電撃FCI The episode of SEGA 3
Final Stage 超能力者(レベル5)vsS級能力者(狩る者)
東京都千代田区、丸ノ内。大きな駅舎があるこの場所は二度異界化していた。
一度目の異界化は、外宇宙より飛来した侵略者、真竜フォーマルハウトとその配下、七匹の帝竜を中心とするドラゴンと呼ばれる存在の侵攻による異界化である。
ドラゴンの住み処と化した地は、猛毒性があり、そして底知れぬ生命力を持つ真っ赤な花弁の花、フロワロというものに沈んでいた。
ドラゴンの侵攻は、東京のみに止まらず、日本全土、果ては世界にもおよび、人類はドラゴンとフロワロによって滅亡の一途を辿った。しかしこれはもう、ある英雄によって終焉を迎えた話である。
東京に並みいるドラゴンを討ち、七の帝竜を倒し、ついには真竜フォーマルハウトを討ち滅ぼしたのは、日本政府公認の秘密組織、マモノ退治を専門としたムラクモと呼ばれる組織であった。
国家機密の組織とされたムラクモ機関のうち、真竜フォーマルハウトを倒したのは、機構ムラクモ十三班と呼ばれた、僅か三人からなる小さな班であったが、その力は軍隊一個師団をも軽く超えるほどだった。
ムラクモ十三班を束ねていたのは、一人の少女だった。
剣の扱いを得意とする、身体能力S級の
能力者であり、現代に生きるサムライの少女であった。
彼女は若冠、高校生の身でありながら、凡人数百、数千人の力を持っており、一軍を用いても一匹倒すのが限界のドラゴンを次々になぎ倒し、地球をドラゴンの魔の手から奪還する事に成功した。
ムラクモ機関の仲間には、非戦闘員の能力者がいた。情報処理能力S級を持つ、演算能力に長けたNav.シリーズという人工生命体である。
先天的に人間の力を超えた能力を持ったムラクモ十三班の構成員と違い、Nav.シリーズは後天的な研究によって生み出された造り物のS級能力者が彼らであった。
彼らは、ムラクモ機関のデータベース全てを瞬時に演算、最適な処理方法を見つけ出す、ナビゲーションに特化した能力を持っている。
しかし、人工的にかつ無理にS級能力者を造ったため、Nav.シリーズのほとんどは寿命が極端に短く、その上身体的には通常の人よりもかなり弱くできていた。
前線に十三班が出ていき、Nav.シリーズの班が後援する事で、ムラクモ機関はついに地球の侵略者、真竜フォーマルハウトを討ち滅ぼすのに成功したのだった。
真竜を討ち、数多の犠牲を払ったものの、世界はついに平穏を取り戻すことができた。
しかし、その平穏も僅か数ヵ月で崩れ去ることになる。それは、人々の夢全てを消し去ろうと企む、絶無の出現を意味していた。
※※※
異界と化した丸ノ内の駅舎からは、虹色に輝く棘を持ったクリスタルの蔦が方々に飛び出していた。
駅舎の周辺、内部は深紅の毒花、フロワロにつつまれ、風によってフロワロの花びらが舞い上がっていた。
丸ノ内は、まさに東京を中心に、世界をドラゴンの脅威に満たしていた竜災害、真っ只中である時のようだった。
水晶が輝く駅舎の内部には、やはりドラゴンがいた。その数は計り知れない。というのも、このドラゴンは絶無が作り出したまやかしであり、たとえ倒したとしても、次々に新たなドラゴンが出現するためであった。
しかし、存在がはっきりしないまやかしであるが故に、人を殺すような力は持っていなかった。
それ以前に、絶無が作り出した世界では、人は何があろうとも死ぬようなことはない。また、大きな怪我もすることがない。
大怪我するほどの、最悪死亡するほどの戦いとなっても、この世界にいる人々は、一定の体力を持ち、誰かと戦い合うことによって、その体力のバロメーターが尽きるまで戦うことを定められていた。
体力が尽きても死ぬことはない。そのため、この世界にいるものは死を恐れることもなく、何かに縛られることなく、戦いに身をおいていた。
駅舎の中に、一本の光線が走った。
その光線はかなりの電気を纏ったものであり、長い槍のごとく伸びていく。そして電撃の槍の穂先は、一匹のドラゴンを貫いた。
「いっけぇ!」
ベージュのベストに非常に短いミニスカートの制服姿の少女は、手に電気を放電させ、更にもう一本電撃の槍を放った。槍はもう一匹ドラゴンを貫き倒す。
二匹ドラゴンを倒した少女であったが、絶無の生み出したドラゴンのまやかしはなかなかその数を減らさない。
「ああもう! うざったいわねぇ!」
少女は苛立ちを示すように、全身に電気を放電させ、バチバチと音を立ててドラゴンの群れを睨み付けた。すると少女はスカートのポケットからコインを取り出した。
親指と人差し指の間に挟み込むようにしてコインを持ち、コイントスするかのような形にする。
「全力で行かせてもらうわよ!」
少女は全身に流れる電気を右腕へと集中させた。全身を走る電流が右腕一本に集中したことにより、少女の右腕を中心にプラズマが発生する。
チリンッ、と高い音が鳴った。少女がコインを空中に弾きあげたのである。
少女の手の先は放電するほどの電気を帯電しており、そこは強力な電磁力による磁界が発生していた。
その磁界の中へと、金属のコインは吸い寄せられていった。そしてコインが少女の親指の近くまで吸い寄せられた時、少女は親指に最大の電気を発生させ、前方に向かってコインを弾き出した。
「これが、私の全力よっ!」
瞬間、コインは目視できないほどに加速し、プラズマとともにレーザービームのように一筋の真っ赤な光線となった。
速度にして音速の三倍、強力な電撃によって生み出された電磁力は、ゲームセンターにあるただのコインを弾丸として、熱量を伴ったすさまじい威力の砲となった。
レールガン、別名超電磁砲とよばれる少女の全力の攻撃は、群がるドラゴンを貫き通し、熱によって熔解させた。
地面が焼き焦げる臭いが立ち込める中、少女はドラゴンの全滅を確認した。
「……まったく、一体何なのよこれは……」
少女はため息をつきながら、戦闘状態を解いた。すると不意に拍手が上がった。
「アハハ! さすがだねぇ……」
少女に喝采を送っていたのは、フード付きジャケット姿の長身痩躯の青年であった。
少女は突然の不振人物に、ポケットからコインを出してそれを向ける。すると青年は大仰な素振りで両手を上にあげた。
「おおう、怖い怖い! まさか善良な一般人にあんなビームを撃つつもりなのかい?」
青年はどうやら、少女のような特殊能力は持ち合わせていないようだった。しかし、怪しい人物には違いないように思えた。善良な一般人と宣ってはいるが、このような所に無傷でいられる時点で普通の人とは思えない。
「まあまあ、とりあえずそんな物騒なものしまいなよ。君に害を与えるつもりはないからさ」
――無能力者(レベル0)か……――
青年からは明らかに能力者の感じはしなかった。何故このような異世界の存在、ドラゴンの犇めく所にいるのか知る由もなかったが、相手が無能力者(レベル0)ならば、超電磁砲を使うまでもなかった。
「…………」
少女は無言で構えたコインをポケットに戻した。超電磁砲がなくとも、青年が万が一、無理矢理暴行を働こうとしても、少女には最大出力十億ボルトの電撃を使って黒こげにすることができる。
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 3 作家名:綾田宗