電撃FCI The episode of SEGA 3
「みんなも知っての通り、この世界じゃ人が死ぬようなことはない。けれど殴られればそれは痛い。しかも、サポートキャラどうあがいてもメインキャラには太刀打ちできない。そこで俺は一つ策を練ることにしたのさ……」
臨也が練り上げた策、それは十分な力を持つメインキャラと手を組むことだった。しかしそれは、何もヒトの姿をしたものである必要はなかった。
絶無フォーマルハウトが、この世界において最強のものとなるならば、彼に静雄を倒してもらえばよい。
しかし、幾度となく静雄の相手をしてきた臨也にはよく分かっていた。
平和島静雄は化け物であり、絶無フォーマルハウトもまた化け物に代わりはない。化け物に化け物が勝てる道理は薄いのではないか、と臨也は考えたのだった。
「こうして俺が考えた作戦、それは絶無、君に従う振りをしつつ君を倒せそうな奴を探すことだったのさ。学園都市、常盤台のエースに、ドラゴン退治を生業にする機密組織、ムラクモ十三班のS級能力者がぶつかり合う、なんてのは嬉しい誤算だったけどね。なんにせよ、君達の内のどちらかが絶無を超える力を持っているんなら、シズちゃんも簡単に倒せるんじゃないかな?」
ここまでは全て、臨也の思惑通りに事が進んでいた。後は、ヒトを愛する臨也にとって、そのヒトの夢を壊して苦しめる絶無を葬り去り、絶無を倒した方と手を組んで静雄を倒すことが臨也の目的の全てであった。
「なんだか、ものすごく癪ね……!」
美琴は苛立ちを見せた。
「あら、奇遇じゃない、私もよ」
サヤも少し怒っているようだった。
倒したはずの真竜フォーマルハウトが復活したかと思えば、その存在は一人の男の策略の一部であり、サヤは美琴共々見事に踊らされていた。
折原臨也という男の個人的な欲望のために振り回され、そして彼の目的は間もなく果たされようとしている。
しかし、絶無を放っておくことはできないというのも事実であった。絶無を野放しにしておけば、この世界における夢が奪われ、彼の名を表すように、希望というものが無になる。
「臨也の思いのままになっちゃうのはムカつくけど、あんたを放っておくわけには行かないのよ。今度こそ消えてもらうわ、絶無!」
美琴はポケットからコインを取り出した。すると、その隣にサヤも刀を構えて並び立つ。
「奴を倒すんなら助太刀するわよ?」
サヤはニッ、と笑う。
「好きにしなさい。って言っても、あんたに出番はないかもしれないけどねっ!」
美琴は笑い返して言う。
「臨也!」
美琴は、後ろで高みの見物を決め込もうとしている臨也に、顔だけを向ける。
「こんな事になったのは九九パーセントあんたのせいなんだから、ちゃんと責任は取ってもらうわよ?」
臨也は、苦笑して肩をすくめ、両手を広げた。
「……ほんと、シズちゃんみたいなこと言うねぇ。残りの一パーセントを信じてくれないのも一緒だよ。けど……」
臨也は、コートの袖口からナイフを取り出し、半回転させながら刃を立てた。
「今回ばっかりは言い逃れできそうにないねぇ。実際、絶無と手を組む振りをして君達を戦わせたわけだし。いいよ、ここは協力して絶無を倒そうじゃない!?」
瞬間、臨也はテレポートのような動きで絶無との間合いを一気に詰め、ナイフによる連続斬りを放った。
そして一旦後ろに下がって、絶無から距離を取り、折りたたみのナイフを一度しまい、コートのポケットから数本のスローイングダガーを出した。
「ハハハっ!」
臨也は、楽しげな笑い声を上げながら、スローイングダガーを投げた。
「ぐぬうう……!」
臨也のトリッキーな動きについていくことができず、絶無は攻撃を受けるばかりで全く動くことができない。
しかし、真竜フォーマルハウトの体をしている以上、ナイフ攻撃程度では致命傷は与えられず、精々動きを制約するのが精一杯であった。
そこで臨也は、別の方法を使うことにした。もう一度スローイングダガーを複数取り出し、放った。しかし、その狙いは絶無本体ではなく、絶無の頭上の方に向かっていく。
臨也の放った刃は、倒れきっていないクリスタルのイバラを掠めていた。一本ではイバラの本体に薄い傷をつけるのも難しいが、臨也は数本のスローイングダガーを、それも全く同じ位置に投げ放っていた。
一本一本は、想像通り弱かったが、それが一転となると話は違った。
臨也のナイフによって生じた切れ目が同じ場所を掠めることにより、クリスタルのイバラの切れ目は、簡単に折れてしまいそうなほど大きくなった。
「フフッ!」
臨也は止めの一本を放った。イバラはついに耐えきれなくなり、折れて地面に落ちていく。
クリスタルのイバラが落ちていく先には、絶無がいた。
「ごおおっ……!?」
上から突如現れた、重量感と硬質のものが絶無の頭を打ち付け、絶無は一瞬意識が飛ぶような感覚に見舞われた。
「今だよ、ミコちゃん!」
絶無が完全に動きを止めた瞬間を狙い、臨也は美琴に超電磁砲(レールガン)を撃つように言った。
「ふんっ! 言われなくても!」
美琴は右手に構えていたコインを弾き上げ、右手に電気を集中、増幅させた。
強力な電気を帯電する美琴の右手はバチバチと放電し、電磁力による強力な磁界が発生した。
弾き上げたコインは、重力と強電磁力で美琴の右手へと吸い寄せられていく。そしてコインが親指に触れた瞬間、美琴はコインを超音速の弾丸にした。
弾丸となったコインは、レーザービームのこどく絶無を貫いた。
しかし、絶無はまだ立っていた。
胸部から焦げたような煙が上がっているが、弾丸と化したコインは絶無の体表で熔けきってしまったのである。
「そんな、まさか威力が!?」
コイン一枚程度の質量では、絶無を完全に貫き通すほどの威力ある超電磁砲(レールガン)を撃ち出せなかったのだ。
「ぐう……二人揃って小賢しい真似をしてくれたものだ。しかし残念であったな、紛い物とは言え、この体は真竜のもの。そう簡単に砕けはしない!」
「くそっ! どうすれば……!?」
かなりの硬度を誇る絶無の体には、美琴の超必殺技の超電磁砲(レールガン)さえも通じない。美琴は絶無を睨むしかなかった。
「ミコちゃん、電気を出すんだ。超強力な電磁力ができるくらいにね!」
ふと、転がったコンテナの上に立っていた臨也が叫んだ。
美琴ははっ、となって言われるがままに全身の生体電流を一気に増幅させる。
「これを受け取るんだ!」
一体どこにこれほどの量を隠し持っていたのか、ジャラジャラ音を立てながらスローイングダガーを美琴の頭上に落とした。
大量のスローイングダガーは、美琴の半径一メートル以内に入った瞬間、美琴が発する磁界によって宙に止まった。
「後はどうするか、君なら分かるだろう?」
答える代わりに美琴はニヤリと笑い、近くに転がる鉄筋コンクリートの瓦礫を電磁力を込めて蹴り上げた。
そして身に纏った大量のスローイングダガーを瓦礫の塊に収束させた。その瞬間、瓦礫の塊は、スローイングダガーが針となったいかにも刺々しい物体となる。
「美琴、一体何をするつもり?」
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 3 作家名:綾田宗