撮・影・感・度
しかしゾロは、その金髪頭から目が離せなかった。
シャンクスの言葉も耳に入っていなかった程に。
「…ゾロ、どした?」
驚いたようにサンジを見ていたゾロに、見られていたサンジ自身が怪訝そうな顔で首を傾げる。
そのサンジのゾロを見詰める、片方だけ覗いた瞳は、どこまでも澄んだ鮮やかなブルー。
今まではよく見えていなかったその肌は、白磁のように白い。
そして目を引いたのは、鮮やかなブルーの上に乗る、不思議な形の眉毛。
想像すらしていなかったサンジの容姿に、ゾロははっきり言って魅入っていた。
「…ゾロ?」
「…あぁ…いや、」
ベンの声で呼ばれ、ゾロは漸く我に返る。
サンジに魅入っていた事実にサンジから視線を外したゾロに、シャンクスはひっそりとニヤリと笑う。
「ま、仲良く撮影してくれたなら良かったよ」
ニヤリと笑ったその顔をいつものような暢気な笑顔に変えてシャンクスはあっさりと言って、サンジの頭を再びぽんぽんと撫で叩く。
その手をサンジは、どこか照れを隠したようなムッツリとした顔で払う。
「…別に仲良くなんてしてねぇ。それより、写真見てくれよ」
シャンクスの手を払って再び机に寄って、サンジはその上にばら蒔かれた写真を示す。
どれどれ、とシャンクスも机に寄り、広げられた写真を一枚一枚手にしてじっくりと見ていった。
「…ふ~ん」
良いとも悪いともつかないシャンクスの声。
じっくりと一枚を眺めては、シャンクスは隣に並んだベンに写真を手渡していく。
たっぷりと時間をかけて二十枚程の写真を見た後、シャンクスはベンを振り返ってまた意味ありげにニヤリと笑う。
その笑顔を受けたベンはと言うと、微かに笑いながら小さく肩を竦めた。
そんなベンに満足げにシャンクスが笑うと、その笑みをサンジにも向ける。
「OK、じゃあお前自身が気に入ったヤツ、ネガにピックアップしといてくれ。これは全部預かるぞ」
「…やった!」
あまり見た事のない社長らしい態度でシャンクスが頷き、机に散らばった写真を集め始めると、サンジは胸の前でガッツポーズ。
まるでテストの点数を親に褒められた子供のような顔だ。
二人のやり取りにどんな意味があるのかゾロは知らないが、会話を聞きながら視線はずっとサンジを追っていた。
くるくると良く変わる表情。
撮影の時には帽子やメガネやカメラに邪魔をされて、見えなかった表情。
なぜか、目が離せなかった。
掲載される写真が決定したらまた連絡する、とシャンクスに言われたものの、どの写真が載ろうとゾロにはあまり興味がなく、別にいい、と素っ気なく答えて再び大学へと戻って行った。
サンジも早速ネガチェックをする、とゾロに続いて帰って行き、スタジオに残ったのはシャンクスとベンの二人。
サンジの持って来た写真を全てまとめて封筒に入れ、それをベンに持たせて連れ立ってビル最上階にある社長室へと戻っていた。
「…どうだ? 俺の勘。当たっただろ?」
「そうだな」
社長室に入るや、シャンクスは子供のような満面の笑みでしてやったりと後から入って来るベンを振り返り、椅子には座らずにデスクに寄り掛かる。
ベンは先ほど肩を竦めた時と同じような微かな笑みで頷き、封筒からまた写真の束を出してはシャンクスが寄り掛かったデスクに置いた。
その写真を、二人で見下ろす。
「俺もまさかここまでとは思わなかったけどな」
「想像以上だ」
「想像はしてたのか?」
「…社長の眼は信じている」
あっさりと認めたベンに、シャンクスはクッと笑った。
「…社長以上に有能だって噂される秘書にそう言って貰えるのは、光栄だな」
自由気儘で奔放な社長はあの有能な秘書がいるからこそだ、と噂されている事は、当の本人も耳にしている。
しかしその有能な秘書は、本当は自分がいなくともシャンクスと言う男は一人でも精力的に今の仕事を続けていける事を知っている。
シャンクス自身もそれを自負している事も。
シャンクスの言葉に思ってもいない事とは思わないが、シャンクス自身が本当は有能であり、しかし自分がいるからこそ自由に仕事が出来るのだと言うのもまた事実。
揶揄うようなシャンクスの言葉にベンが再び小さく笑うと、そのベンの肩にするりとシャンクスの腕が周り、長身を引き寄せた。
引き寄せられるままベンはシャンクスに身を寄せ、どちらからともなく唇を重ねていく。
しかし一度の口付けで身を離そうとしたベンを、シャンクスは身をデスクに倒しながら更に引き寄せた。
「…シャン…社長室だぞ」
「…そ、俺の部屋」
だから誰にも文句は言わせないのだ、とでも言うかに、シャンクスはデスクに身を預ける。
ここはシャンクスの会社であり、社長であるシャンクスの部屋。
そう言われてしまえば、ベンに拒否の言葉など紡げない。
再び重なった唇は、その隙間から互いの舌を絡めた深いものになっていく。
「……ベック、」
もっと、と続ける言葉は、しかし不意に響いたノックの音に妨げられた。
「シャンクス、入るぞ。言っていたスケジュールの、……」
ノックと声と共にドアを開けてしまったのは、今唯一のタレントであるエースのマネージャー、スモーカーだった。
ドアを開けた目の前の光景に僅かに片眉を持ち上げただけで、スモーカーの顔色は変わらない。
長い付き合いの友人たちがそう言う関係だと言う事は、既によく知っていた。
しかし驚きはしなかったスモーカーの顔は徐々に不機嫌になり、次第に怒りに変わる。
「テメェ…人呼び付けといて何してやがる」
「何って…ナニ? 残念、そう言えばスモーカー呼んでたんだっけな」
悪びれもせず、まだベンの肩に腕を回したままシャンクスは頭だけを持ち上げて、ベン越しに不機嫌なスモーカーを見た。
驚いた後でガックリと肩を落としたのは、スモーカーに背を向けていたベンの方で。
「…シャン…呼んでいたなら先に言え…」
スモーカーの小言など右から左のシャンクスに代わって真摯に聞いては謝るのは、ベンの方だったのは、いつもの事。