ヒカリ 5
まるで人ごとの様に答えるアムロにブライトが目を見開き、セイラが悲しげな瞳を向ける。
そして、セイラはアムロの身体に無数の紅い痕を見つけ、眉間に皺を寄せた。
「アムロ…、さっき貴方、兄を庇おうとしなかった?緑色の機体のが一瞬早かっただけで、貴方も兄を庇おうとしていたように見えたのだけど…。」
セイラの言葉にアムロは肩をビクリと震わせる。
あの時、シャアと対峙しながらも咄嗟にシャアを庇おうとしてしまった。
『なぜ…?いや、そんな事分かっている。僕はあの人を…』
「…セイラさん…僕…僕は…あの人と…ララァと…ずっと…一緒に居たかった…。そんなの夢だって分かってたけど…でも…。」
目を見開いたまま遠くを見つめ涙を流すアムロを堪らずセイラは抱き締める。
「アムロ!!」
セイラのその肌の温もりに、アムロの瞳からポロポロと涙が零れだす。
「セイラ…さん。僕…」
「アムロ…貴方が捕虜になっていたこの一ヶ月の間に一体何があったの?兄は…貴方に何をしたの?」
セイラの問いに答える事なく、アムロはただひたすら涙を流す。
そんなアムロを抱き締めながら、ブライトへと視線を向ける。
「ブライト、私とアムロの二人にしていただける?貴方もそんなに長くブリッジを空ける訳にはいかないでしょう?後できちんと報告するから。」
「あ、ああ。分かった。それじゃ頼む。」
ブライトが医務室を後にし、しばらくした後、少し落ち着いたアムロがポツリポツリと話し出す。
「セイラさん…ホワイトベースのみんなは…僕の事…気持ち悪かった?」
「えっ?何を言っているの?そんな訳…!」
無いとは言い切れないセイラにアムロは苦笑する。
「僕は…自分の事…気味が悪かった…。敵を撃墜した時にね…聞こえて来るんです。パイロットの叫び声とか…家族を呼ぶ声とか…。その度に、人を殺したんだって思う…。でも僕はまた引き金を引くんだ。自分が死にたくないから…。」
「アムロ…」
「段々そう言うのが聞こえない様に耳を塞ぐ事を覚えて…。自分や仲間が生き残る為には仕方がないんだって自分を正当化して…敵を倒し続けた…。」
「それは貴方だけではないわ!私達も同じよ!」
アムロはゆっくり首を横に振る。
「僕の撃墜数を知ってますか?前にジャブローで《検査》を受けた時に聞いたんですけど、連邦軍内で歴代2位らしいですよ。それもかなりの短期間での結果です。そして、あの時言われたんです。「化け物」だって…。」
「アムロ!!」
「ニュータイプは殺戮兵器の化け物だって」
「アムロ!そんな事ないわ!!」
アムロはまた首を横に振る。
「自分でもそう思う時がある。見えるんですよ。敵が次にどう動くのか、放たれたビームがどんな軌跡を辿るのか。そして、何処を狙えば倒せるのか…。」
アムロは震える身体を両手で抱き締め、絞り出す様に話す。
「どんどん覚醒していく力に恐怖した。そして、ホワイトベースの仲間が…僕を…畏怖の目で見ているのに気づいた時…どうしたら良いのか…分からなかった。」
「アムロ!ごめんなさい!私たちがいけないの!貴方に頼り切って…貴方を追い詰めたから…!」
「シャアは…僕をニュータイプとしてではなく一人の人間として扱ってくれた…。そして父さんや母さんにも見捨てられた僕に…人の温もりを教えてくれた…。でも…ニュータイプとしての僕を求めてるのも分かってた…。」
拳を握り締めるアムロにセイラが悲しげな視線を向ける。
「でも。信じたかったんだ。あの人はニュータイプを…僕やララァを兵器にはしないって…。
せめて…ララァにだけはそんな扱いをしないって!彼女には僕みたいに手を汚して欲しく無かった!!」
「アムロ…」
「それなのにあの人はララァを出撃させた。兵器として扱ったんだ!!そして、彼女は命を……。」
アムロの瞳からまた涙が溢れ出す。
「…けます…。」
「え?何?」
「…シャアと決着をつけます!」
「アムロ!?」
「そうしないと僕は前に進めない!」
そう言うと立ち上がり、涙を腕で拭ってモビルスーツデッキへと向かう。
そして、扉を閉めようとしてふと振り返り、セイラに治療のお礼を述べる。そして、兄であるシャアの命を奪う事になるかもしれないと謝罪の言葉を伝えると医務室を後にした。
アムロのその悲しい決意にセイラの瞳からも涙が溢れる。
「アムロ…!」
アムロはノーマルスーツを身に纏い、ガンダムのコックピットシートに座り大きく深呼吸をする。
そして、システムを起動して艦橋のブライトに通信を繋げた。
《ブライトさん》
「アムロ!?」
《ご心配をお掛けしました。》
「そんな!!お前が無事で本当に良かった!って、おい!もう出撃する気か?」
《シャアと決着をつけます!!出撃許可を下さい!!》
「アムロ…」
ブライトは顔に迷いを浮かべ、ミライへと視線を向ける。
ミライは覚悟を決めたアムロの琥珀色の瞳をモニター越しに見つめ、小さく溜め息を吐く。
「ブライト…アムロは覚悟を決めているわ。止めても無駄よ」
「…分かった…。アムロ、出撃を許可する。但し!!絶対に生きて帰れ!!解ったな!」
ブライトの「生きて帰れ」と言う言葉にアムロは目を見開き、息を止める。
『僕は帰って来ても良いの?』口に出して聞く事は出来なかったが、ブライトの真剣な瞳を見つめ小さく微笑む。
そして《了解!!》と、返事を返すとアムロはホワイトベースを飛び立った。
to be continued.
すみません。続きます!次こそは完結!