びる為には仕方がないんだ」と自分の行為を正当化して心を偽り、やり過ごす術を覚えた。
けれど、次第に心は疲れ果て、自分を正当化する事すら難しくなってきた。
サイド6で父に別れを告げた時から、僕の心は徐々に壊れ始めていたのかもしれない…。
そんな時、ソロモンでの戦闘中、僕を追い詰める赤い男がこう言ってきた。
「同志になれ」と、
初めは何を馬鹿な事を!と思ったが、心の奥底では此処から僕を連れ出して欲しい!
僕を…この訳の分からないニュータイプ能力を理解してくれる人の元に行きたいと思った。
きっとあの人は僕をこの能力ごと受け入れてくれるとそう直感した。
何故なら、僕と同じニュータイプであるララァを彼は受け入れていた。そして、ララァも僕がシャアと共にいる事を望んだ。
ーーララァ…、僕と同じ魂を持つ少女…。唯一僕と分かり合える人…。彼女がいれば僕はきっと生きていける…。
けれど、僕はその手を振り払ってしまった。
仲間を裏切る勇気が無かった。
セイラさんやミライさん、気に食わないけどブライトさんやカイさん、ハヤト…そしてフラウ。みんな、生死を共にした仲間だ…。簡単には裏切れなかった。
でも…、どんどん覚醒して行く僕のニュータイプ能力にみんなが頼りつつも畏怖している事にも気付いていた。
フラウでさえも僕に対して一線を引くようになっていった。
フラウに対する僕の態度が悪かったのも分かってる。戦場のストレスと自分の気持ちと関係無くどんどん覚醒していく能力に対する不安を彼女にぶつけてしまった。
彼女だって戦場での生活で不安を抱えていたのに、僕は彼女に甘えて…ただ不安をぶつけた。
気付けば、彼女の心は僕から離れていた。
『私なんかには届かなくなっちゃった。』
僕を突き放す彼女の言葉に心が引き千切れそうだった。
こんな能力が無かったら前みたいに側に居てくれた?でも…この能力が無かったらきっと僕たちはとうに死んでいた…。
どうにも出来ない葛藤に押し潰されそうだった。
『誰か…僕を助けて。僕を何処かに連れて行って…。』
戦況が悪化する中、決して言えない僕の本心。
でも…僕にとって帰る場所はホワイトベースの仲間たちの元しか無かった…。
自室のベッドの上で、そんな事を考えながら今日も目を閉じて僕は束の間の眠りに落ちる。
------
「大佐!木馬は現在ポイント0018を航行中、本艦との距離は2000。こちらはまだ気付かれていません。」
オペレーターがシャアにホワイトベースの位置を報告する。
「よし、では作戦に入る。木馬は先日の戦闘で被弾し、戦力であるモビルスーツもまだ復旧できてはいない筈だ。奇襲作戦で一気に内部に侵入し、中から制圧する。そして、一番の戦力である白いモビルスーツとそのパイロットを奪取する。」
シャアはゲルググに乗り込み、視界の先に映る白い戦艦に狙いを定める。
「アムロ・レイ。君から来てくれないならば奪うだけだ。君だって心の奥底ではそれを望んでいるのだろう?」
シャアは小さく笑みを浮かべると操縦桿を握る手に力を込める。
《ブラン中尉、以下小隊!作戦通り木馬の艦橋に取り付き制圧する。クルーはなるべく殺すな。下手に煽ると指示に従わなくなるからな。》
《大佐!了解いたしました!》
《よし、行くぞ》
《はっ》
赤いゲルググと10機のリックドムがホワイトベースに向かい飛び立つ。
ダミー隕石に身を隠しつつホワイトベースへと接近する。
《まだ気付かれてはいないようだな。》
《はい、大丈夫です。》
《良し、作戦通り私とブラン中尉は艦橋に取り付く。他も所定の位置に取り付き潜入して制圧しろ》
《了解!》
ベッドで眠るアムロは強烈な赤い気配に目を覚ます。
「何だ!?シャア!?直ぐ近くに?」
そう叫んだ瞬間、ドン!と強い衝撃がホワイトベースを襲う。
「わぁっ」
アムロは慌てて起き上がると制服の上着を羽織って部屋を飛び出す。
すると、同じように部屋を飛び出したカイと鉢合った。
「アムロ!何だ?何が起こった?」
「カイさん!シャアだ!シャアが来た!!」
艦橋の方を見つめて叫ぶアムロにカイは目を見開く。
「どういう事だ!?大体何でレーダーに引っかからなかった!?」
「多分ダミー隕石を使ったんだ!それにこの辺りは昨日の戦闘でまだミノフスキー粒子の濃度が高いからレーダーに反応しなかったんだ!」
二人で通路に駆け出し艦橋に向かう。
角を曲がりエレベーターに乗り込もうとしたところにフラウの悲鳴が聞こえる。
「フラウ!?」
悲鳴が聞こえた方を見ると、ジオンの兵士がフラウを後ろから羽交い締めにして銃を向けていた。
「フラウ!!」
「アムロ!助けて!!」
「ジオン兵か!?チクショウ!潜入されたのかよ!」
「お前たちパイロットか?」
もう一人のジオン兵がアムロ達に銃を向ける。
「手を挙げて、こっちへ来い!馬鹿な事を考えるなよ!この子の頭が吹っ飛ぶぞ!」
アムロとカイは銃を捨て、両手を挙げて指示に従い、そのまま艦橋に続くエレベーターへと押し込まれる。
兵士がアムロとカイに手錠を掛けつつ二人を見つめ怪訝な顔をする。
「どういう事だ?何でこの艦は子供ばかりなんだ。それにみんな素人だ。お前達は現地徴用兵なのか?」
若い子供ばかりの艦内にジオン兵が戸惑いの声を上げる。
「知らねえよ!俺たちだって好きで乗ってる訳じゃない!理由なんて連邦のお偉方に聞けよ!」
カイが憎まれ口を叩くのを兵士が睨み付ける。
「まぁいい。俺たちは作戦を遂行するだけだ。」
エレベーターが艦橋に着き、中に入るとオペレーターの二人とミライ、数人のクルー、そしてブライトが腕を後ろ手に縛られ一箇所に集められていた。
「入れ!」
自分たちを拘束する兵士に促され艦橋へと足を進める。
すると、強烈な赤い気配と強いプレッシャーを感じてアムロの身体がビクリと跳ねる。
「アムロ?」
アムロの異常な状態にカイが声を掛けるがアムロは目を見開いたままカイの声には反応せずに震えていた。
「何をしている。止まるな!進め!」
兵士に背中を押され、押し出されるようにブライト達の元まで歩かされる。
そして、そこには赤いノーマルスーツの士官らしい男が腰に手をあて立っていた。
男はこちらに気付くと口元に笑みを浮かべアムロを見つめる。
「アムロ、あいつが赤い彗星なのか?」
カイの問いにアムロはコクリと頷く。しかし、その視線は目の前の男に向けられたままで、身体は小刻みに震えていた。
「アムロ・レイ、こうして直に君と会うのはサイド6以来だな。」
シャアの言葉に艦橋が騒めく。
アムロは唇を噛み締めながらシャアを睨み付ける。
「ふふ、そう睨み付けるな。あの時はまさかこんな坊やがガンダムのパイロットだとは思いもしなかった。」
平凡で退屈だけれども平穏だった僕の日常は、ある日突然“戦場”と言う悪夢へと姿を変えた。
敵襲のサイレンが響き渡れば息苦しいノーマルスーツを身に纏い、白いモビルスーツを駆って戦場へと飛び出す。
宇宙空間と言う無音の世界で、命を奪うたび、聞こえない筈の叫び声や嘆きが僕の脳裏を通り過ぎて行く。その声が僕の心を蝕み、引き裂く。
しかし、いつしかその声から逃れる様に耳を塞ぎ、「生き延びる為には仕方がないんだ」と自分の行為を正当化して心を偽り、やり過ごす術を覚えた。
けれど、次第に心は疲れ果て、自分を正当化する事すら難しくなってきた。
サイド6で父に別れを告げた時から、僕の心は徐々に壊れ始めていたのかもしれない…。
そんな時、ソロモンでの戦闘中、僕を追い詰める赤い男がこう言ってきた。
「同志になれ」と、
初めは何を馬鹿な事を!と思ったが、心の奥底では此処から僕を連れ出して欲しい!
僕を…この訳の分からないニュータイプ能力を理解してくれる人の元に行きたいと思った。
きっとあの人は僕をこの能力ごと受け入れてくれるとそう直感した。
何故なら、僕と同じニュータイプであるララァを彼は受け入れていた。そして、ララァも僕がシャアと共にいる事を望んだ。
ーーララァ…、僕と同じ魂を持つ少女…。唯一僕と分かり合える人…。彼女がいれば僕はきっと生きていける…。
けれど、僕はその手を振り払ってしまった。
仲間を裏切る勇気が無かった。
セイラさんやミライさん、気に食わないけどブライトさんやカイさん、ハヤト…そしてフラウ。みんな、生死を共にした仲間だ…。簡単には裏切れなかった。
でも…、どんどん覚醒して行く僕のニュータイプ能力にみんなが頼りつつも畏怖している事にも気付いていた。
フラウでさえも僕に対して一線を引くようになっていった。
フラウに対する僕の態度が悪かったのも分かってる。戦場のストレスと自分の気持ちと関係無くどんどん覚醒していく能力に対する不安を彼女にぶつけてしまった。
彼女だって戦場での生活で不安を抱えていたのに、僕は彼女に甘えて…ただ不安をぶつけた。
気付けば、彼女の心は僕から離れていた。
『私なんかには届かなくなっちゃった。』
僕を突き放す彼女の言葉に心が引き千切れそうだった。
こんな能力が無かったら前みたいに側に居てくれた?でも…この能力が無かったらきっと僕たちはとうに死んでいた…。
どうにも出来ない葛藤に押し潰されそうだった。
『誰か…僕を助けて。僕を何処かに連れて行って…。』
戦況が悪化する中、決して言えない僕の本心。
でも…僕にとって帰る場所はホワイトベースの仲間たちの元しか無かった…。
自室のベッドの上で、そんな事を考えながら今日も目を閉じて僕は束の間の眠りに落ちる。
------
「大佐!木馬は現在ポイント0018を航行中、本艦との距離は2000。こちらはまだ気付かれていません。」
オペレーターがシャアにホワイトベースの位置を報告する。
「よし、では作戦に入る。木馬は先日の戦闘で被弾し、戦力であるモビルスーツもまだ復旧できてはいない筈だ。奇襲作戦で一気に内部に侵入し、中から制圧する。そして、一番の戦力である白いモビルスーツとそのパイロットを奪取する。」
シャアはゲルググに乗り込み、視界の先に映る白い戦艦に狙いを定める。
「アムロ・レイ。君から来てくれないならば奪うだけだ。君だって心の奥底ではそれを望んでいるのだろう?」
シャアは小さく笑みを浮かべると操縦桿を握る手に力を込める。
《ブラン中尉、以下小隊!作戦通り木馬の艦橋に取り付き制圧する。クルーはなるべく殺すな。下手に煽ると指示に従わなくなるからな。》
《大佐!了解いたしました!》
《よし、行くぞ》
《はっ》
赤いゲルググと10機のリックドムがホワイトベースに向かい飛び立つ。
ダミー隕石に身を隠しつつホワイトベースへと接近する。
《まだ気付かれてはいないようだな。》
《はい、大丈夫です。》
《良し、作戦通り私とブラン中尉は艦橋に取り付く。他も所定の位置に取り付き潜入して制圧しろ》
《了解!》
ベッドで眠るアムロは強烈な赤い気配に目を覚ます。
「何だ!?シャア!?直ぐ近くに?」
そう叫んだ瞬間、ドン!と強い衝撃がホワイトベースを襲う。
「わぁっ」
アムロは慌てて起き上がると制服の上着を羽織って部屋を飛び出す。
すると、同じように部屋を飛び出したカイと鉢合った。
「アムロ!何だ?何が起こった?」
「カイさん!シャアだ!シャアが来た!!」
艦橋の方を見つめて叫ぶアムロにカイは目を見開く。
「どういう事だ!?大体何でレーダーに引っかからなかった!?」
「多分ダミー隕石を使ったんだ!それにこの辺りは昨日の戦闘でまだミノフスキー粒子の濃度が高いからレーダーに反応しなかったんだ!」
二人で通路に駆け出し艦橋に向かう。
角を曲がりエレベーターに乗り込もうとしたところにフラウの悲鳴が聞こえる。
「フラウ!?」
悲鳴が聞こえた方を見ると、ジオンの兵士がフラウを後ろから羽交い締めにして銃を向けていた。
「フラウ!!」
「アムロ!助けて!!」
「ジオン兵か!?チクショウ!潜入されたのかよ!」
「お前たちパイロットか?」
もう一人のジオン兵がアムロ達に銃を向ける。
「手を挙げて、こっちへ来い!馬鹿な事を考えるなよ!この子の頭が吹っ飛ぶぞ!」
アムロとカイは銃を捨て、両手を挙げて指示に従い、そのまま艦橋に続くエレベーターへと押し込まれる。
兵士がアムロとカイに手錠を掛けつつ二人を見つめ怪訝な顔をする。
「どういう事だ?何でこの艦は子供ばかりなんだ。それにみんな素人だ。お前達は現地徴用兵なのか?」
若い子供ばかりの艦内にジオン兵が戸惑いの声を上げる。
「知らねえよ!俺たちだって好きで乗ってる訳じゃない!理由なんて連邦のお偉方に聞けよ!」
カイが憎まれ口を叩くのを兵士が睨み付ける。
「まぁいい。俺たちは作戦を遂行するだけだ。」
エレベーターが艦橋に着き、中に入るとオペレーターの二人とミライ、数人のクルー、そしてブライトが腕を後ろ手に縛られ一箇所に集められていた。
「入れ!」
自分たちを拘束する兵士に促され艦橋へと足を進める。
すると、強烈な赤い気配と強いプレッシャーを感じてアムロの身体がビクリと跳ねる。
「アムロ?」
アムロの異常な状態にカイが声を掛けるがアムロは目を見開いたままカイの声には反応せずに震えていた。
「何をしている。止まるな!進め!」
兵士に背中を押され、押し出されるようにブライト達の元まで歩かされる。
そして、そこには赤いノーマルスーツの士官らしい男が腰に手をあて立っていた。
男はこちらに気付くと口元に笑みを浮かべアムロを見つめる。
「アムロ、あいつが赤い彗星なのか?」
カイの問いにアムロはコクリと頷く。しかし、その視線は目の前の男に向けられたままで、身体は小刻みに震えていた。
「アムロ・レイ、こうして直に君と会うのはサイド6以来だな。」
シャアの言葉に艦橋が騒めく。
アムロは唇を噛み締めながらシャアを睨み付ける。
「ふふ、そう睨み付けるな。あの時はまさかこんな坊やがガンダムのパイロットだとは思いもしなかった。」