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撮・影・感・度

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撮・影・感・度



1.アウトフォーカス







「…お早うございまーす」

通い慣れた部屋にゾロは足を踏み入れた。
都内某所、小さなビルの中にある撮影スタジオ。
もうここへ通うようになって二年近くが経つ。
年上だが大学の同期である友人のエースに誘われて来たのが始めてだった。
色々な職種のバイトを渡り歩いてきたエースが、人数がもう一人欲しいからとゾロに話を振って来たのが最初だ。
巷では結構有名なファッション雑誌の出版社のビルにある、撮影スタジオ。
モデルにも芸能人にも会えるかも知れない、と言うミーハーな動機で始めたらしいエースだが、そう言った世界にあまり興味のないゾロはただ単にバイト代が破格だと言う事でエースの話しに乗った。
仕事内容と言えば、撮影のためのスタジオ準備。撮影中に機材を動かす手伝い。撮影が終ればその後片付け。要は雑用だ。
バイト代が破格だっただけでなく、幼い頃から剣道を続けていて大学も剣道特待生で入ったゾロにとって、大学の講義と剣道の練習の合間を縫って出来るバイトと言うのは限られていて、時間的融通が利くと言うのが一番大きなメリットだった。
一人暮らしで家賃から生活費をバイトで賄わなければならないゾロは、いつでもバイトを掛け持ってきた。
しかし続けていた二つのバイトが店の都合などで辞めざるを得なくなってしまい、収入が減ってしまう事に頭を抱えていたのだ。
そこに飛び込んできた、空いた時間に入れる破格のバイト代を出してくれるスタジオ雑用バイトは、まさに渡りに船。
話を聞いて直ぐに飛びついた。
しかしそのバイトを始めて半年ほどが経って仕事に慣れてきた頃、なぜかその時のカメラマンにエースとゾロの二人に撮らせて欲しいと言われたのだ。
雑用のバイトで入っただけにも関わらず、なぜ自分がモデルのような事までしなければならないのかと、ゾロはまるでやる気も興味もなく無視していたのだが、元々こう言う派手な事が好きなエースは乗り気で、そのエースに引き摺られるようにしてスタジオセットに立たされた。
エースとカメラマンの赤髪の男に流されるまま、他愛ない話をしながらカメラを向けられてシャッターを切られる。
それが何とも慣れなくて居心地が悪く感じたが、最後には特に何も感じなくなっていたのは、恐らくエースの気軽さと赤髪のカメラマン…シャンクスの気さくさだろう。
後日その時の写真を見せられて、今まで見た事のない表情で写っているエースと自分の姿に驚いたものだ。
プロの手で撮られるとこんなにも写真と言うものは違うものかと、感心してしまった。
シャンクスはカメラマンでありながら、実はこの出版社の社長でもある。
自分の撮りたい写真を撮り、載せたい写真を好きに載せられる出版社と雑誌を作ってしまった、究極の趣味人だ。
実際多忙にも関わらず、この出版社から出ている雑誌の写真は殆どがシャンクスの写真だ。
その社長兼専属カメラマンのシャンクスの強い推薦で、トントン拍子にゾロとエースはこの出版社専属のモデルになってしまった。
もちろん華々しい世界に思い切り興味のあるエースは直ぐに食いついて、ゾロは興味がないので最初はシャンクスの申し出を断り続けていた。
が、それが項を成したのか、頼み込むシャンクスがギャラを更に上乗せで提示してきた。
その金額に、ゾロは思わず揺れてしまったのだ。
シャンクスは、もう面倒だから芸能プロダクションも作るか、等とその頃は暢気に言っていたものだが、週刊、月刊の幾つかの雑誌のファッションモデルとしてデビューした二人が、その雑誌で顔が売れ始めた頃になると、シャンクスは冗談のように言っていた芸能プロをいとも簡単に立ち上げてしまい、シャンクスはエースをそのプロダクションで最初の『タレント』として売り出した。
雑誌で既に顔が売れ初めていただけに、エースの本格的な芸能界入りは早かった。
今ではモデルとしても勿論、タレントとしてバラエティにも、俳優としてドラマの小さな役もこなす多忙な『芸能人』だ。
ゾロもモデルだけに留まらず一緒にやらないかとシャンクスにもエースにも誘われたが、やはりゾロの本業は学生であり、何より剣道だ。
それだけはと断って、モデルの仕事だけを続けている。

…と言うわけで、ゾロは今日も撮影のためにこのスタジオを訪れた。

「ゾロ、こっちだ」

シャンクスがカメラを持つ時は、いつもゾロは真っ直ぐに衣装室へ向う。
あらかじめ用意されている衣装に着替え、メイク室に移ってメイクをしてもらい、そしてカメラの前に立つ。
そこで始めてシャンクスから今日のコンセプトだとか、どう言ったイメージで撮りたいのだとか、そんな話を聞く。
何の雑誌の写真を撮るのかはゾロのスケジュールを決める時に先に聞いているので、ゾロからは特にシャンクスに言う事もなく、下手をすれば最初の挨拶以外ゾロが何も口を開かず進む事だってある。
それが今日はスタジオに入った途端、カメラマンでありながら社長でもあるシャンクスの秘書、ベン・ベックマンに手招かれた。
学生を続けながらモデルと言う職に就いているゾロだって当然それなりの体格をしている。
身長だって180はあるし、剣道をやっているから適度に筋肉も付いている。
しかしこの秘書はその更に上をいく。
ゾロが少し見上げるほどの長身。ゾロよりしっかりと付いた筋肉。
長く伸ばした黒髪を後ろで一つに束ねたこの秘書が、ゾロにはどうしてもただの秘書には見えなかったが、それを実際口に出して尋ねた事はない。

「前にも言ったが、今日からしばらくシャンクスの奴が不在でな。代わりにコイツが撮る。…サンジだ」
「…ゥス」

そう言えばベンとスケジュールの打ち合わせをした時に、そんな事を聞いたような気がする。
今更思い出したゾロに、ベンは傍らの人物を指し示した。
ベンからそちらに視線を移したゾロは、低く短く答えて顎を突き出すように会釈して見せた。
そのゾロに、目の前のサンジと呼ばれた人物は、無言のままヘコリと猫背の背を少し屈ませて会釈を返す。
その姿に、ゾロは強い違和感を持ってまじまじと見詰めてしまった。
曲がりなりにもカメラマンと言う仕事…特にゾロの載っているファッション誌の仕事をしている人間ならば、造り手側だったとしても服装や小物、雰囲気だけでも洒落っ気があっていいものだ。
あのいつもヘラヘラとしているただのオッサンに見えるシャンクスだって、実は着ているものや身に着けているものはブランド物だったりする。
それを気付かせないほど自然にさり気無く着崩して着こなす粋さを持っている。
目の前のベンだってそうだし、撮影に関わる衣装担当者やメイク担当者、雑誌の編集だってそれなりのものだ。
だがこのサンジはどうだ。
目元が見えないと思うほど目深に被った白のニット帽。しかも頭頂部に大きなボンボンが付いている。
そして更に目元を隠すようにかけられたメガネは、今時流行る『ダサメガネ』なんてもんじゃない。
本当にダサい。
おかげで顔がよく解らない。
と言うより、元から頭や顔が小さいのか、ニット帽を目深にしてメガネをかけているから、顔自体がないようにすら見える。
作品名:撮・影・感・度 作家名:瑞樹