電撃FCI The episode of SEGA 3
ヒトの頭ほどの大きさで、しかもスローイングダガーがくっついて針山のようなものをこしらえた目的が分からず、
サヤは口にした。
「絶無、よく見ときなさい! 私にはぁ……!」
美琴は、全身の生体電流を右拳に、全て集めるつもりで集中させた。そして美琴の右拳に帯電する電圧は、美琴の最大出力である十億ボルトまで跳ね上がる。
雷を伴った雷雲のごとき、激しい放電をさせながら、美琴は拳を振り、電磁浮遊する塊を殴り付けた。
「……こういうこともできるのよっ!」
美琴の腕には、十億ボルトにまで達した電圧が宿り、電圧に比例して電流が、そして電流によって磁界が発生していた。超電磁砲(レールガン)を撃つときと同じ状態である。
「これがっ! 私の全力だあぁぁ!」
コインを弾丸とした時とは比べ物にならないほどの超電磁砲(レールガン)が放たれ、数倍以上の速度、熱量を持ってとげとげの塊は、真っ赤な閃光を残しつつ絶無へと撃ち出された。
音速の三倍ではすぐに熔解してしまうコインと違い、ナイフを纏ったとげとげの物体は形をほとんどそのままに絶無まで届いた。
「ぐおおおおああ……っ!」
美琴のかなり強化された超電磁砲(レールガン)は、絶無の腹を貫通していった。
「ふう……」
美琴は最大出力を放った反動で、軽くめまいを感じた。さすがに能力を使いすぎたと思った。
しかし、これほどの一撃を食らえば、真竜フォーマルハウトの体を持っている絶無とはいえ、無事でいられるはずがない、と美琴は確信していた。
「おー、おー、腹に風穴を空けてやるなんて……ミコちゃん、君もずいぶんとすごいことを考えるじゃないか」
絶無は、美琴の超電磁砲(レールガン)によって空けられた風穴から煙を立ち上らせていた。
「俺のサポートのおかげ、っていうことだね。百本以上のナイフをあげたし、それのうまい使い方も教えたしね」
ニヤニヤと笑いかけてくる臨也から目線をずらすように、美琴は腕組みをしてそっぽを向いた。
「……別に、あんたに助けてもらわなくたってこれくらい、私の力でどうとでもなったわよ!」
美琴は精一杯の強がりを見せる。
しかし、臨也の助けがなかったのなら、危ないところだったのは事実であった。美琴に僅かばかり、臨也への感謝の念が頭を過る。
「おおぅ、これが所謂ツンデレってやつ? ハハっ! 実際に言われるのは初めてだったかな。これだからヒトってのは面白い!」
美琴は顔を赤くする。
「はあっ!? 何言ってんのよ、そんなわけないでしょ!? どう解釈すればそういう……」
「二人とも、痴話喧嘩は後にしてもらえるかしら? まだあいつはやられちゃいないわ!」
サヤが口を挟んできた。
「なっ!? 痴話喧嘩なんて、そんな……!」
美琴は言葉を止めてしまう。サヤの言う通り、絶無はまだ立っていたからだ。
「しぶといやつね、さっさと倒れちゃえばいいのに!」
しかし絶無は、先程美琴から威力を超強化された超電磁砲(レールガン)を受けた後、全く動きを見せない。
その上絶無の胸元は、超電磁砲(レールガン)の特殊な弾丸で貫通された影響で、焼き焦がされて煙を上げている。
そのような状態に陥っているにも関わらず、絶無は倒れる気配がなかった。
「どうして、あれを食らってまだ生きていられるですって!? 絶無、あいつ一体なんなのよ!?」
美琴はすっかり取り乱していた。
「うん? あいつから出てる煙……。どうやら焼き焦げたから、ってわけじゃなさそうだ」
臨也は落ち着いて絶無を観察し、そして、ある答えにたどり着いた。
「あのどす黒い煙、絶無の体から出てきているみたいだね。まるでセルティの首から上に立っている謎の炎か煙みたいだ」
臨也は知り合いのデュラハンと絶無の様子を比較した。どす黒い何かを上げているという点においては一致している。
「ふん……この私を追い詰めるとは、なかなかやる。ではその力に敬意を表し、仮初めの殻を破るとしようではないか……!」
絶無は口を広げた。すると今、胸元から出ているどす黒い煙のようなものが、口を通して出始めた。
やがて、絶無は口からの煙の放出も止めると、これまでの体は石化し、軽く空中に浮いていたが支えを失い、地面に落ちると粉々に散っていった。
「……あの時と一緒ね……」
サヤは一連の現象を見て、真竜フォーマルハウトとの戦いの時と重ねていた。
あの戦いでも、フォーマルハウトの第一形態と戦った。
しかしフォーマルハウトは、議事堂に直接攻めてかけてきた。その時はまだ力の差が激しく、サヤ達はまるで歯が立たなかった。
それから、議事堂に攻めてきたドラゴン軍団を退け、フォーマルハウトとの最終決戦を行った。しかし、その時は拍子抜けするほど弱かった記憶がある。
理由は至極単純だった。それまでに人類の前に姿を現していたフォーマルハウトは、まだ真なる姿、全力を出していないためであった。
そして今、絶無フォーマルハウトは、仮初めの姿を砕き散らし、真の姿を現そうとしている。
「恐れおののけ!」
黒煙は巨大な球体となり、その中心とおぼしき場所より絶無の声がした。そして絶無は自らの発する気力により、身に纏う煙を吹き飛ばした。
煙の中から現れた姿は、これまでとはまるで違うものだった。
漆黒の体色は白金色となり、体の随所に宝石のような輝きを放つ物体が埋め込まれている。
大蛇のように長く太い体には四つの翼があり、羽根はこの丸の内を異界と変貌させているクリスタルのイバラによく似ている。
これが絶無フォーマルハウトの本来の姿であるが、神々しい見た目をしながらも暗黒の力に満ちた、まさに矛盾した存在であった。
「フォーマルハウト、真の姿をあらわしましたね……」
「相変わらず悪趣味だな……。ニアラのやつもそうだったが、真竜ってのはどうしてこうも胸くそ悪い姿をしてやがるんだ?」
ナビ二人は、以前に戦った本物のフォーマルハウトと、全く同じ変化を遂げた絶無を見て、片目を閉じて嫌悪感を露に口にする。
「何よコイツ!? ぜんぜん違う姿になったじゃない!」
美琴は、絶無フォーマルハウトの変化の具合に絶句していた。
「……化け物、それ以外やつを表す言葉が見つからないねぇ。まあ、強いて言うんなら、綺麗なようですごく悪い気を感じるね。神様、なんて俺は信じちゃいないけど、もし本当にいるんだとしたら、どいつもこいつもこんなやつらばっかりなんだろうね。全く、これだから人間以外のものは嫌いなんだよ」
ニヤケた顔をしながらも、臨也も絶無フォーマルハウトを嫌悪していた。
「フハハハ! 私の真の姿を見て驚いているようだな、無理もあるまい。力が溢れかえるようだ! 絶望こそが、私の遥か高みへと至るエントロピー! フハハハ……!」
「…………」
「サヤ……?」
高笑いを続ける絶無フォーマルハウトに、サヤつかつかと無言で歩み寄った。
右手には刀を携えているが、だらりと持っているだけで全く構えていない。
絶無フォーマルハウトに至近距離直前まで近付くと、サヤは歩みを止め、絶無フォーマルハウトをまっすぐに見つめた。
「ぬう、貴様、なんだその目は?」
サヤの目には、強い意志が込められていた。
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 3 作家名:綾田宗