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撮・影・感・度

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3.スローシンクロ







サンジとの初めての撮影から一週間が経っていた。
あれからゾロには撮影のスケジュールも雑用の仕事も入っていない。
雑用の仕事はシャンクスやベンには、モデルに怪我でもされてはたまらないからやらなくていいとは言われていたものの、怪我などしないしする気もない。事実働きだして二年、一度も怪我などしたことはないし、気をつけている。だからやらせてほしい。そしてバイト代をくれ、と交渉した結果、二人が仕方がないと苦笑いして許してくれたおかげで、今でも続けている。
あの撮影から一週間、そろそろ何か仕事の話が来そうだとは思ったが、ゾロからベンに連絡をする事もなく、ゾロはいつものように大学に通っていた。
眠い目を擦りながらどうしても外せない一限からの講義を受け、眠いが二限の講義も出なければ、と思ったのだが、校舎前の掲示板を覗くと次のゾロが受ける講義が休講になったと張り紙が出ていた。

「………」

いつもならば二限を受けて昼飯を食べ、午後からは道場で剣道の練習がある。
本来は一日の講義が全て終わってから練習が始まるのだが、道場は午後からならば開けてもいいという決まりだった。
午後からの講義がないゾロは、毎週この日は午後一番にゾロが道場を開けていた。
しかしその時間より随分早くに身体が空いてしまった。
昼食を取るにしても、時間が早い。
どこかで寝るか、と思っても、外は寒いし大学内の図書館はゾロがいる校舎からは随分遠い。
時間を持て余してしまったゾロは暫し途方に暮れた。
掲示板の前に立ち尽くしたまま考え込んでいると、不意にジーンズのポケットの中で携帯が震える。
取り出してディスプレイを見ると、知らない番号。この時間に携帯を鳴らすような友人に心当たりがない。
そもそも友人自体が少ない上に、未だに携帯の使い方も良く解っていない程だ。
持っているだけ無駄だとも思ったけれど、独り暮らしを始めた時に固定電話を引く代わりに購入した。その程度のもの。
見慣れない番号を訝しみながらも、鳴り続ける携帯の通話ボタンを押して耳に当てた。

「…もしもし」
『……あー、ゾロ…か?』

機嫌が良くても不機嫌そうだと言われるゾロの声に、控えめな声が返った。
聞き慣れない声だ。

「誰だ?」
『おー、良かった。ゾロだよな?俺、サンジ』
「…ああ…」

ゾロが否定しなかった事で安心したように返ってきた声の主は、先日のギャップが激しいカメラマン。
この一週間、ゾロは変わらずギャップが激しい奴だったとか、ダサい奴だったとか、その程度しか思い返すことはなかった。
この二、三日は忘れてすらいた程だ。
名乗られて漸くその顔をゾロは思い出す。
と言っても、ニット帽と眼鏡で殆んど顔の造作など見ていないのだが。

『なぁ、今からスタジオ来れねぇ?』

何の用だ、などと問うまでもなく、撮影の時も良く回っていた舌は今日も良く回るらしい。

「今、大学だ。夕方から練習あるから、それまでなら」
『…あ~、そっか。そうだよな、大学か…。解った、夕方までで構わねぇよ。今すぐ来れっか?』
「…三十分位だな」
『解った、この間のスタジオにいるから。じゃあ後でな!』

元来せっかちなのか、用件だけを告げて電話は早々に切れた。
一体誰からゾロの番号を聞いてかけてきたのか。
恐らくベンかシャンクスだろうとは思ったが、ともあれゾロの練習までの時間は無事に潰れる事になった。



さすがに二年も通ったスタジオまでの道には、方向音痴のゾロでももう迷わなくなっていたようで、サンジに言った三十分という時間もかからずにゾロはスタジオに到着した。
正面玄関からビルに入り、エレベーターで移動してスタジオの扉を潜る。
正面奥に今は使われていないセットがあり、その手前にカメラポジション。更に手前には、モデルやスタッフが荷物置きにしたり一時休憩に使う長机が二つ着けて置いてある。
その机の前に、サンジはいた。
先日とあまり変わらない格好で、やはり顔がよく解らない。

「…ゥス」

手にした何かを何処か嬉しそうに見ていたサンジにゾロが短い挨拶をすると、サンジは顔を上げて同じように短く挨拶をする。
そしてゾロの荷物を見て何故か笑みを深めたようで。

「…なるほど。練習って言ってたけど、テメェ剣道やってんのか。納得」
「…あ?…まあな」

言われてゾロは自分の荷物を自分で見やる。
講義のテキストの入ったリュックと、竹刀の入った竹刀袋。
防具は大学の道場に置いてあるが、使い慣れた大切な竹刀だけは人に触らせたくなくて、練習のある日はいつも持ち歩いていた。
そんなゾロにサンジはいかにも納得、と言うように何度か頷く。

「道理でな。テメェ、すげぇ姿勢いいからよ」

だから背中からのショットが映えたんだなー、などと、サンジは独り言のように納得しつつ、また手元の何かを見た。
ゾロがサンジのいる机に歩み寄ると、サンジの見ていた物が解った。
写真だ。
一週間前の、サンジが初めて撮った、ゾロの写真。
ホラ、と歩み寄ったゾロにサンジが差し出したのは、あの日のゾロの背中からのショット。
真っ直ぐにピンと伸びた背筋。
服の上からでも解る、背中の筋肉の隆起。
シャンクスには背中からのショットは撮られた事がなかったと、ゾロはふと思う。
逞しすぎる程のゾロのその姿を、この写真は嫌味なくスマートに見せていた。
それでも誰もが羨ましく思うような体格だとはっきりと解る。
写真の事などさっぱり解らないゾロには、どこか不思議な写真だった。

「どうよ?」

問いながらも自信満々に胸を張るサンジに、ゾロは思わず唇の端を引き上げて微かに笑ってしまう。

「…ヘェ」

素っ気なくも感心した、と言うようなゾロの呟きに、サンジは満足げに笑う。
そこに唐突に暢気な声が聞こえてきた。

「サンジ~、この間の写真、出来たって?」

ゾロとサンジが同時に振り返ると、ベンを伴ったシャンクスがスタジオに入って来たところだった。

「シャンクス、帰ってたのか。久しぶりだなぁ」
「…ゥス」

いつでも暢気で陽気にヘラリと笑うシャンクスは、相変わらずの笑顔だ。
サンジのシャンクスへの声を聞きながらゾロが浅く頭を下げると、サンジの方からパサリと微かな音がした。
その微かな音にゾロがまたサンジを振り返ると、その視界の中をキラキラとしたものが通り過ぎた。
一瞬のこと。
振り返った先にサンジの姿はなく、代わりに机の上には今までサンジの頭の上にあった、大きなボンボンの着いたニット帽が放り投げられていた。
久しぶりだ、元気だったか、とシャンクスとサンジのやり取りを聞きながらゾロが改めて声の方を振り向けば、シャンクスの前に見覚えのない金髪頭があった。

「急に頼んじまって悪かったなぁ、サンジ。助かったよ。撮影はどうだった?」
「いや、声かけてくれて嬉しかったぜ。…誰に言ってんだぁ? 順調に終わったに決まってんだろ?」
「お前の腕を心配してた訳じゃねーよ。モデルがゾロだったしなぁ。お前ら気が合わねぇんじゃねーかと思ってな。無事に終わったなら何よりだ、なぁゾロ」

シャンクスはゾロの見慣れない金髪頭をぐりぐりと撫でながら、唐突にゾロに話を振る。
作品名:撮・影・感・度 作家名:瑞樹